第十一話
11.
「分かった」
セルは渋って見せた割には簡単に承諾した。
「は?」
一瞬何を言っているのか分からなかったのは仕方ないと思う。
疑問渦巻く私に、彼はズボンのポケットから紙きれを出し、差しだした。
「登城許可証?」
ピクリと頬が引き攣る。流麗な飾り文字のその下にはその人物が描いたのだろう、癖の無い字でラズフェス=カインとサインがされていた。それには続きがあって、「『魔女の森の後継者』の登城を許可する」と、王印まで押されていた。
「昨日、呼び出されて押しつけられたんだ」
…流石、と言うべきか。性格が悪い、と言うべきか。
「すでに予知されてたって訳ね」
王印まで押されているところをみると、昨日予知したわけでもあるまい。それに王印を押した許可証を発行できると考えるとかなり高い地位にいると分かる。
「だろうな」
わざわざ、王子を使ってこれを届ける必要はなかった筈だ。…嫌がらせなのか、これは。
「預けられてるなら、わざわざ焦らすことないじゃない…」
これは理不尽な言い分だろうか。
「ラズが、お前が『魔女の森の後継者≪真実の姿≫を』見せたなら渡せ、と命令してきたんだから仕方ないだろ」
性格が悪い…権力者は性格が歪むものなんだろうか。しかも、王子に命令とか不遜なんじゃないの?
「見せなかったらどうするつもりだったのよ…」
本当なら、明かしたくなかったのだ。別の方法があったなら迷わずその道を選ぶほどに。
「別の方法で助けたんじゃないか?」
「他の子たちを宮廷魔術師の卵として育てているみたいに?」
それでも良かったのかもしれないが、今後を考えれば考える程、今回とった方法のほうがいいと思えてくる。
「あぁ…でも、アイツも言ってたぞ、これが一番の道だろうって」
あの大魔術師が言うのならそうなのだろう。最善を尽くせたと思って納得しなくてはならない。
「アイツは性格捻じ曲がってるが、間違ったことは言わない」
何より恐ろしいのは私の選択の結果で誰かを不幸にすること。
「だから、自分の選択を信じろ」
優しい、けれど強い瞳に目が釘付けになる。…ただただ、懐かしかった。
後ろに気配を感じ、振り返るとシェリフの後ろに榊が立っている。
「君の意志を聞こうか?」
予知した通りに問いかけると、
「春月さん!!僕をオウセレに行かせてください!!」
一字一句違わずに発された言葉が返ってきた。
彼の未来に幸多かれと祈りながら、
「その願い、叶えに行きましょう」
笑いかけた。
「久しぶりですね、春月」
「相変わらずよね、貴方は」
性格の捻じ曲がり具合といい、と心の中で付け加える。
「その生意気さは健在のようで」
腹は立つが、今回は私が頼みごとをしに来たのだ。頭を下げないわけにはいくまい。
「冗談はこれ位にしましょうか」
私が真剣なのを読み取り、目の前の青年…ラズフェス=カインは言葉を発した。
「君が僕に頼みたいのはそちらの少年の師匠となること、間違いないですね?」
「えぇ。対価には何が欲しいの?」
この男、依頼をすれば必ず依頼料≪対価≫を要求してくるのだ。まぁ、相手に払える程度のものを要求するのだが。
「今回は良いですよ」
「は?」
「今回はもう、貰ったも同然ですし」
ますます意味が分からない。
「とりあえず、貴方に貰うものはこれ以上ないですよ。…それとも、何かくれるんですか?」
「やるものなんかないわよ」
いらないなら別にそれでいい。これ以上深追いして藪を突くことはやめる。
「でしょうね。…では、榊くんは今日からこちらでお預かりしましょう」
榊の記憶は別れ際に弄らせてもらった。私のことを忘れてほしいのもあったけれど、彼の身の安全の為にも必要なことだ。知らないことは他人に話しようがない。
「さよなら」
ちゃんと挨拶して、自分の中で区切りをつける。いつものことだが、寂しくて堪らなくなる。
だけど、
「また来る」
この言葉が私の存在がここに在ることを感じさせてくれる今は、木漏れ日の中にいるような穏やかさを持っていた。
時間かかりました…ちょっと行き詰りまして。ようやく投稿です。待っていてくださった方、ありがとうございます!!これからも精一杯やっていきますのでよろしくお願いします!!




