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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
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目覚め その2

 暗い海の底へと晴明の意識は沈んでいった。


 海の底から代わりの何かが浮上してくる。


 沈む晴明に反比例して、それはぐんぐん上昇する。


 晴明は気づいた。その上昇するモノの口が歪んでいることに。――まるで、「ようやく出られた」と歓喜しているようだった。


 それは光沢のある肉体、天を遮るほどの翼を広げ、どんなものも噛み砕く凶悪なあごを持つ。



 ――()は邪竜ニーズヘッグ。この世界では確認されない幻想の王。かつて剣聖に滅ぼされた厄災にして破滅の化身。



 ――   *   *   *   *   ――



 「――――」


 全身から魔力を放出する晴明を見て、凜太郎はあることを思い返した。


 『魔獣融合実験被検体リスト  No:17夏村明(なつむらあきら)


 それはマラドーナが見せてきたリスト、そこには夏村晴明によく似た名前が記されていた。


 (最初見たときは単なる偶然だと思っていた……しかし――)


 認めざるを得ないだろう、なぜなら今、凜太郎の目の前にはその答えがいるのだから。


 (なんの魔獣を融合させたかまでは分からないが、放出される魔力から考えてかなりの強敵――!)


 全身に意識を行き渡らせ、神経という神経を尖らせる。

 しかし、ニーズヘッグはあざ笑うように凜太郎の視界から消え失せた。


 「―――くっ!」


 地面が爆ぜる。おおよそ人間の力とは思えないその一撃を凜太郎は間一髪で避けることに成功した。


 一度納刀し再び抜刀。魔剣から放たれる獄炎が晴明だったものの肉体を包み込む。

 しかし、そんなもの効きやしない。ニーズヘッグは突進による風圧だけで炎を吹き飛ばし、凜太郎の眼前にまでせまる。凜太郎の顔をわしづかみにすると、地面に強く叩きつけた。


 「がっ………」


 地面は大きくえぐれ、クレーターを作り出した。叫び声をあげる余裕すらない。意識を失わなかっただけで十分奇跡だ。しかしそんな奇跡は何度も続かない。ソレは凜太郎を投げ飛ばすと、彼に向けて照準を合わせた。


 ニーズヘッグの前方に魔術陣(マジックサークル)が現れる。

 

 凜太郎は知る由もないが、ドラゴンという種族は総じて知性が高い。それこそ、人間と対話し魔術を使いこなせる程度には。


 (これは死んだな……)


 凜太郎は他人事のようにそう思う。

 刀を握る力はなく、顔を上げることすらできない。


 邪竜の凶悪さがにじみ出た魔術陣から、魔剣の火力を遥かにしのぐ黒炎が放たれる。


 プツン、と。


 ここで、凜太郎の意識は断線した―――――。



 ――   *   *   *   *   ――



 (……外した……)


 ニーズヘッグは倒れる凜太郎を見ながらそう思った。黒炎は凜太郎のの真横を通過しする形となった。


 (久々で感覚が鈍ったか?それとも……この体の持ち主に邪魔されたか……)


 ともかく、失敗知ったなら仕方がない。もう一度試してもいいが、あまり時間をかけて夏村に起きられても面倒なので、今度は直接殴り殺すとしよう。

 ニーズヘッグは気絶して目を覚まさない凜太郎のもとへ行くと、その体を片手で持ち上げて再び地面に叩きつけようとする。


 「―――!」


 それを後ろからの不気味な魔力によって中断した。アリスによって開かれた穴からフードを被った少女が顔を出す。


 (悪魔憑きか……どこの悪魔か知らんが、厄介な……)


 予定変更。まず先にアイツを殺す。ニーズヘッグは規格外の速度で近づくと、”グシャッ”と少女の胸を貫いた。そこから滴るは真っ赤な血と――。


 (――心臓がない!)


 驚愕と同時、貫かれた個所を中心に少女の体は泥のように溶けだし、周囲のすべてを侵食する。泥が大通り一帯を侵食すると周囲は濃霧に覆われていた。霧の向こうからは悪魔が(わら)う幻覚が見える。


 『―――さあ、ドラゴンさん。良い子は眠る時間だよ―――』


 「っ…………!」


 何かに攻撃をされてニーズヘッグは後ずさる。攻撃してきたのはオオカミだ。他にも、ヘビ、トラ、クマと言った猛獣や、蜘蛛やムカデなんかの危険生物もいた。

 これはすべて魔力で作られたものだが、それ故に、ニーズヘッグにとっては本物よりも厄介だった。さらに周囲を覆う霧。


 (我の意識が沈んでいくのを感じる……思ったよりも早い。この霧のせいか!)


