第11話 旗在る流れ、折る二人
「えーと、かみさま?」
「なんじゃツカサ」
「最初に「いつ戻されるかわからない」って言ってたのと、先ず大まかな流れを説明されてる様な気がして思ったんですけど、もしかしなくてももココに留まれる時間制限とか…あるんですか?」
「ほう、よく気が付いたの。ぬしゃらは大きめの狂いじゃったからココに来たが、本来数瞬で戻されるのを儂が隔離しておる。今は接続が切れておるが、繋がったり上位が関与してきたりすれば、多分、速攻転生させられるじゃろうな。異世界に行きたかったのであろう?そういう願望が魂に残っておるぞ」
「いやいや。此処まで話を聞いてて、異世界に行きたいとか無いですよ。最後まで聞かせて下さい。こんな中途半端で飛ばされたら、「あ」」
「フラグ?何の概念か知らぬが、揺らいだから見つかったんじゃろうな」
ひかるの手が光っていた。俺の手も光っていた。見つかった、という事は転生させられるのか?いいや、一か八かだ!
「ひかる!飛びつけ!」
「あっ」
横に居たひかるの腰ごと持ち上げながら数歩前の中空に居るクールビズ風かみさまに向かって飛びついて、腰辺りに2人で抱き着く。と同時に、周辺の物体やら体育館やらがはじけ飛んで、轟音と光に包まれた。
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「いやぁ。なかなかに稀有な体験であったな」
かみさまが言う。いつの間にか金色に光る身体になっている。そして大量のリングが周辺を回っていた。幾つかのリングが立体を形成し、さっきの視聴覚室が現れた。
「先程のは「§〷ж∞」じゃ。儂らの中ではひとすくいと言っておるが、要は散らばった魂を掬いさって強制転生させるでかい網?みたいなもんじゃ」
リングが上から降ってきて、するりと板張りの床の上に立たされる。
「えーと、それが現れたのに転生していないのは、かみさまにくっ付いていたからですか?」
「多分じゃが、リングと少々同化してしまったのと、削ぎ落ちた部分が身代わりになったからじゃろうよ」
「削ぎ落ちた?」
「手を見てみよ」
両手を前に持ち上げた筈なのに、見えない。手先が無かった。のに、痛さが無い。
「「うわっ!!」」
「ほい、大丈夫じゃ」
かみさまが手を頭の上に乗せると、僅かに目線が低くなった感じがして、高校生みたいな服装のひかるが見えた。
「兄さん。高校の時みたいな服になってる」
「そう言うお前こそ、まんまじゃねーか」
「「あれ?」」
「まあ、気にするな。多少魂の記憶を持って行かれたが、末端の分だけじゃ。ココでの分は無くなっておらんから、さっさと続きを説明しようか」
「さっきの現象を思い出しても、そんなに軽く捉えて良い感じはしないんですが、早く聞かないとヤバそうな気はするので、火星から内側の分の説明をお願いします」
「うむ。では説明するが、最初の惑星はどっちか判らん」
「ん?どっち?というのはさっきの点対称位置の惑星のどちらが先なのか判らないという事ですか?」
「うむ。どっちも途中まで同じ大きさで殆ど同じ組成じゃったからな。まあ、仮に壱惑星、弐惑星と言っておこう。これがかなり初期に2つ入ってきて、同期同調し同軌道にて安定した。無論途中に衛星は出来ておるが、先ず2つで安定じゃ」
視聴覚室の机や椅子が無くなって、ソコに太陽系っぽい形状が現れた。ディフォルメしていて、30cm位の太陽の周りに、6本のリングがあって、一番外に縞々の木星が回っている。次の2本には何も無くて、内側から3本目の所に2個の青と白が混じった星が回っていた。
「そして、3つ目に今の火星。4つ目に水星が出てくる。因みに、さっきの説明にあった通り、電場の弱い順に、内側から水星、火星、壱・弐惑星で安定した」
太陽系の模型の一番外にある木星から2つの星が順番に現れ、2つ目の軌道に1つ、一番内側の軌道にもう1つが乗って回り出した。
「あの、火星は地球の外側なのでは?」
「最初に明けの明星、宵の明星と言われておった星は、火星じゃぞ」
「へ?そうなんですか?」
「あ、さっき出たイマヌエル・ヴェリコフスキーの本にあったね。古い神話とか伝承に書かれている明けの明星とかは火星に付いた名前だったって。それで、かみさまが言ってたように紀元前14~15世紀に金星が出て来て、紀元前8世紀位に入れ替わったんじゃなかったかな」
