第13話 地球の変遷1
離れた所にあった地球が近くに来て、月がその下に動いてきた。
「あの時を覚えておるのは、膨大な知的生命体が輪廻の輪を潜ったからじゃな。つまり1万5千年ほど前に膨大な命が地球にて失われた。その経緯は先程の雷で繋がった状態から始まる」
月と地球の間に白い光が走る。が、途中でピタリと動きが止まった。
「その前に、月と地球が邂逅する前の状況を述べておこうかの。重力は今の3分の1ほどじゃったが、大気は倍以上あった。故に、生物は遥かに大きいものが多く、ぬしゃらの言う恐竜が闊歩しておった時期でもある」
「ちょっと待って下さい、かみさま」
「何じゃ、ヒカル」
「恐竜は年代測定で6600万年前に絶滅した種族の筈です。その話は1万5千年前の話ですよね?年代測定は間違えないと思うのですが、どうやったらそんなに食い違うんですか?」
「ああ。そう言えば年代の話も後ですると言っておったんじゃったな。では先に、ぬしゃらの年代測定の仕組みを話してみようかの」
「年代測定って放射性同位体の半減期を測定する方法ですよね。変化する要素が無いような気がするんですけど」
「既にヒントは幾つも言うたぞ?判らぬのなら説明するが」
「あ!ちょっと待って下さい!ひかる。宇宙線の降り注ぐ量が極めて少なかったら前提自体が崩れると思わないか?」
「宇宙線の量…って、もしかしなくても物凄く少なかった可能性があるの?」
「今かみさまが言ったじゃねーか。電場が強くて大気が倍あったって」
「えーと、木星とかの重力が小さいのは電場が強かったからで、重力が小さい時の地球は強い電場を持っていて、バンアレン帯とかの影響が大きくなってた上に、大気が厚くて宇宙からの放射線が殆ど入って来なくなったら…同位体に変容する為のエネルギーが地上までやって来ない?」
「そうそう。その測定法って今の大気と電場の強さで地上にある同位体がどれだけあるかを基準にしてるけど、最初の状態、つまり宇宙線をどれだけ浴びてから化石になったかを見直してみたら、初期値が少な過ぎて、測定値がとんでもない昔になるんじゃないか?」
「ええ~?…あ、でも、半減期って、増えてた同位体が一定期間で半分になる事象の事だよな。今と昔の地上の環境が大きく違ったら、初期値が違う事になる?もし、同位体がごく少量しか生成されなかったら、新しくても古い年代になる?」
「まあ、環境が今と全く違う故、初期値を重んじる放射性同位体年代測定で地球の年代を測るのは、初期値が判らぬ方程式に今の値を入れて出て来た的外れの解答を正しい答えだとドヤっている痛い行為に他ならぬ。とはいえ、環境が激変したことを示唆する情報なんぞは、そこいらじゅうに転がってはいるんじゃがの」
「あ、先に進む前に聞いておきたい事があるんですが、つまり年代測定全部が使えないという事ですか?」
「いんや。厄災以後に関しては十分実用の範囲じゃよ」
「という事は、えーっと、炭素だっけ?ひかる。半減期が1万年前後とか炭素以外にあったけ?」
「一応あったよ。ウランとかトリウムとかのがその程度で、もっと短いのにトリチウムとか鉛の奴があったよ。まあでも、使い勝手は断トツ炭素14法だね」
「そうか。となると、1.5万年以上前の情報は基準が狂ってるから、ソレを考慮した考察が要ると。で、それ以降なら、色々な情報が伝記や遺跡なんかから判っていれば、伝記の時期と測定値、両方が使える情報になる、という事になる?」
「そうなんじゃない?今迄の話からすると、口伝とか伝記とか聖書ってある程度史実が載ってる事になるけど、例えば、星も月も無い夜とか、ノアの大洪水とか、天からの雷雨とかって、実際あった事になるんですよね」
「おう。先ずは昔の人の目に映っておった話じゃが、ヒカルの言うた通り、古代の人々は馬鹿正直に見た儘を記そうとしておった。ところが、人の面白い所は、伝承を継承しようとすると、「そんなことが起きるはずが無い」という考えが蔓延り易くなる。そのまま伝えたら、只の曇り、只の洪水、只の雷、という気象として扱われる可能性が出て来た。故に、古代の人は「神様の力」を借りて、後世に伝わる怖さを含んだ大厄災として記してみた。そういう「人知を超えた現象」は、最終的に「神々の戦い」や「神罰」として記録され、ぬしゃらが見聞き出来たという事じゃ」
「じゃあ、ひかるが言ったさっきの現象は、やっぱり人が見た事なんですか?」
「丁度良い事象を上げ連ねたが、その通りじゃよ。邂逅する前の地上には膨大な水蒸気や塩素が大気中にあった。故に、それまでは明るい昼と暗い夜しかなく、それ以後は月やら星やら惑星やら星座やらが大量に現れたが、その間に入るのが大洪水じゃ」
止まっていた光が動き出し、月と地球が近付き始めた。と思ったら、さっき説明されたように、月から液体、多分熱水がロケット噴射の如く噴き出してきた。それが途切れると、赤いマグマが何カ所も出て来て、黒くなって止まった。それと同時に、月が地球の周りを回転しだして、更に膨大な水色の粒子がその内側に入って来た。
「さっきの月の動きを再現しておるだけじゃが、先刻言うた様に、内部の熱水が大量に放出された。そこでヒカル」
「はい?」
「この熱水はどう変化し、どう動くと考える?」
