第10話 星が生きている、とは?
「では木星が打ち上がった直後から話していこう」
そう言うと、真ん中の球が大きくなり、真っ赤な断面をした1m程の球になって、90度分ぱっくりと割れた。
「打ち上がる。ぬしゃらには想像がつかんと思うが、説明するとすれば直径100万キロのビール樽に直径10万キロ強のコルク栓が嵌っておって、思いっきり熱したらコルク栓含めて大量のビールが吹き飛んでいった様なモンだと思え」
そう言っている横で、コルク栓が嵌ったでかい樽が現れ、下から焙られて栓が吹っ飛んでいく現象が再現され、そのままどっちも消えていった。
「とんでもない話に、規模が小さ過ぎるシュールな現象を当て嵌めないで下さい」
「と言うてもな。シャンパンの瓶が丸っこかったらそっちで説明したんじゃが、コルクが丸っこいモンから飛び出そうなのが思いつかんでな。まあ、察しよ」
「一応、豆鉄砲とレールガンとか言ってた意味は解りました。それで、最初の溶岩塊の状態だとそのままの重力になるから、大量のガスやら周辺の破片を全部引き寄せてガス惑星みたいな見た目になるんですよね?」
「色は今と違うが、まあ見目はガス惑星じゃな。初期は大体真っ白に近いが、重力は今より遥かに強く、回転は今と逆にゆっくり回っておった」
表面の大気が白くなっていて、右から左へ時計回りに流れているのが見えた。
「え?逆回転なんですか?今と同じ回転をしないんですか?」
「上から見た方が判ろうか。ちょっと見てみよ」
切り口が赤道部分に変わって、コッチに向いた。回転している。
「コレは太陽から放出されるときじゃが、放出されてしまえば塊はほぼ直線的に移動する。しかし、火口は回転しておるから、後からの噴出物は塊の前方に当たっていく。すると、必ず逆回転を生ずる」
表面から大きな塊が出た後、噴出物がどんどん前方に当たっていく。そうすると、塊がゆっくりと逆に回り始めた。
「という事は、後から逆方向にあんな高速回転するようになったんですか」
「そうじゃな。とは言え、必然じゃよ。オリオン腕の電束は、当然だが1方向にしか流れぬ。さっきの順流の話になるが、その時は系内に膨大な電子が流れ込む。太陽もそうじゃったが、電子の流れによって内部の対流の基本的な流れが固定される。そうすると、バンアレン帯の話にもあったが、周回する電子は必ず反時計回りの流れを形成し、周辺のニュートリノを引きずって星表面の回転方向を反時計回りにしてしまうんじゃよ」
上から見た感じの塊だけが真ん中に来て、ゆっくり時計回りに回っていたが、周辺に粒子が現れ、それがどんどん反時計回りに流れ始める。徐々に回転が止まっていって、止まってから反時計回りに回り始めていった。
「と言う事は、電場が弱いと回転が遅くて、電場が強いと回転が速い事になるんですよね」
「そうじゃな」
「じゃあ、磁場が弱くて回転が逆の金星は…もしかしなくても、出来てからの時間が短い…とか?」
「自信なさそうに言う事では無いぞ。その通りじゃ」
「「ええ~!?」」
「何故に言うた本人まで驚く。確か300周は回っておらんから、その程度の昔じゃぞ」
「聞き直しますが、それは地球の周回では無いですよね?」
「おっとそうじゃったな。木星の周回じゃよ」
「という事は300周だと3600年弱?え?嘘ですよね?そんなに新しかったら、人類の記録に残ってる事になりますよね?」
「あ。兄さん。記録ならあったよ」
「え!マジか?」
「イマヌエル・ヴェリコフスキーって人の本にあった。世界中の古代記に金星が無いって書いてあって、じゃあ何処で出て来たのかも調べたら、それも世界中の伝記や神話に紀元前15〜14世紀に出て来たって書かれてたって。そんな事ある訳無いって思ってたから、妙なコト言ってんなーで気にしてなかったけど」
「え~?人類の記録として世界中に残ってたってのか?」
「そうそう。木星を表した神様から金星の神様が出てくるとかいう表記が世界中に色々あったってさ。今なら成程って思うけど、当時は有り得ないって思ったしさっきまで忘れてたしね」
「古代の人ってちゃんと真面目に観測していたんだ。と言うか、それって凄く重要な発見だよな?そこから何かしらの研究が始まったりしなかったのか?」
「それは無かったらしいの」
「そうなんですか?」
「ヒカルは忘れておるようじゃが、ちょっと見聞きしておる。その本は1951年発行じゃが、とある宗派の称賛で逆風を浴び、無かった事にされたらしい。儂には偽宗教が真宗教を弾圧した狂信者の愚行としか思えんが、人というのはそういうもんじゃろ」
「なんかもう。すっごい虚無な批判をされた気分です」
「仕方あるまい。とりあえず話を戻すが、木星の変化の仕方は太陽とほぼ同じで、溶岩の対流が電流を生み出すほどにはならず、最終的にこんな形になった。ココが前に言った大砲クラスの火山じゃな」
断面が、さっきの太陽と似た様な変遷を辿り固まった。そしてくるっと回ると、さっき見た写真が立体になった球体が出て来た。球には右下に大きな円形のリングみたいなのがあって、かみさまはソコを指差していた。
「木星の直径からすると、相当大きいですね」