「まあ、大体そんな感じだったか。金星は暫く彗星みたいだったんでな。ぶっちゃけ固まる前に、今の金星の軌道に居った火星に近付き過ぎて、かなりの気体液体を奪っていきおったんじゃよ」
「それ、ロッシュの限界超えなかったんですか?液体奪うって相当ですよね」
「正しく重力で引っこ抜いたのではなくて、電束が繋がったせいで両方の星に星が割れるほどの雷が生まれてな。あまりの高熱に大部分が蒸発したんじゃ。それをごっそり持って行った感じじゃな」
「今の火星が変な表面で大気が薄いのはその所為ですか。で、金星の気圧がやけに高いのは、2つ分の大気を持ってるから。成程。ところで、金星と火星が接近してたりしたら、地球に影響は無かったんですか?」
「あ、兄さん。それは金星が出て来たばっかりの頃、えーと紀元前15世紀ごろの記録にそれっぽいのがあるよ」
「ああ、やっぱりあるんだ。どんな記録だ?」
「えーと、出エジプト記とヨシュア記だったかな?「太陽が1日静止した」とかいう記述」
「ん?それは地球の回転が止まったってことか?」
「多分」
「かみさま」
「なんじゃ?」
「もしかしなくても、ニュートリノの流れが止まったら地球も止まっちゃうんですか?」
「えー?」
「ぬしゃら、媒体の影響力を過小評価し過ぎじゃ。他の星の電場や流れの影響でニュートリノの流れが止まってしまったら、同時に地球も止まるに決まっておろう。例えるなら、洗濯機の中に比重1のスポンジ球体を入れて、水を回したり止めたりするのと同じじゃよ」
洗濯機の話の所で、ポンと空中に1m位の水球が浮かび、中に50cm位の青いスポンジみたいな球体が現れて、水が回ったり止まったりするのに同期して動いていた。確かに、逆回転したら球体も直ぐに逆回りしている。
「では慣性の問題はどうなんですか?よく見たのは、地球の回転がいきなり止まったら、慣性で上のモノは全部吹っ飛ぶとか何とか」
「そんな訳があるか。まあ、問題があるとすれば、地面から離れたモノ全般に多少の影響はあろうがな」
「えーと、飛行機?だとして、一時的に相対速度がマッハ2とかゼロ以下になって直ぐ戻る?大気が安定してしまえば問題は無い?不安定な状態だったら不味い感じ?」
「地面に近ければ近いほど影響は少なかろうが、上空であれば僅かな時間似た状態になるじゃろうな。しかし、影響は限定的じゃ。ニュートリノの動き…ふむ?この言葉は、名前としては正しいのに、どうもぬしゃらのイメージが乖離しておる感じがするの」
「かみさまの言うニュートリノって、ぎちぎちに詰まってる媒体の意味で使ってるんですよね」
「そう言うておろうが」
「でも、どうしても僕達はイメージ的に空間をすり抜けてくる微細な粒子を思い浮かべるんです。これは脳にこびり付いている感じなので、詰まっているイメージになり難いんですよ」
「魂に刻まれている感じか?なら…新しい媒体ではあるから…ネオエーテルとでも仮称しようか。ニュートリノと同じ意味じゃが、硬い気体というぎちぎちに詰まった媒体の言語化をネオエーテルとして新しく連動させてしまえば、そうそう大きな食い違いも起きぬであろうよ」
「あー」
「ああ成程。何か思ったより嵌りますね。エーテルは媒体の意味で使ってましたから、粘度の高い新しい解釈としての媒体、というのは違和感が少ないです」
「ふむ。何と言うか脳内映像化がし易くなった感じでもするのか、理解度は増しておるな。ならば金星の続きじゃが、地球にも厄災を齎したのち、火星を軌道から追い出してソコに納まってからは大きな変化は起きておらぬ。それ以降は平穏そのものじゃよ」
「平穏ですか?重力の豹変があった話が出て来てませんけど、金星の接近でネオエーテルの流れが止まったのが、豹変に当たるんですか」
「急くな急くな。周辺の話と地球の話は別系列じゃ。最初に言うたが、1万5千年という昔に大厄災があった所為で結構な生物がココに来おったんじゃが、その前後から説明せねば流れが判らぬ。まあ、それなりにごちゃごちゃした話になる故、心して聞くがよい」
「あ、はい。お願いします」
「心します」




