第9話 億千万の流れ
「とは言え、面白い質問ではあるな」
「答えられない質問なのに、面白いんですか?」
「質問では無い。概念の方じゃ」
「「概念?」」
「ぬしゃら。頭の中に安易に億やら万やらを使った時間を覚えておるようじゃが、そんなデカい時間単位に意味はあるのか?遥か過去、遥か未来を見据える意味はあるのか?一生全く関わって来ぬ時の彼方に言葉を与える意味は何じゃ?」
「えー。考えた事も無かった」
「時の感覚が薄いんですかね。それに比べると、僕らは、どう言えばいいんでしょうか。今の自分の土台を欲しがっていた感じ?人類が生まれた経緯が進化でしか説明できなかったから遥かな時間の進化の果てに此処にいるという確証を必要としていた?うーん。拠り所が時間の重みでしか説明できなかったから、長い時間を重しにして存在の確かさを証明したかったんでしょうか」
「でも兄さん。一応、年代測定では何億年も前の化石やら岩石やらが沢山出てるから、別に必要としなくても、遥か昔から地球は存在する事が証明されてる事にならない?
「エライ根っこの方で回答されたが、聞きたかったのは関連性じゃよ。何億光年とかいう果てから光が届いたからと言って、自分らの星がそれと似た軌跡を辿って来たとかいう自負は何じゃ?年代測定も根本がおかしいとは考えんかったか?さっきも言うたが、環境が違えば、軸もズレよる。進化とやらも後で言及するが、人類は最近出て来た印象しかないんじゃよ」
「あーもー。待って下さい。なんか幾つも不可思議な事を言ってきましたが、一応僕らは150億年くらい前に宇宙が出来て、46億年くらい前に太陽系が出来て、38億年くらい前に大陸が出来始めて、5億年くらい前から生命っぽいのが出来て進化してきた。っていう歴史からズレた事は見聞きしたことが無いんですよ。確かに、今迄の話からすれば、太陽が出来た時期と、木星やらが出来た時期と、地球やらが出来た時期が違うのは、理解は出来ます。でも、納得しないんですよ。人類の歴史が途轍もなく短いとか言われて、はいそうですかと即、基準とか根源とかが切り替わったりしないんです」
「まあ、うん。そうじゃったな。時間に関しては、ええと、多分地球の歴史の説明で色々と判りそうな感覚があるから、それまでは聞かぬようにする。漠然とした質問じゃったしの。儂も順番で説明する故、ぬしゃらも時間軸ではなく、流れで理解しやれ。そもそも、儂の時間の軸と言えば、腕の一回転とかじゃから、ぬしゃらの基準の一回転は速過ぎて難解と言うのが正直な所じゃったしの」
「ひかる。腕の一回転って何だ?」
「オリオン腕の1旋回する事じゃない?2.6万年くらいじゃなかったかな」
「俺達と基準が全く違うのが良く解る説明だな。とりあえず話を戻すなら、惑星が出来た順番を教えて貰う流れですか?」
「そうじゃの。さっき言った通り、内圧が最高に達した時に最も大きな大噴火が起きた」
言いながら、10センチの太陽が1メートルになって、ポンっと15センチ位の塊が出てくる。
「コレが安定出来る電場に納まってしまうまでに、何十周も回った挙句、今の位置に納まる」
塊は、くるくる回りながらガスを纏い、ふらふらと動きながら、大きな電場の中へと入って安定していった。
「そうしておるうちに、再度内圧が高まった太陽で2番目の大噴火が起き、同じ様な経緯を経て、最初の惑星の外側に納まった」
2つ目、直径12センチ位の塊が放り出され、さっきよりもやや早く外の軌道に納まった。
「あの、なんで2つ目、土星は内側に留まらなかったんですか?一回り小さいのなら、内側に納まっても安定しそうなもんなんですけど」
「ああ、そうじゃな。まあ、分かり易く言えば、弾き飛ばされたんじゃよ」
「弾き飛ばされた?内側の電場の大きさだと、星の電場が大き過ぎて安定しなかったから、外に追い出された、と?」
「うむ。そうじゃ。2つ目までは上手く嵌り込んだんじゃが、3つ目が2つ目と交錯したり、4つ目が3つ目と交錯したりしておったな。それで最終的には大きい順に電場に納まった」
「えーと、天王星が土星と交錯して、海王星が天王星と交錯?天王星が2回影響を受けた?ひかる。天王星が大きく違うのって軸だっけ?」
「そうだね。赤道傾斜角が約98度だから、42年毎に昼半球と夜半球が入れ替わる様な、一番変な水色の惑星だね」
「という事は、天変地異みたいな惑星接近が、地球が誕生する前に何回も起きてたって事?よくまあ、ロッシュの限界超えてばらばらにならなかったもんだよね」
「ロッシュ?ああ。接近し過ぎて星が壊れる現象か。地球が出来てから1回あったぞ」
「あ、やっぱりアステロイドベルトってソレなんだ」
「うむ。こんな感じじゃな」
太陽がズレて、木星が真ん中に来た。そして、1センチ位の球と半分位の球2個が並んでいる所の片方に、同じ位の球がぶつかってはじけ飛ぶ。粉々になった粒子は殆どが木星に吸い込まれていった。
