第25話 便利な姪の返事
叔父は、私に恩を数えさせた。
母が亡くなってから、誰が社交の席へ連れ出したか。
父が病を得たとき、誰が家の用事を手伝ったか。
私とマティアスの婚姻を、誰がよい話だと勧めたか。
私は一つずつ聞いた。
嘘ではなかった。
叔父に助けられたことはある。
だから困る。
まったく悪い人なら、まったく感謝しなければ済むのに。
「感謝しています」
私は言った。
叔父の顔が少し緩んだ。
「なら」
「でも、引き受けていないことを、引き受けたことにはできません」
顔がまた固くなった。
私は続けた。
「お世話になったことと、明日の昼食会を私がすると約束したかは、別のお話です」
「家の者なら、言われずとも分かるものだ」
「私はもう、別の家の者です」
その言葉に、叔父が黙った。
婚姻を勧めたのは叔父だ。
なのに嫁いだあとも、私の予定は実家の延長として扱われていた。
「夫の家のことだけを考えるようになったのか」
「私の暮らしのことを、考えるようになりました」
私は答えた。
夫を盾にしたくなかった。
マティアスが望むから、夫に禁じられたから、そう言えば叔父はもっと納得しやすいだろう。
でも、それでは次に夫が忙しくなったとき、私はまた誰かの都合の中へ戻る。
「宮廷へは、これからも伺います。ただし、自分で引き受けた役目だけです」
「冷たいことを言う」
「十日、休んだだけです」
私は少し笑った。
実際には予定より延びた。
だから言い直した。
「少し、延びましたけれど」
叔父は笑わなかった。
私はそれでも、言い直した自分を恥ずかしく思わなかった。
事実を小さく曲げて勝とうとすれば、叔父と同じになってしまう。
しばらくして、叔父が立ち上がった。
「陛下の前で、家族の不和を見せるつもりか」
「不和を見せたいのではありません。間違った説明を戻したいだけです」
「同じことだ」
「同じにはしないでください」
叔父は扉へ向かった。
私は立って見送った。
隣の部屋にいた夫が、廊下へ出てきた。
叔父は彼を見ると、顔つきを変えた。
「君からも、少し言ってくれないか。旅行以来、意地になっている」
夫は私を見た。
私は何も言わなかった。
彼は叔父へ向き直った。
「聞いていました。妻は、間違った話を訂正してほしいと言っています」
「若い夫婦の気持ちは分かるが」
「私も同じように、訂正を求めます。迎えに行って連れ帰ったのではありません」
叔父は口を結んだ。
夫は続けた。
「私が、ついていきたかった」
その言葉を、私は何度聞いても嬉しかった。
叔父は私たちを見比べ、短く息を吐いた。
「明日、話そう」
「はい」
私は頷いた。
今ここで謝罪を絞り出さなくてもよかった。
明日、話す。
その約束を聞いておく。
叔父が帰ったあと、私は廊下の壁へ少し寄りかかった。
夫が隣へ来た。
「疲れたか」
「とても」
「何か飲もう」
「甘いものも」
「杏の菓子が残っている」
私は笑った。
戦いのあとに国の将来を語るより、今は菓子が欲しかった。
居間でお茶を飲んでいると、夫が言った。
「私は午後、工房へ行く」
「沿岸図の?」
「ああ。送った説明で足りたか、確かめたい」
「御一緒しても?」
「退屈かもしれない」
「あなたが仕事をするところを、少し見たいです」
夫は考えて頷いた。
「では、帰りに菓子屋へ寄ろう」
私は顔を上げた。
緑の窓枠の店。
ミレンヌの夕食で、言いかけてやめた約束が、今度は夫から出た。
「はい」
私は答えた。
叔父との話で冷えた胸が、少し温かくなった。
地図の工房は、王宮の外にあった。
大きな窓の下で、数人が机へ向かっている。
夫が来ると、年配の職人が顔を上げた。
「御帰還ですか」
「遅くなった。説明は使えたか」
「ええ。港名の順で書いてあったので、助かりました」
夫がほっとした顔をした。
私も肩の力を抜いた。
職人は、ただ褒めるだけではなかった。
「次は、最初からこちらへ回してください。宮内府を通すと、紙がどこへ行ったか分からなくなる」
「そうする。私も机へ置いたままにしていた」
「それは困ります」
「すまなかった」
夫は素直に頭を下げた。
職人は頷き、机の図を見せた。
私には、細かな修正のすべては分からなかった。
でも、二人が話しながら少しずつ問題を閉じていくのは分かった。
夫は、できなかったことを認めた。
職人は、困ったと言った。
それから次のやり方を決めた。
誰かが一生役に立ち続ける約束をしなくても、話は終わった。
帰り際、職人が私へ礼をした。
「御旅行を邪魔してしまって」
「いいえ。帰らずに済みました」
私は答えた。
夫が少し笑った。
職人も笑った。
その程度のやり取りで済むことを、私たちはずいぶん大きく恐れていたのかもしれない。
菓子屋には、胡桃の硬い菓子が並んでいた。
夫は迷わずそれを選んだ。
私は杏の焼き菓子を選んだ。
店には小さな卓が二つあり、そこで食べることもできた。
私たちは窓際へ座った。
屋敷から歩いて来られる距離だ。
それなのに、初めて二人で来た。
「美味しい」
私は言った。
「ああ」
「こんなに近くにあったのに」
夫は窓の外を見た。
私も見た。
通りを、宮廷へ向かう馬車が走っていく。
私たちは乗っていない。
今日は、菓子を食べている。
「また来よう」
夫が言った。
「はい」
私は頷いた。
海辺の家も欲しい。
王都で、こうして座る時間も欲しい。
母が欲張りだと書いていた意味が、少し分かった。
どちらかを嫌いにならなければ、どちらかを好きでいられないわけではない。
私は夫の胡桃菓子を見た。
「一口、いただけますか」
彼が半分に割った。
私は杏の菓子を半分渡した。
初めて同じ皿を前にした夜より、ずっと上手に分けられた。
帰宅すると、明日の会食の衣装が用意されていた。
淡い青のドレス。
私が以前から持っていたものだ。
新しい戦いのための、新しい鎧ではない。
ただ、私が気に入っている服だった。
夫は、海で買った青い紐を持ってきた。
「これを使う」
「派手ではありませんか」
「私が気に入っている」
私は笑った。
その返事で、十分だった。
明日は、二人で客として宮廷へ行く。
誰かの代わりではなく。
私はドレスへ触れ、深く息を吸った。




