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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
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開幕の狼煙

 全身を黒に染めた邪竜が大空を飛翔する。

 光沢のある肉体からはあちこち突起のようなものを伸ばしている。それは一見するだけではドラゴンとわからない醜悪さを纏い、見る人によっては昆虫や不気味な植物を連想すかもしれない。


 眼下には槍。剣。杖。様々な武器を持った人間がそれを討伐しようと躍起になる。

 杖を持つ者たちは醜い体躯を吹き飛ばそうと魔法を放つ。

 槍を持つ者たちはドラゴンの最大の特徴ともいえる翼を貫こうとその槍を投げる。

 剣を持つ者たちはそれをもって絶叫を響かせようと突撃する。


 ある者は凶悪な竜から人々を守ろうと、またある者は竜を討伐したことで得られる地位と名誉のため、立ち上がり、挑み、敗れた。


 邪竜の蹂躙は人だけにとどまらない。

 時には街を。

 時には山を。

 時には海を。

 ――世界を侵し続けた。


 ある者は言った。――アレは厄災の魔獣だ。



 何百年という時が経ち、「邪竜は災害、恨むなら出会ってしまった自分を恨むのだ」と皆が討伐を諦めたころ、偉大なる英雄によって邪竜は撃たれた。人々は歓喜し、二度と邪竜の恐怖に怯えることは無くなった。


 これはそんなよくある御伽話(おとぎばなし)。後に、異世界にて語り継がれる剣聖伝説の一幕。

 だが、この物語で重要なのは剣聖ではない。




 ――剣聖に敗れた邪竜の死骸は一体どこに流れ着いたのか、その記述はどこにも存在しない。

 


 ――   *   *   *   *   ――



 戦いの準備を終えて、俺とアリスは大通りにいた。時刻は0時の十分前。ここでマラドーナたちがやってくるのを待っている。


 「なんか懐かしいですね」


 「そうね、ここであなたと一緒に戦ってから今日でちょうど一週間か」


 未だ復旧のめどが立たず、バリケードで封鎖された大通りを眺めながら当時のことを思い出す。ここでアリスと共に戦い、協力者になると決意したのだ。


 アリスは話しながら、一帯に人避けの結界を張っている。


 「ところでアリス、教会の人たちはちゃんと来てるんですか?」


 「ええ、ちゃんと結界の外で見張りをしてくれてるわ」


 この戦いには教会も参加することになった。アリスとマラドーナが戦うとなると、ノアと呼ばれる吸血鬼は間違いなくそれに気づく。

 もしも、どちらかが勝って疲弊しているところを襲撃されたらひとたまりもない。故に、結界の外で監視を行い、ノアがやってきたら抑えるのが彼らの役割だ。

 この同盟は元々ノアを倒すための同盟なので彼らは快く了承してくれたらしい。


 「ふと思ったんですけど、アリスって国に仕えてたりしてましたか?」


 「え、なに? いきなり」

 

 「いや、俺の中の異世界の魔術師は、国に仕えて何か重要な役職を担ってるイメージなので、アリスもそうだったのかな~、と」


 「ああ、なるほど。国には仕えてなかったわよ。誘われはしたけど断ったわ。面倒だから」


 俺の質問に少々呆れ気味に返答した後、アリスさんも何か思いついたように話しかけてきた。


 「じゃあ、私からは問題を出させてもらおうかな。晴明、異世界では一つの系統の魔術を極めたと認められたものには国から称号を授かるの。炎系なら『炎』の魔術師、水系なら『水』の魔術師といった風に。――そこで問題よ、私も国から称号を授かりました。それはいったい何でしょう?」


 俺はしばし考え、アリスさんがよく使っていた魔術を答えた。


 「ん~、『炎』?」


 「ハズレ」


 「じゃあ、『結界』とか?」  


 「違う」


 結界も違うのか……。じゃあもうテキトーに言うしかないぞ!


 「わからないみたいね?」


 「……はい。わかりません。答え教えてください」

 

 できれば当てたかったが、しぶしぶ降参の白旗を上げる。それを受けたアリスはどこか誇らしそうに答えた。


 「いいわ、教えてあげる。私が頂いた称号は――」


 「――やあ、ちゃんと来てくれたね。待たせたかい?」


 途中でマラドーナたちがやってきて、答えを遮られる。

 マラドーナは俺たちを見据え、その瞬間空気が張りつめたような感覚を覚えた。やはり、彼はアリスに対して敵意を持っているようだ、彼の瞳には怒りが見て取れる。


 「お! 君も来てくれたのか、夏村晴明!」


 すると、マラドーナはアリスから視線を外して、俺の方に話しかけてきた。そのしぐさは飼い主を見つけてはしゃぐ犬のようで、さっきまでの張りつめた空気はどこに行ったのか突っ込みたくなるほどだ。


