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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
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『星』の魔術師

 圧倒的な光が視界いっぱいを埋め尽くす。アリスが繰り出す星の連撃に、マラドーナは手も足も出ず打ちのめされた。あまりにも規格外なその魔力は、アリスの美しい容姿も相まって女神と見まがうほどの威光を放っている。


 「――ハハッ! 本当に馬鹿げてる! サンジェルマンといい、君といい、異世界の人間てのは皆こうなのかい!?」


 マラドーナは笑った。自分が追い詰められているという状況がたまらなくうれしいと言うように。


 「いいよ。存分に撃ち合おう!」


 マラドーナは巨大な魔術陣を発生させる。アリスも魔術陣を展開して内にある魔力を高める。魔術陣の向こう側でお互いの姿を確認し合い、静寂が空間を支配した。 ―――魔力がうねる。


 「ようやく願いが叶うよ」


 「いいえ……あなたの願いはここで終わりよ!」


 魔術と魔術が衝突する。それは火花を散らし、周囲のすべてを飲み込んだ。長い攻防の末、押し勝ったのはアリス。

 マラドーナは安らかな笑みを浮かべて、その光を受け入れた。


 「……ありがとう」



 ――   *   *   *   *   ――



 「…………なんで………」


 マラドーナは目が覚めて自分が死んでいないことを理解した。あれだけの魔術をその身に受けて、死んでいないなどありえない。だとすると、マラドーナを生かしたのは――


 「起きたわね」


 アリス・アンダーソンしかいない。彼女はマラドーナが目覚めたのを確認すると、地面に座りこむ。


 「いいのかい? 僕を生かして」


 「ええ! 私は貴方の自殺に付き合うほどお人好しじゃないし」


 「! 気づいてたんだ」


 「私を殺したいという割に、追い詰められて喜んでいるように見えましたから……それで本当の目的は自殺で、私を殺すというのは私に本気を出させるための嘘だと思いまして」


 「……そっか……けど、半分正解って感じかな。確かに自殺一番の目的だけど、君に思うところがあるのも事実だし」


 かつて、マラドーナが研究員を一人殺害して以降、幹部は全員姿を隠した。実験体という身分に過ぎないマラドーナでは幹部がどこに姿を隠したかまで突き止めることができない。そうなった場合、彼らが嫌がる方法で復讐しようとマラドーナは考えたのだ。


 ただ死ぬのではなく、自分たちが作った最高傑作が異世界の魔術師によって壊される。それが、機関にとって最も嫌がることだと思えたから。


 マラドーナは、アリスはもとよりサンジェルマンにだって恨みは抱いていない。彼が復讐したいのはマラドーナを無責任に生み出し、殺し合いをさせた機関であって、彼女たちには本当に多少思うところがあるだけで、マラドーナにとっては単なる異世界の住人に過ぎない。


 (まあ結局、殺すのも殺されるのも失敗しちゃったわけだけど……)


 アリスに自分を殺してもらうという目的は失敗に終わり、マラドーナはこれからどうしようかと頭を悩ませる。そこで――


 「マラドーナ……貴方……いえ、あなた達三人とも私の伯爵探しに協力しない?」


 突如飛んできたアリスの提案に、マラドーナは目を見開いて驚いた。


 「……正気かい!? ついさっきまで命のやり取りをしていた相手を生かしたうえ、一緒に協力し合おうなんて……」


 「もちろん! 吸血鬼を相手にするうえで戦力が多いに越したことはないし……まあ、嫌だと言うのならそれでも別に構わないわよ。――その場合は、二度と攻撃できないように魔術で『契約』を結んでもらうから」

 

 マラドーナは目を白黒させながらアリスの提案に乗るべきか黙考する。およそ30秒ほどたった後、面倒くさくなったのか投げ出すように地面に寝転がり、アリスの提案に了承した。