「ええと、その熱水って確か大量の不純物を含んでましたよね」
「うむ。超高温超高圧であった故、はち切れんばかりに入っておったな」
「じゃあ、先ずは温度気圧の低下で析出?再結晶?膨大な粒子の生成と氷塊の生成とかが起きて、引力の強い地球に引き寄せられる。そして、地上に大量の雨と粒子が降って来る?」
「そうじゃな。流れは正にその通り。まあ、全ての熱水が地球に降った訳では無く、月に戻ったのも有れば、彗星の如く蒸発しきったのもある。とはいえ、地上には水深数キロの海が形成され、それが大洪水と称されるようになったんじゃな」
地球から、離れた場所に浮かんでいた大量の粒子が、徐々に地上に近付いて表面に落ちていった。すると、全面が白かったのに、青い部分が大部分を示す姿に変わった。
「それって、見ていたっていう人類迄滅ぼしてませんか?それとも、本当に箱舟を作って、世界中が海になる程の大災害をしのぎ切ったって言うんですか」
「あの時は膨大な輪廻転生があった故、生き延びた方法は解らぬが、助かったり助けられたりしたのではないかえ?まあ、陸上に居た大型恐竜とやらは全滅したがの」
「また聞きたい事を言ってきましたけど、先に助けられたとかいうおかしな説明を聞きたいですね。聖書には神様の助言で箱舟を作って生き延びたという記述がありますけど、それは助けられた話では無いですよね?」
「まあ、ぬしゃらの進化論とかいうのを信じておれば、多分信じたくない話になろうからここまで言及せなんだが、進化とかいう自然現象は存在せぬぞ」
「は?何でいきなり進化論の有無とかいう話になるんですか?助けられた話と進化論の話は全く繋がっていないと思うんですけど」
「進化論とやらも宗教なんじゃのう。いや、創られた存在なのを認めるとアイデンティティが崩壊でもするのか?どうにも拒否感があるようじゃが、ぬしゃらの遺伝子を組み替えて創り出した集団が、全滅は忍びないから一部助けたのではないか、という事を言いたかっただけじゃよ」
「えー。進化論までカルト宗教扱いになるんですか」
「助けられたって…そういう事今更言われても、って感覚ですよ。何ですかそれ。ありとあらゆる過去の事象が、間違った理論で作ったから嘘。間違った測定法を使った時系列も嘘。他者の遺伝子改良とかいう介入があったから進化も嘘。何かもう拠り所を失った風来坊みたいな感覚になっちゃいましたよ」
「そう言われても事実は変えられん。大体なんじゃ、進化論とやらは最新科学で解明すればするほど有り得ない確率になるのではなかったか?ヒカルは混ぜたプールと部品の話は知っておったじゃろうに」
「いやそれは知ってます。竜巻とか渦の中に車とか飛行機の部品だけぶっこんで、それが全部偶然にも奇麗に組み上がって車や飛行機が出来る位の確率の上に、人類は存在するとか何とか。だから特別感があったんですけど、それって逆に不可能をオブラートに包んで、何とか説明出来そうな形に誤魔化しただけだったんですか?」
「そうとも言えるが、最初の流れを潰やしたくなかった、という前提があって故というのも有り得るかの。ヒカルは遺伝子研究の権威とされる博士たちが進化論否定派になったのを知っておるであろう?」
「まあ、それも確かに見ましたし覚えてます。多分ですけど、介入者が遺伝子操作を行って人類を産み出したというのはショッキング過ぎて、否定するだけに留まったんじゃないか、と言う気がしてますね」
「ああ。荒唐無稽と言われそうな発表で飯のタネを失うのが怖かったとも言えるのか」
「まあ、計測が狂う気象変化と、進化に見えてしまう死に方もソレに拍車をかけたのは否めん話じゃしの」
「また話を戻すようなことを言いましたね?ああ、でもなんか繋がりそうだな。えーと、大洪水は大気を減らす宇宙からの雨だから相対速度ゼロで落ちてくる訳で、空中の混ざり物が一掃されて一時的に宇宙線が増えた状態になるのかな?うん。それで計測は狂いそうだ。次の死に方が進化風と言うのは…地層の順序か?えーと、同時期に死んでいても、死に易い生き物が先に大洪水の土砂に埋まり、生命力、機動力が上がっていくとどんどん上の方に埋まる流れになる?そんで、先に埋まった生物には宇宙線が殆ど当たらなくて凄く古い生命だと計測される。上の生物も順に放射線量が増えていくから同位体も増えていって順に新しい生命体だと計測される。そう言う事でしょうか」
「相対速度が低いまま落ちていったのに気付くのは良いが、蒸発はしておったからな?単に飽和してしまった余剰分が全部重力に引かれて落ちて来ただけじゃ。とはいえ、膨大な不純物が大気中の酸素や塩素とくっ付いた所為で、大気の組成が大幅に変化したのも死に易さに直結したのは事実じゃし、それで宇宙線とやらが増えたのも事実じゃから基本的にはその通りじゃよ」
「となると、さっき言ってた大型恐竜とかが兎に角頑張って逃げて、最後の最後まで泥水の中でもがいて生きようとしたから、単純生命とかが下に埋まって、大型の生命体が最後に埋まる。しかも、大体同格の生命体は同時に死に絶えるから、まさに大型化していく進化の過程の如く生命体が死んでいく。つまり進化にしか見えないのに進化じゃない」
「それ、否定する方が難しく聞こえるよね」




