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ミルヒ  作者: ハルマツイブキ
8/13

12月15日

名古屋駅には二つの集合場所がある。金時計と銀時計である。金時計は桜通線に続く階段の正面にあり、階段を登ったら金時計に人がごった返している景色を見ることができる。それくらい人は金時計に集合したがり、みんながそこに集まるので人が集まりすぎて、自分の会いたい人をそこでまた探さなければいけなくなる。電話をかけて手を挙げさせたりする光景もよく目にし、集合場所としての機能を果たしているのか怪しい部分がある。

その一方で銀時計は金より格下のためか人が少ない。が、集合場所としての機能をちゃんと果たしており、名古屋人は金と銀を使い分けている。主に出入口の違いによって使い分けており、銀時計から行くのが近い場合は銀時計を使うことが多い。銀時計のある方は近くに飲み屋がたくさんある。そのため、飲み屋に行くような人たちは待ち合わせとしてよく使うのではないだろうか。

私も銀時計を集合場所として、佐竹さんの紹介の女の子に会った。名は真鍋さんといい、ちょっと垂れ目の可愛い女の子であった。真鍋さんは私よりちょっと遅れて銀時計に来て、私の姿を確認すると笑顔になった。

「待ちました?」

「いや全然、お店こっちだから行こっか」

なんの捻りもない会話を始め、ちょっと話しながらお店に向かった。ちょっと格好つけるため、地図を見ないでお店に向かった。これにどれ程の意味があるのかは私には計れない。たぶんではあるが全く意味はない。

お店に着くと飲み物をお互いに注文し、コース料理が出てくるのでそれを待った。その間も気まずくならないために会話はするのだが、初めて会うので質問が多くなる。真鍋さんは2個下の学年で、国際系の学部に通っており、ゆくゆくは留学をしたいそうである。私とは全く縁のない話で会話を広げられないので、次の質問にどんどん移ってしまい、会話がぶつ切りになっているような気がした。

これは楽しんでくれているのだろうか…と不安になりながら会話していたら不意に真鍋さんから質問が来た。

「彼女は作らないんですか?」

はっきり言ってなぜこの質問が向こうから来たのかは計り知れない。そもそも彼女を作りたいからこうやって食事に誘っているのである。そしてこれはどう返せばいいのかわからない。真鍋さんと付き合いたいなと答えるのはアグレッシブになりすぎている気がするし、付き合いたいけどいい人いないんだよね、と答えるのも真鍋さんがいい人じゃないみたいで失礼な気がする。この質問は誰も得しないのだ。きっと話題に困ったから捻り出した話題であったのだろうがいい展開が思い浮かばなかった。そんなことを一瞬で考え、悩んだ末、血迷って最悪の選択をしてしまったのである。

「実は好きな人がいて…」

ああ、言ってしまった。ここまで口に出してしまったのでもうどうにでもなれと思った。

「何回も振られてるんだけど、それでも忘れられない女の子がいて、その子のことがどうしても忘れられなくて他の女の子に目が向かないんだよね」

真鍋さんは苦笑していた。ではどうして私を誘ったのだろうという気持ちを抱いていることであろう。私もどうしてこんなことを言ったのだろうという気持ちである。しかも初対面の女の子に。私から食事に誘った女の子に。

「その子のことを忘れていい恋愛ができるといいですね」

なんて優しい子だろう。出会うタイミングが違っていたら好きになっていたかもしれないがこの戸惑いの気持ちでは頑張るよ、としか返せなかった。





食事は滞りなく終わり、解散した。しかし困った質問であったとは言えなぜあんなことを言ってしまったのだろうか。真鍋さんは私のことをどう思っていたのかわからないがきっとあの発言のあとはもう腹を立てていることであろう。佐竹さんにも文句をいっているに違いない。なんで好きな人がいるのに私は誘われたの、と。佐竹さんにはもう顔向けできないなあと反省するしかなかった。

清水さんを忘れられない気持ちとそれでもなんとか忘れようという気持ちを中途半端にどちらも持ち続けていたことがこのような結果になってしまったのだと、帰宅後に冷静に分析した。

ああ、忘れてしまうか振られ続けるかの二つしか私にはないのだろうか。

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