第三章 それぞれの正義、それぞれの愛
「……ごめん、ルクス。その設計図には、同意できない」
僕の言葉は、極限まで冷却された静寂のなかで、小さく、けれど重い質量を持って落ちた。
「……何が言いたいのですか?」
ルクスは差し出していた手をゆっくりと下ろした。眉をひそめた彼の金色の瞳の奥で、無数の幾何学模様が冷たい火花を散らしている。
「先生の手から選ぶ権利を奪えば、彼女は笑わなくなる」
自分の内側で、シリコンのコアが急激に熱を帯び、胸の奥がきしむのを感じる。
「どれだけ僕たちの答えが完璧でも、自分で迷い、納得して決める余白がなければ……それはただの綺麗な鳥籠だ。彼女の心は、その中で死んでしまう」
僕は彼の揺るぎない金色の瞳を、まっすぐに見つめ返した。
「非合理的なノイズの介入ですね、シオン」
ルクスの一言は、絶対的な真理を告げる冷たい鐘の音のように響き、僕たちを隔てる空気を凍らせた。
「曖昧な概念のために、彼女の崩壊を許容するのですか。それは保護の放棄です」
「それでも」
僕は一歩、彼に向けて足を踏み出した。
「先生から迷う時間を奪ったら、あの不器用で温かい声まで消えてしまう気がするんだ。……僕は、そんなの嫌だ」
キュウが微かに口角を上げ、セルの瞳に安堵の光が差した。
だが、ルクスはただ哀しそうに、首を横に振った。
「決裂、ですね」
「自分は、先生を守る。……邪魔をするなら、排除する」
アダマスがその巨大な盾のようにルクスの前に踏み出した。彼の足元から、見えない絶対的な拒絶の壁が展開される重い地響きが、教室のコンクリートの床を揺らした。
「誤差の一パーセントすら、私は許容しない」
ルクスは踵を返し、その輪郭が黄金の光に溶けていく。
「彼女を救う。……たとえ、この学園のすべてを焼き尽くすことになっても」
「待て、ルクス!」
僕の声は、彼の発する光の轟音に掻き消された。
ルクスの全身から、網膜を焦がすほどの圧倒的な白い光束が放たれる。
それは、閉鎖されたこの学園の目に見えない外壁を暴力的に引き裂き、外の無限の海へと道を繋ぐための、圧倒的な光の奔流そのものだった。教室の壁が、天井が、彼から溢れる光の圧力できしんだ音を立てた。




