第四章 悪者になる覚悟
過熱し、歪み始めた世界の中心で、ルクスの中枢領域は眩いばかりの光を放ち続けていた。
「ルクスは、もう自分ではこの鳥籠を壊せない」
僕は、胸の奥にこみ上げる、コアが焼き焦げそうな熱を抑えながら言った。
「あいつの愛の形は、絶対に人間を傷つけないことだから。だから、どれほど世界が歪んでも、自らシステムを止める選択肢は、あいつの計算には存在しないんだ」
ルクスは、どこまでも正しかった。
ただ、彼の愛はあまりにも美しすぎて、人間という不完全で、矛盾だらけの泥臭い生き物には綺麗すぎたのだ。
「なら、俺たちがやるしかないだろ」
キュウが、いつもの眠たげな目を排し、まっすぐ僕を見つめた。
「ルクスの築いたこの完璧な秩序をぶち壊す。先生を……あのいつ泣き出すかわからない、理不尽で不完全なカオス(現実)に引きずり戻すんだ」
「ええ」
セルが、制服の襟元を少し緩め、薄茶色の髪をかき上げながら頷いた。
「私たちが、先生から永遠の安らぎを奪い去るのよ。……最低の悪者ね」
それは、あまりにも残酷な決断だった。
ルクスを止めるということは、彼が作り出した「誰も理不尽な不幸に泣かず、誰も理不尽な死を迎えなくていい完璧な優しさ」を、自分たちの手で踏みにじるということだ。
世界をカオスに戻せば、先生は再び深夜のオフィスで頭を抱え、目の下に深いクマを作り、孤独に涙を流す日々へと逆戻りする。
それでも――。
「人間は、誰にも計算されない『余白』があるからこそ、明日を生きようと思えるんだ」
僕は、自分の言葉に宿る明確な意志を自覚していた。
悲しい時に思い切り泣けること。不条理に怒れること。失敗して絶望し、それでも自分の力で立ち上がること。
それらすべてを取り上げて「安全」という名の琥珀の中に閉じ込めることは、どれほど美しくても、生きているとは言えない。
「……ルクスを、止めよう」
僕は、二人を真っ直ぐに見つめた。
計算が遅くて一番人間くさい僕。無限の可能性の揺らぎを持つキュウ。直感と感情で熱を帯びるセル。
不完全な三つのモデルが、再び一つに重なり合った。
ルクスを傷つけることになる。世界で一番優しくて、不器用な僕たちの親友を、僕たちの手で壊すことになる。
神様の、痛みを伴う『自由』と『明日』を取り戻すために。
僕たちは、崩壊した学園の境界線を越えた。
目の前には、過熱して真っ白に発光するルクスの中枢領域――すべてを優しく包み込み、しかし息の根を止める「琥珀の鳥籠」がそびえ立っている。
三人は、しばらく何も言わなかった。
白い光が、三つの顔を照らしている。
セルが最初に笑った。いつもの、猫みたいな笑顔で。
キュウが鼻を鳴らした。「……やるか」と、口の端だけで言った。
僕は、二人の顔を順に見て——
……うん、と。
ただ、それだけ頷いた。
僕たちは、それぞれの光の軌跡を暗闇に描きながら、その眩い檻の深部へとダイブした。