「いやいや。かみさま。コレ、両方ぶっ壊れてるじゃないですか」
「何もおかしい事は無かろう?どっちも表殻が崩れた後に潮汐力とやらでほぼ同時に砕け散ったんじゃから、限界を同時に越えただけの話じゃよ」
「でも、今のアステロイドベルトの総質量って月の35分の1しかないんですよ?そんなに大きな星同士がぶつかったら、もっと大量の痕跡が残るんじゃないんですか?」
「言いたい事は判るが、安定して留まる為には電場が要るんじゃよ。でなければ、よっぽど速度方向が合致せねば木星とやらが全部浚っていく事となる。逆に多少速度が合わずとも、電場で安定すれば速度は後から合致する」
「という事は。公転速度は後付け?というか、収まり易い場所に納まってから、後からニュートリノの流れに乗るって事?」
「そうじゃな。と言っても、同じ大きさの惑星であれば同じ軌道で点対称位置に2個乗って来る事もある。まあ、それぞれの状況によりけりじゃの」
「へー。同じ軌道に惑星2つ。それは見てみたかったですね」
「ん?ぬしゃら、知らんのか?」
「何をですか」
「ヒカルの読んだ本に写真があったが、荒唐無稽とされとるのか」
「あっ。え?あれも本当なの?」
「ひかる?何の事だ?」
「ウチの本棚の本の中にあった、ヤハウェとかいう青い星の写真。そうそう、地球の点対称位置にある惑星とか書いてあった。あれ存在可能だったんだ」
「おいおい、ひかる?点対称ってだけで星が見つからない訳が無いだろ?金星やら火星やらの軌道計算で絶対出てくる筈だ。地球と同じなら絶対1Gの重力を…」
「どしたの?兄さん」
「あの、かみさま?」
「なんじゃ」
「もしかしなくても、地球の反対側にあると言った惑星って、物凄く重力が小さいんでしょうか?」
「何故にそう思うた?」
「さっき、重力が豹変したという話は地球と月の所でする、とおっしゃいました。つまり、地球は重力が変わった事がある、と考えれば、恐竜の居た時代は重力が小さかった可能性があります。骨格的に自重を支えられないから、水の中に巨体を沈めたとか言う話を見ましたし、そう考えれば、豹変しなかった星はどうなのかと考えまして。つまり、反対の星は重力が小さい。つまりそれは極めて小さい質量の星に換算されますよね?しかもそれで軌道が変わっても、太陽の影響なのか別の要因なのか、変化が小さ過ぎて変数として現れないのではないか?そう思いまして」
「うむ。よい答えじゃ。反対の星は月ほどの重力しかない。故に数値的には太陽の数百万分の1しか影響を与えぬ。しかもその変動は必ず太陽と重なる。実像観測せねば、存在を証明する事は不可能じゃろうな」
「写真があっても存在してない事になってますし、自分達で観測しないと証明できないんですかね」
「多分無理だろうな。観測そのものは数百万キロ離れりゃ可能でも、そんな場所に行く機器は目的が明確で、目標以外への観測をする余裕は無い。しかも、確か宇宙観測機器は全部あの国の審査が入った筈だ。目的も目標も行程も全てのステップに監視が入るなら、在るのかどうかも解らない場所の観測なんざ不可能だ」
「ぬしゃらにとっては厄介な存在が居るのう。まあ、間違っておろうが、狂っておろうが、それで情報やら金やらがくるくると回っておったのなら問題視せんのが普通じゃ。若しくは、問題視しようとしたら提言そのものが消失するとかも有り得るじゃろう」
「そう言えば、重力に関して凄い発見をした人の成果が消えちゃった話。2つあった」
「ああ、片方は聞いた事あるな。ハチソン効果とかだっけ?」
「そうそう。成果のビデオを公開したら、資料がごっそり盗まれて、機器が粉微塵にされたんだよ。もう一人はロシアの昆虫学者ヴィクトル・S・グレベニコフ教授だね。単独飛行した装置を自分で破壊して、何も残さないで亡くなった。どっちも眉唾物の話にされちゃってるけど、どっちも本当だった可能性があるよね」
「面白いの。片方は偶然、もう片方は自然から成果を得た実現可能な実験じゃな。まあ、ぬしゃらに言うても意味は無いし、理の話ではなく応用の話じゃから本筋からも外れる。ある意味、宗教弾圧の犠牲者みたいな末路であっただけじゃ」
「そう聞くと、凄く残念な話に聞こえますね」
「仕方あるまい?思うに、真実を見定める為の方向性が狂っていた事に最初に気が付いたのがその国の集団だった所為で、後続全てにのミスリードを噛ましたのではないか?自分達だけが唯一の真実を保有する「選ばれた民族」とでも勘違いした挙句の行動と、そう考えればぬしゃらの科学が修正されぬのは、必然だったのかも知れぬな」
「かみさまも辛辣ですね。科学的選民思想というエゴが全人類を間違った科学理論へと導く、という考え方。実に傲慢なあの国らしいから反論が出来ませんけど、何と言うか、生きている内にそういう謎を少しでも解きたかった気分になりましたよ」
「今更じゃな」
「今更ですね」
「さ、切り替えよ。ニセモノのガス惑星とやらを、順に説明してやる」
「お願いします」