「まあな。デカいだけあって、地球を始め衛星まで含めてほぼ全部がここから出て来たからの」
「え?」
「ぜ、全部ですか?」
「太陽で起きた最初の噴火で吹き上げた表殻を溶岩が覆ってから再度固まったのでな。表殻にあった大量の液体が内部の熱水になったんで、圧力がなかなか下がらん。何十回も相応の噴火があったのに、勢いが衰えない特殊な惑星じゃよ」
「あのう。もしかしなくても、「大赤斑」って火山の噴煙なんですか?」
「あ、そうか」
「大赤斑。ああ、そうじゃな。位置的に合っとる。金属系の混ざり物がある故、赤いんじゃろうな」
外からの写真と、表殻が見える球体が並んだ。どっちもほぼ同じ位置に渦と火山があるのが判る。
「そうだったのか。観測値的に盛り上がってるから、台風とか嵐とかだと矛盾すると言われてたのは、単純に噴煙が沸き上がってる場所だったのを、重力理論で無理矢理説明したからなんですね」
「そうじゃの。流石に盛り上がった不変な台風とか矛盾もいいとこじゃが、それがまかり通ておったんじゃな」
「他の理論が無かったから、選択できなかったというのもありますけど、改めて考えても凄い矛盾ですよね」
「あのー、かみさま」
「なんじゃヒカル」
「木星って探査機が行った記録があるんですけど」
「おう。あるな」
「そこに送り込まれたプローブというのが送ってきた最後のデータが約24気圧、150度だったんですけど、もしかしなくても海っぽいのが無い理由って蒸発してるからですか?」
「ああ、思い出したか。白抜けが無いのは正にその通りじゃよ」
「やっぱりぃぃ。寒い筈の木星が煮沸越えのレベルで金星水星の次に熱い星だとか、冗談にも程があるぅ」
「あー。頭抱えたくなる気持ちは解る。ところでかみさま」
「なんじゃツカサ」
「最初に火山の話をした時、惑星の火山は大砲や機関銃と例えてましたね」
「そうじゃが、あの時の説明じゃとそれは最初の4つのつもりで言っておったな」
「ああ、やっぱり。だとすると、大砲はコレという事でしょうが、機関銃って何になるんですか?」
俺は、表殻の火山の所を示しながら聞いてみる。
「機関銃と聞いて、想像が付かんか?」
「えっ…と、一応思いつくモノはありますけど」
「あるの?」
「何じゃ?言うてみい」
「リング、かなぁ、と」
「うむ。そうじゃな」
言うなり木星の外からの写真が、ほぼ真っ白の写真に変わった。赤道付近に沢山の山がる様に見える写真で、確か土星の説明があったヤツだ。さらにその横に、土星の普通の写真が現れた。
「木星の機関銃は解り難いから、土星で説明する。まあ、写真を見れば一目瞭然。見える山は全部火山じゃ」
かみさまが、横に並んでいる列島に見える部分を指しながら言う。
「えー?」
「ああ、成程」
「ツカサが言うた通り、ここの火山群からリングの素になる火山弾が大量に打ち上がる。しかし、重力圏を超えてここに留まるのはその内のほんの一部だけじゃ」
木星の球体が赤道で別れて、下部分が消えて上部分の断面がコッチを向く。そのまま、大きさが50cm程になり、周辺にリングが現れた。断面にはさっきの木星と同じ層があって、一番上に煙を上げた小さな火山が何十個も並んでいた。ときどき、どこかでBB弾みたいな粒子が上空に飛び出しているのが見えた。
「まあ、初速が速い塊は大体小さいが、ココからココの間にそこそこの塊を打ち上げる能力のある火山の数はかなり多くて、常に増加しておる」
「え?増えるんですか?」
「当たり前じゃ。星は生き物じゃからして、僅か300周程度の昔に金星とやらが打ち出されたように、常に変容しておる。大体、ぬしゃらが居った星も地震に噴火に大陸移動諸々が起きておったじゃろうが」
「いえあの、地球の活動と宇宙にモノを放り出すレベルの噴火を同じレベルで語られましても、ちょっと規模が違い過ぎて混乱します。とはいえ、リングが常に生成されると言うのは何とか理解しました」
「ねえ兄さん。リングって4惑星全部にあったよね。それに、大赤斑が火山なら、時々出来る暗斑も同じって事になるのかな?」
「ヒカルは何故ソコを疑問視するのじゃ?内圧の高い惑星にリングは必須じゃよ。それから色違いの雲は全部噴煙じゃの。噴火があれば変化が生じる。当たり前じゃ。まあ、土星は少々特殊ではあるがな」
「特殊と言うと、もしかしなくても機関銃だけで大砲が無いとかですか?」
「うむ。良く解ったの。指摘の通り、土星はリングを形成するような火山しかない。これは表面温度が木星と100度程違った所為で、膨大な液体が表面を覆い表殻を冷やした結果、高速回転による表殻の亀裂が赤道付近に発生するまで、火山が形成されなかった事に因る」
「という事は、例えばこの土星の何処かに木星クラスの火山が在ったらリングはもっと小さかったとか?」
「そうじゃよ。と言うか、赤道付近に大火山が出来たら、リングは存在せんぞ」
「ああ。全部持って行きますもんね」
「そうじゃ。まあ、形状の不一致は説明したし、大体の流れは大きく変わらんので、4つの惑星の話は此処までにしておく。聞きたい事があるなら、最後まで説明してから改めて聞くがよい」
「あ、はい」




