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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『異世界機関』
15/27

休息

 深夜。晴明とアリスは教会と同盟を結み、しばらく同盟内容について話し込んでから教会を後にした。

 ただでさえ冬の時期、しかも夜中ということもあって外はとてつもなく気温が下がっている。ピューという音をたてて迫る寒波に、晴明は肩を震わせた。




 「さすがに寒いですね……今日はもう家に帰りますか?」


 街の探索は行えていないが、あまりの寒さに俺はそう提案した。


 「………」


 ――が、アリスは俺の声が聞こえていなかったのか、難しい顔をしてうつむいている。


 「……アリス―?」


 「――え?  ……あ! なに? 晴明」


 俺が少し声量を上げてみると、アリスはちょっと面白いくらい動揺して返事をした。


 「あの二人に会ってから元気無さそうですけど、大丈夫ですか?」


 「ええ……少し疲れているだけ。問題ないわ」


 確かに疲れていそうだが、他にも不機嫌そうな顔をしている。この人は隠し事が苦手っぽい。

 俺が”本当にそれだけ?”という疑いの目で、じい~っと見つめていると、彼女は観念したのか気まずそうな顔をして話し出した。


 「……実は、一年くらい前に教会ともめたことがありまして………」


 アリスは歯切れ悪そうに答える。


 「教会の中には、異世界にかかわる者をすべて悪と決めつけ、排除しようとするやつがいるの。私は過去にそういった輩に襲撃を受け争いになったことがあってね。――その件の謝罪はしっかりしてもったんだけど、それ以来、教会はどうも苦手で……」


 確かに、そんな連中と再び顔を合わせて同盟を組もうと言われても、不機嫌になるのは仕方がないし、警戒して疲れるだろう。

 そんなことを考えていると、アリスは――


 「――それに、下手に敵対すると彼らはあなたにまで攻撃してきそうだ……」


 と言ってくれた。

 俺はその一言でようやく気付いた。

 彼女が不機嫌になっているのは、あの二人がアリス自身だけでなく、俺まで利用しようとしたからだ。尾沢マンションでの話の最中彼女はずっと警戒していた、それは俺を守ろうとしての行動だったのだ。


 そのことが嬉しいのと同時に申し訳なく思った。俺が彼女の負担になってしまっていることに。


 アリスに視線を向ける。やはり彼女の顔には疲労が見える。それは今回だけでなく、彼女がこの世界に来てからずっと抱えているものだ。

 俺はなんとか彼女の気を休ませてあげることはできないか考え、思いついた。


 「じゃあ、アリス。明日、二人で遊びに行きませんか?」


 「え?」


 アリスは意表を突かれたように、ポカンとした顔をしている。



 ――   *   *   *   *   ――



 翌日の放課後。


 「どうしよう……」


 俺は自宅へ帰り、いまさら後悔し始めていた。

 昨日、アリスを元気づけるために遊びに誘たったが、今になってこれデートじゃね?ということに気づいてしまった。


 (できるなら、やっぱなしで! ……って言って断りたい)


 別にアリスが嫌いなわけではない。

 ただ、二人っきりで遊びに行くとなるとすごく恥ずかしい。


 「……しかたないか……」


 さんざん頭を悩ませた挙句、あきらめてアリスの住むアパートまで向かうことにした。 

 


 アパートにたどり着くなり、俺は固まってしまった。


 「――どうかした?」


 とアリスは不思議そうに聞いて来る。

 

 確かにどうかしている。俺は今、目の前にいる少女につい見惚れてしまったのだ。アリスの私服なんて、吸血鬼探しをする際にさんざん見ているはずなのに、今の俺にはアリスが異世界の魔術師ではなく、普通の女の子に見えた。


 「い、いや ……なんでもない。行きましょうか」


 俺はそのことに気づかれたくなくて、急いで彼女から視線をそらし、外に出ようと促した。



 ――   *   *   *   *   ――



 「どこか行きたいところとかあったりしますか?」


 「そうね……私はまだ、この街に何があるのか把握しきれてないし、晴明の行きたいところに連れて行ってほしいかな……」


 そう言われて俺は少し考え込む。そして、アリスを連れて行った場所はショッピングモールだ。ここには、衣類、食事、本、映画館などのいろいろなものがあるので、何か一つくらいアリスの気を引くものがあるのではないかと思ったのだ。


 建物の中を進んでいくと、フードコートにたどり着いた。お腹が空いたので、とりあえず何か食べようとなったのだ。するとさっそく興味を引くものを発見したのか、アリスは、


 「晴明、あそこに行こう!」


 と俺の腕を強く引っ張った。

 アリスはある店をじっと見つめている。そこはラーメン屋だ。

 メニューを注文して、ラーメンを受け取って席に座る。アリスはラーメンを輝いた目で見つめていた。


 「アリスはラーメン食べたことないの?」

  

 「ええ。カップ麺ならあるけど、こうしてちゃんとしたものを食べるのは初めてよ」


 アリスはとてもおいしそうに麵をすする。その様子を見て、俺もつい笑顔になってしまった。

 


 食べ終わると本格的にモール内を歩き回る。いろいろなところを歩いて回ったが、彼女が一番興味を示したのは、以外にも楽器店だった。

 中でも、特にピアノが気に入ったらしい。


 「……このピアノ……だいたい45万ですか………頑張れば買えるか……」


 なにやら、アリスはピアノを見つめてブツブツと独り言をもらしている。

 ……ひょっとして、マジで買う気なのかな?


 しばらくピアノの前で立っていると、店員さんがやってきて


 「試しに弾いてみますか?」


 と尋ねてきた。

 アリスの様子を見て気を利かせてくれたのだろう。


 「え! ……いいんですか!?」


 「はい! 構いませんよ。ピアノ以外にも気に入ったものがあれば、どうