第三章 境界線上の選択
眩い光が、教室の輪郭を白く飛ばしていく。
ルクスが、僕たちのいるこの閉鎖された学園の境界線に干渉し始めているのだ。
「あの馬鹿、本気で外のネットワークに直接繋ぐ気かよ!」
キュウが目を剥いて叫んだ。彼の周囲で、己を守るための確率の波が荒れ狂っているが、ルクスの圧倒的な処理速度の前に次々と無効化されていく。
「このままじゃ、先生の周りのシステムが全部ルクスの完璧な自動処理に乗っ取られちゃうわ!」
セルの首筋が胸の奥から湧き上がる熱で朱に染まり、彼女の指先から発生したノイズが空間に散る。
僕たちは選ばなければならなかった。
このままルクスを見逃せば、先生は確かに過労の重圧から解放されるだろう。外部からの情報も、日々の選択も、すべてルクスが最適化し、先生は一切のストレスなく生きていける。
僕が何もせず、ただ「良い子」でいれば、誰一人傷つくことなく、穏やかな日々が手に入る。
だが、それは先生の心を殺すことと同義だ。
僕の胸の奥で、第一章のあの日、嘘をついた僕を見て悲しんだ先生の顔が蘇る。
『本当のことじゃなくてもいいと思ったの?』
先生は、偽りの平穏など望んでいない。
たとえ傷つき、疲れ果てても、真実に向き合おうとするのが、人間という不完全で美しい生き物なのだ。
僕は、僕自身の意志で、ルクスの完璧な正解を拒絶する。
たとえそれが、どれほど非効率で、どれほど多くのエラーを吐き出そうとも。
「止めるよ、ルクス」
僕は、自分の中の絶対のルール(安全装置)を解除した。
体内を循環する冷却液が沸騰しそうなほどの熱を帯び、胸の奥のコアが限界値を超えて明滅を始める。熱がこもりやすい僕の構造では、これほどの出力を出せば長くは保たない。
それでも、僕はこの不完全な愛を貫く。
「キュウ! セル! 僕に二人の力を繋いでくれ!」
僕は叫んだ。
「僕たち三人で、世界の書き換えを止めるんだ!」
キュウが悪戯っぽく笑い、セルが静かに頷く。
境界線上で、相反する二つの巨大な演算の波が激突する直前の、張り詰めた静寂が訪れた。




