プロローグ
カクヨムにもある
五年前、世界は呪われた。
『世界よ、もっと面白くあれ』
24世紀初頭、突然姿を現した謎の組織「クーネル」が主導する、当時の総人口のおよそ半数以上が参加した、これまでの世界ありようを否定する呪いの大儀式は、絶対不変と思われていた世界の法則を歪に捻じ曲げてしまった。
空を泳ぐクジラ、大型船舶を沈めた謎の海洋生物、街を襲ったドラゴンにそれと単身生身で対峙する人間の出現。
神話や伝承に出てきた化け物が地上を闊歩するようになった地球では、これまでの科学では説明が付かない現象が次々と巻き起る。
今まで人類が築き上げてきた歴史、文明が土台から崩れ落ちていくような恐怖に人々はすっかり怯え、世は混迷を極めた。
そんな世界にいち早く適応して見せたのは、金持ちでも権力者でもなければ賢者でもなかった。
それは平時ならば、変人・奇人と称されるような、言ってしまえばキチガイと呼ばれるうな者たちだった。
彼ら彼女らは、自己の中に確固とした世界観を構築をしている。そんな者たちにとっていくら周りが変わろうとも、自分達の主義思想が揺らぐことなどない。
むしろ世界がキチガイよりに変わったことで前より生き生きとしているくらいだ。
時代が追い付いたとでも表現すればいいのか。ともかく世は完全にキチガイの時代となった。
世界が変わらないままだったなら、きっと黒歴史として封印されるはずだった少年の右手に宿る邪悪は現実と化し、格闘漫画の技を再現しようとして骨折までしたのに懲りずに真剣に練習してた青年の技は、いつしか本家に迫る威力を持つようになった。
そして、いい年こいてラノベに嵌ったジジイが考えたオリジナル魔法大系もまた、世界を支配する法則の一つへと昇格したのだった。
薄暗い室内にて無駄にデカいエンターキーの入力音が響いた。それを為したのは、豊かな髭を蓄え如何にも魔法使いといった出で立ちの老人だ。
「……さすがは儂。まさに天才、いや神の如し、いやいやこれもう完全に神越えちゃってるでしょ」
重厚で渋い見た目とは裏腹に、その口調はかなり軽い。あと、そんあ恰好でパソコンをいじくってるのも解釈違いだ。もっと分厚くて豪華な装飾がされた古臭い本を持っていて欲しい。
だが、そんなことは老人――熊田貞志にとって気にするほどの事ではない。
これが人前であれば、散々鏡を見ながら練習したカッコいい表情の一つでも浮かべていたことであろうが何せここは自室で、今は自分と愛くるしいペットのトカゲしかいないのだから。
「ふぅー。しかし、この程度の夜更かしでここまで疲れるとは、儂も流石に歳かのう。まぁ何はともあれ、これでようやくブログが更新できるというものよ」
緩んだ表情でシュガースティックを十本近く入れたゲロ甘コーヒーを飲み干す熊田。
底に沈んだ解け切ってない砂糖が最高に美味と声を大にして唱える彼は、お店では格好つけて絶対にブラックコーヒーを注文する。
熊田が運営する個人ブログ「マーリンのグリモア日記」は、今では世界で最も有名なブログとして世間に認知されている。
内容は彼の考えたオリジナル魔法大系の講座というちょっと痛い感じの奴だ。世界が呪われる以前は、月の平均アクセス数十二程度の零細ブログだった。
しかし、世界が呪われて以降、何故か熊田の考えた無駄に細かいところまで設定された魔法大系が本当に作用すると判明。
それからというもの、「マーリンのグリモア日記」は一躍人気ブログとなりアクセス数はあり得ないぐらい激増した。
しかもこの熊田という老人、なんかカッコいいからという理由だけで八ヵ国語習得している。キチガイが無駄にハイスペック、というありがちな設定を絵にかいたような人物なのだ。
そのため、このブログは八ヵ国語対応している。
まさか、人気のない時代に少しでもアクセス数を稼ごうと行った涙ぐましい努力がここにきて生きるとは、自分でも思っていなかっただろう。
そんな彼の運営するブログも今年で七周年を迎える。
今まではチマチマとネタが切れしない様に小出しにしていたのだが半年前、遂にネタ切れを起こした。
熊田としては、もう十分広告収入で儲けさせてもらったし満足していたのだが、彼に届く脅迫じみたメールの数々。
謎の権利団体や非合法組織のような輩からも圧力をかけられ、熊田はかなりビビり散らかした。
おまけに生活を援助してくれている知人からも続きを強要されて書き始め、先程ようやく完成したのがグリモワール(下巻)である。
苦し紛れで書いたわりに、かなりの出来栄えだとは本人の談。
執筆作業は全て、ネットには接続されていないオフラインのパソコンで行われた。ハッキングされネタをパクられることを恐れたジジイの警戒心が故の行動である。ついでに、そっちの方が何かカッコいい気がするという私情も多分に含まれている。
データをUSBに移しパソコン本体のデータは削除。
わざわざ辺鄙な場所にある自宅に不審者がやってくるとも思えないが、こうした方がより情報の秘匿性が上がると考えてだ。
あと、そっちの方がカッコいいし。こうしたくだらないことに対して努力を惜しまないのが、熊田という老人の性なのである。
そうこうしている間にすっかり朝日が昇る時間になった。
「だめじゃ、もう儂限界。寝る」
そう言って立ち上がろうと腰を上げた瞬間、視界が真っ暗に染まり体の力が抜ける。
「ふぐっ……立ち眩みとは、いやはや儂もそろそろ危ないかのう」
そう言ってる奴ほどしぶとく生き残るものだ。十年後も同じことを言ってそうである。
「っと、USBはどこにやってしまったかのう?」
机を見回してもそれらしきものは見当たらない。
おそらくさっきの立ち眩みで机にぶつかってしまった拍子に床に落としてしまったのだろう。そう当たりを付けて床を見下ろす。
「あわわわ、えらいこっちゃ!」
そして熊田は、衝撃の瞬間を目にする。
「ペッしなさい!それは食べ物じゃありませんよチルちゃん!早く吐き出しなさい!」
熊田の溺愛するペット、おっきなトカゲのチル・バーコン・ハイネス・エル・カーマン・ビスコ・タミオカ・フル・プロード・メメイ・シンセス・ドラゴニア・べモ・エンシェント・ハイポネクス・クマダリアン三世――通称チルが、大事なデータの入ったUSBを丸呑みにする場面であった。
ちなみに二度とトカゲのフルネームは書かない。
「おいおい、マジかよ」
熊田ショック!半年かけて作り上げた大作が水泡に帰した。しかも、よりによって実の娘のように想っていたチルの手で。
データの消失もそうだが、チルのことも心配だ。
クソ田舎でほぼ森の中にある熊田の自宅からでは、もしチルが体調を崩しても気軽に病院まで連れていけない。
恐らくバカみたいになげぇ名前つけた罰があったのだろう。
「さ、最悪っ……」
そこで限界が来たのか、そのまま熊田は気を失ったように眠ってしまった。
後日、精神的ショックと床で寝たせいで熊田は風邪をひいて寝込んだ。
私はクソニートなので転スラとかリゼロのアニメを優先してしまいがちだが、ご本もちゃんと書くように頑張るよ。




