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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第三章 『記憶のゾンビ』
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「二手遅い」

 ノアが斬撃を放ち崩壊させた教会。晴明(おれ)とマラドーナと凜太郎の三人は少しの休憩と準備の後、そこへ向かった。ミシェルは脱出の際に悪魔の力をかなり使ってしまったようで、今も眠ったままである。


 教会へ向かう道中はとても静かで、人の気配をまるで感じなかった。それが不気味に思えたのは、これから『亡骸の王』と呼ばれる吸血鬼と戦わなけねばいけないからだろうか。


 「マラドーナ。もう一度確認しておきますが、戦いが始まったら結界をお願いしますよ」


 「ああ、わかっているよ……」


 凜太郎とマラドーナはそんな会話をしながら、俺の横を歩いている。

 二人が話している結界というのは、人避けの結界のことだ。教会周囲に結界を張り、付近の住民に忌避感を抱かせてできるだけ戦いの場から離れてもらおうと思ったのだ。


 「――ただ、そうなると奇襲という手段が使えなくなるのが不安だね。『亡骸の王』を相手に正面戦闘を挑まなくちゃならない」


 「……そうだな……けど仕方がない。人死(ひとじ)にはなるべく少ないほうがいいし、その奇襲だって成功するかわからないんだから……」


 むしろ、下手に奇襲をしかけて失敗して、周囲の人たちごと死にましたじゃ笑えない。

 マラドーナは俺の返答に「仕方ないか……」と軽くため息を吐いた。そして、目的地である教会にたどり着いた。


 「――来たな」


 中央にはノア・ベルナールが鎮座している。そしてその横にはシスター沙也加が側近のような姿勢でたたずんでいた。


 「……この様子を見るに、私の予想が当たっていたみたいですね」


 「だな。当たってほしくなかったけど……」


 以前、教会に侵入する前に凜太郎はシスターが吸血鬼ではないかと予想していたが、どうやらあたりのようだ。少しばかりつらくはあるが、この際どうでもいい。


 ノアもこれ以上待つ気はないと、おもむろに立ち上がった。血液が収束し、血の武器をつくりだす。

 

 「ノアは俺とマラドーナで相手するぞ……!」


 「じゃあシスターさんの方は、凜太郎よろしくね」


 「了解です。では――」


 合図などなく、それぞれの戦いを開始する。



 ――   *   *   *   *   ――



 魔力の光がマラドーナの手の平から上空へ打ち上げられた。それはある程度昇ると花火のように広がり、結界となって周囲を包んだ。


 「人避けか……無駄な気づかいだな……」


 ノアはそれを見上げたまま動かない。俺とマラドーナはその隙を突いて同時に攻撃を仕掛る。

 俺は腰にさしてある鞘から剣の引き抜いた。これは戦う前にマラドーナが錬金術で作りだしてくれたもの、それをもってマラドーナと共に連撃を叩き込む。

 俺が魔力を込めた斬撃を振るい、ノアがそれを血の剣で防ぎ、そして空いた隙をマラドーナが突く。たたみかける連続攻撃で、ノアに攻撃の隙を与えない。


 「……ひとつ聞こう。貴様ら……何のために人避けの結界なぞ張った?」


 攻撃をしのぐノアの口から、そんな奇妙な質問が飛んできた。何のためになんて、そんなもの決まりきっている。答える気はないが、その真意を尋ねたい気分になった。


 「もし、周囲の人的被害を減らすためなら意味ないぞ。なんせこの街の人間はもう―――貴様ら以外、全員死んでいるのだからな」


 「………………………………、は?」


 シンデイル……死んでいる?  死んでいるとはどういうことだ。意味不明。理解不能。

 脳みそが理解なんてものを拒んでしまう。あまりに唐突な発言に、攻撃の手が止まってしまった。”死”という単語が頭の中でひたすら反響している。


 「どういうことだ!?」


 思考停止してしまった俺に変わって、マラドーナがノアへ聞き返した。彼の様子はおれより幾分かマシなようだが、表情からかなり動揺していることが読み取れる。彼は額から多量の汗を流し、普段は薄ら笑いを浮かべている顔が、見たことないくらいに歪んでいた。


 「貴様らも気づいているだろう、ここ数日、この街を包む異変に……」


 異変、ここ最近の異常気象のことか。


 「その正体は私の異能だ。名前はそうだな……『魅惑領域』とでも呼ぼうか。本来、わたしの異能は他の『亡骸の王』と比べて弱くてな、ひと一人を魅了する程度の力しかない。だが、魔術と併用し、魅了の能力を結界に付与することで結界内にいる人間全員を完全に魅了することができる。そして、この結界にとらわれたものは少しずつ侵食され、死体は屍食鬼(グール)に、生きた人間は吸血鬼に肉体が変化する」


 俺は和人のことを思い返した。変わり果てた姿で出会い、おれが殺してしまった大事な友達ことを。


 「しかしいくつか条件があってな、結界を発動するにはなにかしら核となるモノが必要なのと、魔力を持つ者には効果が出にくいのだ」


 言いながら、ノアは俺たち三人を見回した。


 「あの方のクローン体、そして邪竜の宿主。シスターと戦っている剣士は、どうやら魔力を持っていないようだが、魔剣と貴様らのような魔力持ちが常日頃近くにいるなら大差ないだろう。――だから、『来訪者』に『悪魔憑き』それからマラドーナとか言ったか……そいつらを捕え結界を作動し、残る二人は魅了の影響下にある内に吸血鬼に襲撃させ殺そうと思ったが……どうやら失敗だったようだな、逆に覚醒させてしまった」


 「――まて、さっきお前結界には核が必要だとか言ってたよな……まさか……!」


 「気づいたか、その通り。あの結界の核は『来訪者』アリス・エインズワースだ」


 「――――」


 俺は右腕を突き出し、内にある魔力を開放した。偶然とはいえ、二度の使用で魔力の操り方はわかっている。


 右腕は砲門。

 心臓を起点に、血管を通って右腕に魔力を収束させる。

 そしてもう一つ、砲門を外側に造った。

 右腕から放たれた魔力は魔術陣を通って魔術となる。

 使用するのはかつて厄災と恐れられた邪竜の技。


 あらゆるものを焼き尽くす黒い炎は、激流のとなってノアの肉体を滅ぼs――


 「――その判断、二手遅い」


 言葉と同時、俺の足元から血の刃が放たれた。それは俺の胴をなぞるように回転する。

 俺の視界は赤一色。もはや、自分の血か、ノアの血かわからない。


 ふと、空を見上げてみた。理由なんてない。単に斬り裂かれた衝撃で上を向いてしまっただけかもしれない。





 上では相変わらず、無数の星が輝いていた。

 


 

 

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