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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
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目覚め

 武器と武器が衝突する。

 それは見惚れてしまうほどの剣舞だった。

 晴明が斬撃を見舞えば、凜太郎はそれをあっさりと受け流し、刀の峰で腕や足などを意識が飛びそうになるほど強く打たれる。そんな出来事をもう何回も繰り返した。


 「――終わりですか」


 凜太郎の足元には、晴明がいた。


 「ここまでやられて意識が飛んでいないのは称賛しますが……あなたの負けです。マラドーナはあなたのことを気に入ってるので、なるべく殺したくありません。――そこで大人しくしていなさい」


 晴明は額から大量の汗を流しながら、倒れそうになる体を必死に抑えている。


 (強い。あの廃ビルで戦った時点でわかってたことだけど、こいつ……刀の扱いがとてつもなく上手い)


 西洋の剣と東洋の刀。その違いはあれど刃物の扱いならそう簡単には負けないと晴明は考えていた。しかし、ふたを開けてみれば晴明が一方的に押されている。

 善戦できたのは最初だけ、手加減された状態でこのザマである。もし凜太郎が殺す気だったら、晴明はいったい何度死んでいたことだろう。


 「―――っ」


 晴明はなけなしの体力を振り絞り、凜太郎へと再び斬撃を浴びせようとするが、凜太郎はそれを簡単に弾いて、晴明の腹部に渾身の蹴りを撃ち込んだ。

 晴明はドンっ、と鈍い音を立てながら今度こそ地面に倒れこむ。


 (どうする……あんな自信満々に返事しておいて、手加減された上で負けました。とかなったら恥ずかしいどころじゃすまないぞ――)


 幸い凜太郎はマラドーナに加勢しに行く気はなさそうだが、だからと言って潔く負けを認めるなどありえない。勝機があるとすればアリスからもらったスクロール。晴明はこれをどのように使いあの剣士を倒すか必死に考える。そこで、凜太郎が口を開いた。


 「まったく……マラドーナが友達になれそうなんて言うからどんな力があるのかと思ったら、ただ馬鹿正直に斬りかかるだけ。それなりに剣術に覚えがあるようですが、その程度では話にならない」


 「ん……だとぉ」


 呆れ、期待外れだとばかりに凜太郎は落胆する。それに対して、晴明はただ睨み返すことしかできなかった。


 「事実でしょう。正面から突っ込んでくるばかりでまるで工夫がない。餌に食いつく獣ですか、あなたは……」


 「―――!」


 ”獣”という単語を聞いてあの詐欺師の言葉を思い出す。ついでにマラドーナも……。


 彼らは二人とも晴明を獣のようだと評した。目の前のメガネとは違う理由で、彼らは何を見てそう言っていたか、それは晴明の異常な身体能力、人の肩を噛みちぎるほどのパワーそれに対して言っていたはずだ。


 晴明はスクロールを一つ消費して自身の体力を回復する。


 「礼を言うよ。おかげでもっとうまく戦えそうだ」


 「…………」


 晴明の様子が変化したことに気づいて、凜太郎は刀を構える。晴明の一挙手一投足を見逃さぬよう、全神経を尖らせる。


 そして―――


 晴明の姿が、凜太郎の視界から掻き消えた。


 「なっ!」


 凜太郎は驚愕しあたりを見回す。すると、さっき消えた晴明が自身の背後をとっていることに気が付いた。

 凜太郎は前に跳ぶことでギリギリ斬撃をかわすが、安心していられない。次は左。右。右斜め。再び背後。晴明はとてつもない速度で凜太郎を翻弄(ほんろう)し、斬撃を浴びせる。


 (なるほど。これは凄まじい、だが――)


 一閃。凜太郎の一太刀が晴明の肩をかすめる。


 「もう慣れました」


 晴明は斬られた肩を確認して一度退くと、今度は真正面から凜太郎へと突撃する。


 「―――っ!」


 凜太郎はそれを刀で受け止めた。鋼同士がギギギという不快な音を立てて(つば)ぜり合う。凜太郎は次も速度にものをいわせた連撃が来るのを予想してカウンターを炸裂させる気でいたが、その予想は裏切られる形となった。


