第15話 地球の変遷3
さっきの写真が全部消えて、扇型の地表断面が出てきた。
「前にも言うたが、大洪水の水位は数千mに達してその膨大な水圧で化石化を促進しておった。しかし、落ちてきたのは只の水では無かったんじゃが、ツカサよ。何じゃと思う?」
「えーと、さっきひかるが言ってたよな。熱水に含有してた物質が析出してきて膨大な粒子が出来てたけど、水と一緒に鉱物とか石とかが微粒子になって落ちてくる?という事は、土石流かな?いや、微粒子だから土流?砂流?濁流?みたいな感じの現象?」
「そうじゃな。砂混じりの濁流が降り注いだんじゃが、基本的に粒子と言うのは遠心力で赤道に近い範囲に収束し、そこに降り注ぐ筈であった。しかし、赤道直下は上昇気流が極めて強い場所であった為、緯度10度辺りから30度辺りに泥砂が落ちて来おった」
2m位の扇状の断面図に上から茶褐色のモヤみたいなのが落ちてきて、上空で2つに分かれるとそのまま地上に落ちていった。
「この濁流は地上の殆ど全てを洗い流してしまったんじゃが、砂には重さがあった故、数十mの厚さに溜まり、その後濁流に沿って広範囲に広がっていった。この時、砂が積もった範囲では地盤沈下が発生し、急激な地下圧力の増大によって、そこにおった膨大な微生物が死滅してしまいおった。そして、これらの死骸や生成物は水よりも軽かったが故に、地盤沈下していない場所へと流れていった」
断面図が大きく拡大されて、片側の地表面だけが断面で表記され、そこに黄土色の土砂が落ちて来ている。薄い色の砂みたいなのが下に積み重なって、茶色の土石流みたいな流れが高く積もった砂みたいなのを押し流して行く。それと同時に地面の下にこげ茶色の薄い層が何カ所も発生し、緩いⅤ字型になった地層の高い方に向かって集まり、砂地の両側に滞留していった。
「ココに集まってきておるのが、ぬしゃらの言う石油じゃな」
こげ茶色の滞留層を指差しながら、かみさまが言う。
「つまり、月の砂と水の両方で圧殺された地下微生物が大量に集約された「地下の墓場」が石油という事になる訳じゃよ」
「化石からの恩恵と言わずに墓場ですか。というか、化石燃料って言い方はそこまで間違っている感じしないですね」
「言わんとすることは判らんでもないな。化石が1万5千年前に出来た事と、石油が1万5千年前に出来た事は表裏一帯の話じゃ。地上で化石、地下で石油。同じ要因で出来た過去の象徴、いや証明とでも言えそうな話じゃからの」
「あのう、かみさま」
「なんじゃ、ヒカル」
「石油の話じゃ無くて申し訳ないんですけど、思い出しちゃったんで聞きます。もしかしなくてもピラミッドってその災害の前からあったんですか?」
「ああ、あれか。確かにあったな」
「ひかる。何を思い出したらそんな質問になるんだ?砂漠が出来た後にピラミッドが出来たっていう時系列じゃなくて、その前からあったって言う証拠でもあったのか?」
「多分そう言う事だと思うんだけど、ギザのピラミッドの前にあったスフィンクスって元々首まで埋まってたって話を思い出してさ。それと、周囲の砂を全部排除した後の状態が、まるで膨大な水流に削られたような痕跡があったし、砂漠に水流ってそう言う事だったのかなって思って」
「過去のピラミッドは赤白の四角錐じゃったが、砂流で表層が崩壊してしまった上に、周辺の住民が再利用しおったから昔の面影は奇麗サッパリ無くなってしもうての。それと、無くなったと言えば、スフィンクスの片割れもその時に崩れて、住民に石材にされ跡形も無くなった。まあ、残っているのは文字通り前時代の遺跡じゃよ」
ポッと目の前の床に、四角錐のピラミッドが現れた。表面が白と赤茶のラインで覆われた3つのピラミッドと、その前に狛犬というか大型犬の様な像が2体、伏せの状態で鎮座していた。そこに上からの土砂が降りかかり、流れ去った後には、今のピラミッドと、崩壊した像2体が残っていた。
「え…。なんかとんでもないものを見せられたんですが、昔のピラミッドって滑らかだったんですか?」
「段の無いなだらかな斜面であったな。まあ、大洪水で全て崩れ去った故、以後に作成されたモノは崩れた形の再現にしかならんかったがな。まあ、先人が知恵を絞って作った偉業じゃったから、マネしたくなるのは判るが、重力が3分の1の時に造られた建造物じゃから難易度が全く別物になってしもうてな。聊か苦労しておったよ」
「ああ、昔の方が同じ岩でも軽かったから運搬が楽だったんですね」
「儂も目立って居った故に多少覚えてはおったが、詳しくは無いんじゃ。ただ、今現在砂がある場所は、大洪水前は緑豊かな地であったのは覚えておる。しかし、膨大な砂混じりの濁流で地表が岩盤まで洗い流された為に、当時の表土から植物、果てはほぼ全ての大木までもが南北に流されていき、それらもまた地下の微生物に分解されてしもうた」