 早くこの霧を作り出した張本人を見つけて殺さなけねば、夏村の意識が浮上しかねない。しかしそれをするにこいつらが邪魔だ。

 本能をむき出しにして、互いににらみ合う。オオカミたちは一斉に動き出し、血みどろの闘争を開始した。


 ニーズヘッグが腕を振るう。たったそれだけで多くの生物がぐちゃぐちゃに吹き飛んだ。しかしこれらは単なる魔力体、壊されてもすぐに再生し、増殖した。猛攻はひたすら続き、ヘビがニーズヘッグにかみついた。ニーズヘッグはそれをすぐに引きちぎり、違和感に気づく


 (なんだ?こいつにかみつかれた瞬間、意識が飛びかけた!?)


 どうやらニーズヘッグの意識を鎮めることに特化したこれは、ニーズヘッグ……ひいてはこの肉体の本来の持ち主である夏村晴明を殺すつもりがないらしい。

 そのことに対してニーズヘッグはひどく苛立ち、魔力による大爆発を引き起こした。

 

 「………ちっ」


 邪竜は不愉快だと吐き捨てる。霧は晴れ、泥も消失したがフードの少女が背中に触れそこへありったけの魔力を流し込んだ。

 邪竜は最後の嫌がらせとばかりに、腕を大きく振るってフードの少女を吹き飛ばす。


 まもなく邪竜は意識を失い、地上の戦いは終わりを迎えた。



 ――   *   *   *   *   ――


 少し時間をさかのぼり、ニーズヘッグが目覚めた直後。


  「「――――!」」


 マラドーナとミシェル、二人がそれに気づいたのはほぼ同時、自分たちの真上にバカでかい魔力が出現した。


 「ミシェル!」


 マラドーナはミシェルに上の様子を見るように指示を出す。ミシェルは”こくり”とうなずいて、地上へと飛んで行った。それを見届けた後、マラドーナは土煙の中を進んでいった。理由はアリスの生死を確認するため。


 (【空亡】は間違いなく直撃したけど、相手は異世界から来た本物の魔術師だ。用心にこしたことはない)


 風魔術で土煙を一掃する。視界は開け、マラドーナはあたりを見回した。


 「……いた」


 壁に寄りかかりる形で倒れているアリスを発見する。彼女の体はところどころ焼け焦げているが、息はまだある。

 マラドーナは止めを刺そうと、右腕に魔力を集中させた。


 (? 気のせいか? 今、微かに笑った気が……)


 違和感を覚えるが殺してしまえば関係ない。凜太郎のことも気がかりだし、さっさと済ませよう。と、マラドーナが右腕を突き出したその瞬間――。


 「――っ!」


 アリスが目を見開き、マラドーナめがけて魔力弾を放つ。マラドーナはそれを間一髪で回避し、それによって照準をズずらしてしまいアリスを仕留め損ねた。


 「驚いたな。まさかこんな騙し討ちをするとは……よっぽど余裕がないんだね」


 「驚いたのはこっちよ。まさかあれほどの大魔術を使えたなんて……」


 「………」


 マラドーナは訝しんだ。体はボロボロで、劣勢になっているのはアリスのはずなのに彼女からはどこか余裕を感じられる。


 「マラドーナ、正直、あなた一人にここまで追いつめられるとは思っていなかったわ」


 「それはありがとう。――魔術師に褒めてもらえるなんて光栄だね」


 「ええ、本当に。称賛に値するわよ」


 皮肉を込めた言葉を素直に受け取り称賛され、マラドーナは少し気が抜ける。しかしそれは、この後起きる衝撃によってすぐに引き戻された。


 「ここからは本当の『奥の手』をおお見せするわ!」


 「――なに!?」


 驚いたのもつかの間、アリスから莫大な魔力が解き放たれる。


 それは雲よりもはるか遠く。暗闇の中、無数に輝く『■』の光。

 幾千もの輝きをその身に閉じ込めた魔術師の、奥の手。


 「そういえば……あなたに私から名乗ったことはなかったわね」


 輝きは収束し、密度を増す。

 アリスの衣装がさま変わりする。魔力で編まれたローブが身を包み、右手には天体を模したような杖。まさに皆が想像するような魔術師の姿となって言い放つ。


 「私はアリス・エインズワース。異なる世界よりこの日本へ渡ってきた――『星』の魔術師よ!」



邪竜は本来めちゃくちゃ強い化け物ですが、一度死んだうえに、肉体が人間のものとなり、さらにミシェルによるデバフを受けまくっていたので、本来の力の100分の1も出せていませんでした。

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