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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
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宣戦布告

 「宣戦布告?」


 その呟きが寒空の下に響く。時刻は10時、晴明とアリスの目の前にはマラドーナが立ちふさがっている。


 「場所は君たちと改造吸血鬼が戦った大通り。そこで僕らと戦おう」


 マラドーナは不気味な笑みを浮かべながら淡々と話す。晴明は突然のことに驚いていて、固まってしまった。


 マラドーナはアリスに対してとてつもない敵意を持っているように思う。この前ビルでアリスに雷撃をお見舞いされたのがそんなに嫌だったのかと、晴明は考えたがおそらく違うだろう。

 これはもっと………自分なんかでは想像できない理由があるように感じた。


 「時間は……そうだな……明日の日付が変わるタイミング、0時でいいか」


 マラドーナはそれだけ言い残して立ち去ろうとする。その背中をアリスは呼び止めた。晴明と同様に、マラドーナが自身に向ける敵意に気づいたのだ。


 「いきなり出てきて宣戦布告だなんて、雷撃で打ち抜かれたのがよほど勘に触ったようね」


 アリスはあえて挑発する。マラドーナが自身に敵意を向けるならその敵意を利用して何か情報を得ようとした。が、マラドーナはその挑発を笑って受け流す。


 「ハハハ! ――あぁ、すまない。僕が君に抱いているこの敵意は、君からしたら理不尽以外のなんでもない。けど、もう君にぶつける以外でこの感情を消す方法が思いつかない」


 不気味な笑顔は健在に、けらけらと笑う彼はまるで壊れた人形だ。アリスはそんな彼の様子を注意深く観察する。


 「それじゃあ、用も済んだし僕はこれで帰らせてもらうよ――あ! 一応忠告しておく、もしさっきの話を無視して大通りに来なかったら、僕たちは君の家を襲撃する。周りに被害を出したくなかったら、ちゃんと来ることをおすすめするよ!」


 そう言って、今度こそマラドーナは姿を消した。


 「………まさか……」


 立ち去ろうとするマラドーナを観察して何かに気づいたのか、アリスの口からそんな呟きがこぼれ落ちる。



 ――   *   *   *   *   ――



 翌日の昼頃。


 晴明はアリスの住むアパートにお邪魔して、戦いの準備をしていた。床には魔法陣のようなものが描かれた古い羊皮紙が何枚も広げられている。


 「アリス、これは何ですか?」


 「これは魔術媒体(マジックスクロール)と呼ばれるものよ。紙に術式を刻むことで、魔術師でないものにも魔術を使用することができるようになるの」


 「そんなものまであるんですね」


 「ええ。けど、使えるのは一度だけ、半分はあなたにあげる」


 そう言ってアリスは晴明に三枚のスクロールを手渡した。


 (それにしても、マジックスクロールとかって実在したんだな!)


 晴明は受け取りながらそんなことを思った。異世界アニメなんかではよくこういったものは出てくるが、実際に見るとやはり驚く。それに、気になることもあった。

 

 (この名前……どう考えても英語だよな)


 少し前にアリスに聞いたことがある。この世界に来て文化の違いなんかで不便をしたこはあるのか、と。その時アリスはスマホをはじめとした電子機器に驚き、慣れるのに時間がかかったと言った。それ以外のものは特に苦労はなかったらしい。


 単に、アリスが見栄を張って言わなかっただけの可能性もあるが、普通なら食べ物や言語の違いなどで苦労したことがありそうなところを……。


 (この世界とアリスがいた世界はもっと深いつながりがあるかもしれない)


 晴明が考え事をしていると、アリスから声を掛けられる。


 「晴明、私は教会に行ってくる。貴方は自分の準備をしておいて」


 「!  ――わかりました」


 アリスは自分用のスクロールを片付けると、急いだ様子でこの部屋から出ていった。



 晴明はしばらくして外を歩いていた。アリスからは自分の準備をするよう言われているが、特にこれと言った準備がない。せいぜいストレッチをするくらいだが、それは出発前にすればいい。


 ちなみに、マラドーナの宣戦布告を受けた後、アリスは狙われているのは自分だけだからあなたまでいっしょに行く必要はない、と晴明に向けて言ってきたが、晴明はぜったい一人で行かせない拒否して、同行することが決定した。


 その時の付いてきてほしくないという感情と、うれしさの合わさったアリスの表情を思い出して、晴明はつい苦笑する。


 そうこうして街を歩いていると、視界にある男が映り込んだ。


 「―――は!?」


 思わず、男がいる方を二度見してしまう。


 現代日本ではあまり見かけないシルクハット、燕尾服、年季の入っていそうな長い杖、腰まで届きそうな長いマフラー、ごちゃごちゃとした装飾。

 これだけ特徴があれば見間違えるわけがない。


 「………詐欺師」


 男の方も晴明に気づいたのか、歩くのを止めてこちらを向く。二人がいるのはそれぞれ反対の歩道。間にある車道に何台もの車やバイクが音を立てて走っている。


 詐欺師はパクパクと口を開いて、晴明に何かを伝えようとしている。

 普通、大量の車が音を立てて走っていた場合、大声を張らない限りその声は相手に届かないことだろう。しかし、晴明はなぜか、詐欺師の言葉をハッキリと聞き取ることができた。


 『まだまだ序章。これからもっと君の世界は変わっていくよ、少年』


 脳に直接言葉を突っ込まれている。晴明はそんな錯覚を覚えた。



 ――   *   *   *   *   ――



 夢を見た。それはマラドーナがまだ幼く、暗い研究所にいた時の夢。


 研究所内ではあまりこれといった制限はなく、比較的自由に行動できた。

 実験の時間を除き、マラドーナはいつも自分が一体どういう存在なのか調べていた。研究所内にある様々なデータを閲覧したり、研究員に聞いてみたり。

 中には口の軽い者がいたおかげで、割と早い段階でそれを知ることができた。


 「お前はある人物をもとに作られたクローンだ。いや、人ではないか……何度も実験を繰り返していたけど、なかなか魔力を自力で生成できる個体生まれてこなくてな。苦労したよ」


 「そのもとになった人はどんな人なの?」


 「だから人じゃないって……お前も知っていると思うぞ、この施設にも彼に関するデータはあるから」


 研究員は少し呆れながら答える。


 「そいつは奇跡的な技術(わざ)を扱う頭のイカれた錬金術師――――サンジェルマン伯爵だ」



 ――   *   *   *   *   ――



 「起きてくださいマラドーナ」


 その呼びかけでマラドーナは目を覚ます。


 「もう約束の一時間前です。そろそろ出ないと間に合いません」


 場所はマラドーナが拠点にしているホテルその一室。窓を見れば、外は完全に陽が沈み、真っ暗になっていた。


 「あぶないあぶない。宣戦布告しておいて遅れたりしたら格好がつかないや―――起こしてくれてありがとね凜太郎」


 さして慌てた様子もなくマラドーナは感謝を告げる。凜太郎はどういたしまして、と軽く手を振りミシェルと扉の前で待っていた。


 マラドーナは体を伸ばすと、二人と一緒にホテルを出る。


 「さて行こうか二人とも。あの『来訪者』に怒りをぶつけよう!」


 

回想内では割とケロっとした印象を受けるかもしれませんが、マラドーナが受けていた実験はかなり酷いものです。研究所内にはマラドーナ以外にもいろんな実験を受けている子供がいて、その子たちと殺し合いをするようなことが何度かありました。他にもいろいろやらされています。


何故そんなことをさせていたのかというと、異世界に渡ることができた後、自分たちの護衛をしてほしかったからです。クズですね

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