 「わかった……君の提案に乗るよアリス・エインズワース」


 「では上に向かいましょうか。晴明が待っている……」


 マラドーナがアリスの提案を聞き入れると、アリスは軽く笑みをこぼしながらそう言った。



 ――   *   *   *   *   ――



 地上。


 「お待たせ! 提案、聞き入れてくれたわよ!」


 アリスたちが地上に上がると、そこには魔術で拘束される凜太郎とミシェルを監視する晴明がいた。晴明たちは傷が完全に癒え、三人とも目を覚ましている。


 「お疲れ様です、晴明」


 「やあ、凜太郎! ミシェル! 二人とも彼一人に負けたのかい?」


 アリスが晴明(おれ)をねぎらってくれる横でマラドーナは拘束されている二人をめちゃくちゃ煽っている。それを受けてミシェルは申し訳なさそうにし、凜太郎は「あんたも負けただろうが!」とキレた。


 ちなみに、なんで俺を含めた三人の傷が完璧に癒えたうえ、凜太郎とミシェルが魔術で拘束されているのかというと――アリスはマラドーナを倒した後すぐに地上に上がり、気絶した俺たちを治療したからだ。その後さっさと凜太郎とミシェルの二人を拘束し、目覚めた俺に監視するように命じて――といった感じである。(二人の名前は拘束した後、マラドーナが目覚めるまでの待ち時間に聞いた)


 マラドーナが目覚めたら同盟の提案をするという話は聞かされている。だから二人とも、拘束を解こうとせずマラドーナが目を覚ますのを待っていた。


 「それで――マラドーナ、彼らと組むのですか?」


 ひとしきりキレた後、凜太郎は落ち着いた様子で尋ねる。


 「うん。もう戦う気も失せちゃったしね……」


 マラドーナはそれを静かに肯定した。敗北した時点で殺されても文句が言えない立場だったのだから、断る理由なんてないと答える。


 「……アリス! そろそろここから立ち去った方がいいんじゃないですか?」


 現在の時刻は午前4時ごろ、陽が出るにはまだ時間がかかるが、活動し始める人がいてもおかしくない時間帯だ。人避けの結界がはってあるとはいえ、万が一という可能性もあるので早めにこの場から立ち去ろうと思った。

 

 「そうね……私は結界を解かなくちゃだからあなた方は先に帰っていいわよ。シスターたちにも私から連絡をしておく」


 アリスはそう言って凜太郎とミシェルの拘束を解くと、スマホを取り出して電話をかけ始めた。この後いろいろ話をしなきゃなので、とりあえず晴明(おれ)の家に案内しよう。


 「ん?」


 そこで、俺の視界に妙なものが映った。バリケードの向こうからこちらにやってくる人影が見える。


 (おかしいな……アリスの結界はまだ機能してるはずなんだけど……)


 アリスの様子を伺うと、彼女はスマホに耳を当てながらなかなか電話がつながらないことに少し腹を立てている。人影はどんどん迫ってきてその姿がはっきりと視認できる距離まで近づいてきた。


 「あれは……教会の神父さんだ!」


 顔はうつむいていて良く見えないが、神父服を着ているので間違いない。しかし妙だ。彼は何やら、ゆらゆらとおぼつかない足取りでこちら近づいて来る。しかも、神父服がやけにボロボロになっている。


 ざりざりと、頭の中で砂がかき混ぜられているような不快な感覚がした。


 「アリス!!」


 嫌な予感にさいなまれて、アリスの名を呼んだ。彼女もこちらに近づいて来る神父の存在に気が付く。アリスは強化魔術で視力を強化すると、神父の様子を注意深く観察した。


 「――――。……四人とも、戦闘態勢をとって」


 アリスの言葉には諦めと、憐れむような感情がこもっているような気がする。


 ざりざりざり。


 嫌な予感がどうしても消えてくれない。


 気が付くと、神父は声が聞こえるほど近くまで来ていた。


 「ああ……ああああぁぁぁあああああ…………」


 聞くに堪えない呻き声、神聖な神父服は血と泥でボロボロになっている。そしてなにより、彼の肌はぐじゅぐじゅと腐り落ちて腐臭を放っていた。


 「気を付けてんさい。あれは―――――屍食鬼(グール)よ!」


 

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