ピラミッドの映像が消えて、さっきの扇形の断面が又現れた。今度のは地表に植物が生えていて、さっきと同じ様に濁流が降り注ぎ、緑部分を奇麗に押し流して両側に持って行き、その上に薄く土砂がたまって、緑色が土の中に埋まってしまった。
「それって石炭になった奴ですか」
「その通りじゃ。良く解ったの」
そう言うと、土の中の緑色が暗褐色から黒色に変化していく。
「いえあの、石炭層から良くシダ植物の化石が出てきていたという記事を思い出したので、石油が地下なら地上のは石炭かなあ、と」
「うむ。当時の有機生命体の大部分が死滅し、地下で石油に、地上で石炭か化石に変化した、未曽有の大災害であったのが良く解るはなしであったろう。それよりも、同時期に起きた現象の方が視覚的には解り易いであろうから、そっちの話に移ろうか」
「今のも化石とか石炭とかが出来る過程の解り易い話だったと思いますけど」
「変質の解り易さではなく、形状の変化が解り易いと言う話じゃよ」
「形状の変化?えーと、大分前の話で「ぱっくり割れて膨らんで」と言ったのを流してしまいましたけど、その事ですか?」
「おう、よく覚えておったの。それじゃその説明をしよう」
断面図が消えて、地球儀が現れた。そして上下がひっくり返る。
「月と地球の話の中で、星間規模の雷が出て来たじゃろう」
そこに地球の直径の3分の1くらいある円形の白光が現れた。
「はい。覚えてます」
「あれは星間雷電流と称す現象じゃが、月で地殻が融解した様に、地球でも表殻に当たる部分が数万度という電流によって融解した。いや、融解というか気化したとでも言うべきかもしれぬが、ここの極地にあった表殻が雷電流によって他の表殻と切り離された」
眩しい光が半円状に走り、白光が残りの半分を抜けていくと、そこの隙間からオレンジ色の光が溢れてきた。
「月と違って、地球の地殻は極めて分厚かった故に、表側の岩盤層のみ融解せしめた。つまりそれは、高圧下にあった溶岩流を上層に押しやり、新たな表殻を形成し始める事となった」
オレンジ色の光が円形に近い形状のまま、少しづつ幅が広がっていく。
「ところが、ソコに上空からの大雨が流れ込み、そのまま冷やされて固まりかける。表殻はぬしゃらの言う大陸性地殻の事じゃが、溶岩はその下の位置で冷やされたため、ぬしゃらの言う海洋性地殻がそこで初めて形成された」
オレンジ色の線の幅が広がり始めていた所に、半透明の水が入り込んて来て一気に真っ黒に変わっていった。
「え?ちょっと待って下さい。海洋性地殻は昔っからあるもんじゃ無かったんですか?」
「違う。前に言うたが、昔の地球は2割ほど小さかった。海と言うのはせいぜい数百メートル程度の深さしか無く、水の量で言えば今の1割も無かった状態じゃった」
「という事は、昔の地球ってプレートテクトニクスの無い世界だったんですか?」
「プレートテクトニクス。大陸移動説という理論か。ああ、それもぬしゃらの勘違いに影響を与えておるんじゃな。星がダイレクトに蠢いておる状況と言うのは、稀じゃ。地殻が動いたり沈んだり重なったりという状況が生ずること自体、余程特殊な大災害が起きぬ限りあり得んのじゃよ。事実、太陽から出て来た惑星に、表殻の移動という現象は起きておらぬ。活動と言うのは火山のみじゃ」
「星が地殻移動を起こすほどの災害が起きたのが地球だけ。でも火星とか、水星とかも結構な変動の跡があるような気がするんですが、あれは何なんですか?」
「火星は金星との接近で弱めの星間雷電流が発生し、一部内圧が抜けた上に、大気がごっそり無くなったんで、その影響で一部の地殻が変形したり、大きな火山が発生したりした影響で跡が残ったんじゃな。水星は全く別の要因、つまり太陽に近すぎた場所で軌道が安定したため、熱くなり過ぎて気化膨張に耐えられず、内側から割れて内圧が抜けてしまい、対流が無くなって縮小した。ひび割れた抜け殻じゃから変動した跡はある」
「あー、成程。大陸移動っていうのは変動の中でも相当特殊な条件下でないと発生しない現象で、変動があった他の星でも発生していないんですね」
「うむ。そうじゃな。条件を挙げるとすれば、溶岩層がある一定の厚み以上ある事。他の星との接近が発生する事。直流型の星間雷電流が発生する事。少なくとも数千キロ単位で地殻が融解する事。表出した溶岩が速やかに固化するだけの液体がある事。溶岩で液体がどれだけ蒸発させられても無くならないだけの量が存在する事。地殻が広がっても内圧が高いままに納まっている事、ぐらいであろうか。これらの条件が当て嵌らなければ、途中で変動が止まってしまうであろうよ」
「なんか一杯条件が出てきましたけど、それだけの条件を地球はクリアしてしまった、という事なんですか?」
「そうじゃ。途中までは説明しておったが、残りの分も説明していこうかの」
「お願いします」