 正面からの押し合い。

 こうなっては凜太郎に勝ち目はない。凜太郎の持つ刀は晴明の豪剣によって弾かれる。刀を強く握りこむことでなんとか刀が手から外れるのは回避できたが、凜太郎の腕は上方へと打ち上げられ胴体ががら空きとなる。


 「おおおおおおおおおお!」


 がら空きとなった体に月明かりに輝く刃が一閃された。



 ――   *   *   *   *   ――



 俺は剣を地面に突き刺し、それに体重を預ける形で一息ついた。目の前には先程まで俺が戦っていたメガネの剣士。彼は左肩からみぞおちにまで、バッサリと刃で斬られて血を流し倒れている。


 「あぶねえ……ギリギリ……」


 そう、ギリギリだ。突然速度が上がったことに動揺している隙に、力勝負に持ち込むことで何とか勝てた。もし戦いがあれ以上長引いていたら相手は俺の速度に慣れて、押し合いになんてならなかっただろう。――実際、最後の方は、肩を少し斬られた。


 止血のためにジャージを脱いで傷口を縛ろうとした瞬間、それは来た。

 

 ゴオオオン、という耳を割るほどの爆音。地震か!?と勘違いしてしまうほどの揺れ。アリスが空けた穴の方を見れば、そこからは魔力の光が見えた。


 「――アリス!!」


 俺は嫌な予感に駆られてあの方まで走ろうとする。そして――俺の体は爆炎に吹き飛ばされた。


 「……な………に……!!?」


 何が起こったのか理解できず、炎が飛んできた方を見る。そこには体から血を流した、メガネの剣士。彼の握る刀はその刀身が炎に包まれている。


 (しまった……あの刀……あいつ魔術師だったのか!)


 相手が気絶したのか確かめないまま、アリスの手助けに行こうとした自分のミス。それを恨みながら、俺の意識は暗い海の底へと沈んでいった。



 ――   *   *   *   *   ――



 凜太郎は気絶した晴明のもとへと歩いていく。


 先程、晴明を吹き飛ばした炎。それは凜太郎が魔術で生み出したものではない。炎を生み出したのは凜太郎が持つ刀。


 ―――『魔剣バハツ』


 鞘から引き抜く際、刀身が炎を帯び、振るうことでその炎を飛ばすことができる。炎の飛び方は刀の振り方で変わり、晴明を吹き飛ばしたような爆炎の塊を出したり、炎の斬撃を放ったりすることができる。


 (できれば使いたくありませんでしたが………)


 何かリスクがあるというわけではなく、凜太郎自身の気分の問題。刀の扱いが得意な凜太郎は多少とはいえ剣士としてのプライドのようなものがあった。


 相手が剣一本で戦うのなら、自分も刀で打ち負かしたい。


 (けど……それはあくまで私の都合。都合を優先してマラドーナの危険を増やすわけにはいかない)


 晴明にとどめを刺そうとする。できれば生かして捕えたかったが、もしもの可能性を考え確実に処理する。

 そう考えて刀を晴明の心臓めがけて突き立てた。


 「―――!!」


 凜太郎は驚愕した。突き立てようとした刀が、晴明の手によって止められたのだ。

 意識は無い。にもかかわらず、腕だけが絶命を阻止しようと動いている。


 (何だ?このパワーは!?)


 凜太郎はたまらず、とどめを刺すのを中断して飛び退いた。

 凜太郎の全神経が逃げろと警告を発している。


 ――アレは触れてはいけないものだ。少なくとも、自分が敵う相手ではない。


 晴明がったものは両手を使わず足だけの力で立ち上がった。晴明の意識は依然、暗い海の底へと沈んでいる。しかし、晴明の体は、まるで晴明の意識など必要としていないように平然と動き出す。


 凜太郎は見た。晴明の体から蒸気のように何かが噴き出ている。


 「まさか――魔力!!」


 人間の意識は沈殿し、絶望が顔を出す。


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