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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
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魔獣融合実験 観察記録

 魔獣融合実験 観察記録

 この実験は魔獣『邪竜ニーズヘッグ』の死骸と人間の肉体を融合し、魔力を得られるかどうかを観察した記録である。


 一日目

 全20体の被検体を用意。それらすべてにニーズヘッグの血液を投与。投与後2時間が経過したところで肉体が拒否反応を起こす。


 二日目

 食事にニーズヘッグの肉を混入。血液の投与よりも強い拒否反応を起こす。


 三日目

 血液の投与と肉を与え続けた結果、凶暴化したものが6体、衰弱したものが11体、異常の見られないものが3体に分かれた。

 以降、凶暴化したものをA、衰弱したものをB、異常の見られないものをCと表記する。


 四日目

 Aの内4体が突如苦しみだし死亡。

 Bは全滅。

 Cは衰弱の兆しあり。


 五日目

 Aの残り2体の死亡を確認。

 C衰弱し始めた3時間後に2体死亡。

 残る被検体はCの1体のみとなる。


 六日目

 残る1体が施設を逃亡。しかし、衰弱具合から見て今日中には死亡するものと思われる。


 七日目

 新たな被検体を用意し再度、魔獣融合実験を開始。

 並行して逃亡した検体の捜査を開始。本日は発見できず。


 八日目

 サンジェルマン伯爵のクローン実験が成功。これに伴い、魔獣融合実験および、逃亡した個体の操作を打ち切りとする。



 ――   *   *   *   *   ――



 「………驚いたな……まさかあの実験の成功体がいたなんて………」


 誰かがモニター越しに呟いた。現在、機関の幹部たちは大通りで起こった凜太郎と晴明の戦いの映像を見終わったところだった。呟いた男はこの会議を統括する幹事だ。

 

 「そうだな……てっきりもう死んでると思ってた……」


 「にしても、相変わらず画質が荒いな……もう少し近くで撮れなかったのか?」


 「勘弁してくれ……これ以上近づいたら気づかれちまう」


 彼らは晴明の内から出てきた邪竜を見て、興奮冷めやまないまま会議を始めた。なにせ、過去に失敗したと思っていた実験の成功体がこうして目の前に現れたのだから。


 「――しかし本当にそうなのか? 見たところこの少年は高校生くらいにだぞ……魔獣融合実験は20年以上も前のものだろう? その時の実験体と年齢が合わないと思うんだが……」


 「おそらく、逃亡した実験体が子供を作り、ニーズヘッグの力が子へ遺伝したのだろう」


 「ああ! なるほど。――だとしたら興味深いな……魔獣の力が遺伝するなんて!」


 「どうする? 新たな刺客を送って、あの少年を(さら)うか?」


 晴明の存在を確認し、全員が思い思いの言葉を口にしながら今後どう動くか検討していると、この会議に新しい人物が参加してきた。


 「ん? 誰か入って来たな」


 「……妙だな……今日は全員揃ってるはずだぞ――何者だ?」


 疑問を覚え、モニターに記載される名前を確認するが当然本名が書いているわけがなく、そこにはたった一文字『S』というイニシャルがあるだけであった。少し間を置いて『S』がしゃべりだす。


 「お! ―――繋がった! よかったー、私こういうのに慣れていないから……だいぶ手間取ってしまった」


 「誰だ?」


 皆が聞き覚えの無い声に困惑する中、一人が警戒に満ちた声で問いかけた。


 「ああ! そうだね自己紹介は大事だ。君たちは私のことをよく知っているはずだけど、私から名乗ったことは無かったからね――この場を借りて名乗らせていただこう!」


 なんとも芝居がかった異様なハイテンションに困惑がさらに広がる。それにしてもこいつはいま妙な事を言っていた気がする。我々がよく知っているとはどういうことだろうか?

 疑問を覚えつつ、この場にいる全員が嫌な予感に身を固くする。


 「――私の名前はサンジェルマン! 偉大なる『錬金術師』にして、『魔術師』であり、世界を旅する『冒険家』であり一方で、『宝石商』なんかもやっていた……――『吸血鬼の祖』である」


 「―――なに!?」


 一瞬の空白、男の名前を訊いて頭が真っ白になる。その後すぐ疑問と焦燥が沸き上がり、幹部全員が騒ぎ立てた。


 「どういうことだ!? なぜ貴様がこの場に……!?」


 「それ教える必要あるかい? 方法はどうあれ私はもうこうしてこのつまらない会議に参加してしまってるし、仮に知ったところで対策なんて立てようがないんだから」


 「ふ、ふざけ―――」


 「あ! そうそう、君たちが頑張って作った世界各地にある研究施設のことなんだけど――あれ、私が全部破壊しちゃったから!」


 「――――は??」


 「いやだから、研究施設を全部破壊した」


 なんでもないことのようにあっさりと口にされた言葉に、男は絶句する。いそいで施設に片っ端から連絡を取ろうとするが、何処にも繋がらなかった。


 「ほ、本当にすべて破壊したのか……」


 「だからそう言ってるじゃないか」


 開いた口が塞がらない。男はサンジェルマン伯爵という得体のしれない存在に心の底から恐怖した。


 「これから君たちを一人ずつ殺していくから! よろしくね~」


 サンジェルマンはその言葉を残して、モニター越しに行われる会議から退出する。

 幹部たちは全員、絶望して一言も発せずにいた。

 


 2026年1月16日 

 この日をもって異世界機関は壊滅する。



 ――   *   *   *   *   ――



 サンジェルマンが会議に参加する少し前―――。


 「―――だれ?」


 左右で異なる色の目を持つ少女がいる。彼女は血を吐きながら、爆発によって燃え盛る研究所の中でそれを目撃した。

 現代日本ではあまり見かけないシルクハット、燕尾服、年季の入ってそうな長い杖、腰まで届きそうな長いマフラー、ごちゃごちゃした装飾。

 そんなでたらめな格好をした男――サンジェルマン伯爵は汚れ一つなく、爆炎の中をを悠々と進んでいき、死にかけの少女に歩み寄った。


 「私の名前はサンジェルマン、とある少年からは『詐欺師』と呼ばれている。君は?」


 「私は――-No.11です」


 『詐欺師』改めサンジェルマンはしばらく考えた後、ある提案を少女に持ち掛ける。


 「少女よ……君を吸血鬼に変えてあげよう」


 「吸血鬼?」


 「そうだよ! ――このまま死ぬのとどっちがいい?」


 少女は思った。まるで悪魔の囁きだと。しかし、たとえそうであったとしても、少女からすればその囁きに乗るしかない。なぜなら死にたくないから――。


 少女は今にも消え入りそうなほどか細い声で、決まりきった答えを口にする。


 「死に、たくない……。このまま終わりなんて………嫌だ!!」


 目と目が合う。少女の生に執着する瞳とサンジェルマンの虚ろな瞳が交差した。しばらくの沈黙の後、サンジェルマンは少女の柔肌へ手をかざす。

 そこから魔力が流し込まれ、少女の体は人から吸血鬼へと作り変わった。


 「―――ようこそ、新たな同胞」


 

 

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