 「初めて会った時から君のことは気に入ってたんだ! 晴明くん、僕と友達にならない?」


 その提案に俺は思わず息をのむ。

 正直、俺はマラドーナのことが嫌いではない。なんだったら俺自身もマラドーナとは友達になってみたいとすら思っている。しかし――


 「悪いけど断るよ。恩人を殺そうとしてるやつと友達になりたくない」


 「そっかぁ……残念だな……」


 マラドーナは本当に残念そうにうなだれた。そこでメガネの剣士がマラドーナへ話しかける。


 「マラドーナ、そろそろ――」


 「――ああ、そうだね。そろそろ始めよう。どこぞの吸血鬼に邪魔されても面倒だし」


 マラドーナは気を取り直してこちらに目を向ける。


 「さて、準備はいいかい? 二人とも」


 「ええ、問題ないわ!」

 

 アリスは、はっきりと告げる。


 スクロールは持った。体調も万全。アリスは全身から魔力を立ち昇らせ、俺は剣を鞘から引き抜く。

 マラドーナたちも同様。メガネの男は刀を引き抜き、マラドーナは魔力を開放する。この空間がアリスとマラドーナ、二人の魔力で支配された。フードの少女が動こうとしないのは不気味だが、なにはともあれ――


 「―――開戦だ」


 時刻は0時ちょうど、戦いの幕が切って降ろされた。



 ――   *   *   *   *   ――



 凜太郎が晴明に向けて突撃する。

 晴明はそれを剣で受け止め、そのまま斬り合いとなった。

 鋼同士が衝突し、銀の軌跡を描く。戦闘経験の差か、凜太郎が押している。


 「晴明!」


 アリスが魔術で援護しようとするが、マラドーナによって妨害された。

 マラドーナは強化魔術で身体能力を底上げし、アリスへと拳を叩きつける。アリスはそれを後方に飛ぶことで回避し、炎魔術で攻撃を見まうが、マラドーナは片手で振り払った。


 (あのビルで戦ったときも思ったけど……硬い。強化がよほど得意なのか、それともすべての魔術が高水準なのか……)


 油断していると負ける。しかし、アリスの意識はやはり後方の晴明に向いていた。晴明がいっしょに戦うと言い、アリスがそれを了承したとはいえ、それで心配がなくなるわけではない。いくら晴明が気にしていなくても、アリスは晴明を巻き込んだ立場にあるのだ。


 少なくともアリスはそう考えている。なんとか援護に回るため、マラドーナの隙を伺ていると、


 「アリス! こっちは大丈夫。アリスは自分の方に集中してください!」


 そこで、晴明は戦いながらアリスに向けて声を発した。

 それを受けて、アリスはフッと顔に笑みを浮かべ目の前の相手に集中する。


 心配が消えたわけではない。だが、彼はアリスを信じ、自分の役目を全うしようとしている。ならば自分も自分の役割を果たし、彼の信頼に報いなけねば。

 それに、心配ならマラドーナをさっさと倒して助けに行けばいい。


 「【天空(そら)より舞い落ちる怒りの化身。ことごとくを焼き払い、地を貫け】」


 魔力が収束し、まばゆい光を放つ。

 詠唱。今までの無詠唱魔術と違い、確固としたイメージと魔力によって放たれる。暴虐無比なる光の裁き。


 「【剛天雷(エレメントジュピター)】!」


 直下、マラドーナに向けて極雷が放たれる。それは大地を砕き、マラドーナを暗い地下へと追いやった。

 そのあまりの衝撃から、晴明と凜太郎は、互いに貫かれた地面を見て固まってしまう。


 「――晴明、そっちはまかせたわよ!」


 「―――、了解です!」


 アリスはそれを言い残して、マラドーナが落ちていった地下へと向かう。

 晴明は再び剣を構えなおし、凜太郎へと立ち向かった。



 ――   *   *   *   *   ――



 地下。 

 

 アリスは魔術で視力を強化し、薄暗い地下をしばらくを進むと、マラドーナを発見する。彼は瓦礫の上でアリスを待ち構えていた。

 体は雷によって黒く焼け焦げ、服は破れて上半身が(あらわ)になっている。


 「驚いたよ。今のが君の全力かい?」


 「………」


 アリスは答えない。ただ黙ってマラドーナを見据えている。


 「まあいいさ。僕もここからは全力で行かせてもらう」


 マラドーナは両手を地面につけ、魔力を流しこむ。すると、ぐらぐらと地面が脈打ち、アリスへと襲い掛かった。


 「錬金術ってやつさ。知ってるだろ? まあ、()()の姿がちらつくからあまり使いたくないんだけど……特別だ。――たっぷりと味わってから逝け!」


 始まってからたった一分。極雷の狼煙(のろし)とともに戦いは激化する。




詠唱について

詠唱は魔術発動の補助。詠唱することで発動させた魔術がどのような結果をもたらすかイメージしやすくなり、そのイメージが強固なほど強力な魔術を発動できる。

イメージがちゃんとできていないと、本来の威力が出なかったり、暴発したりする。

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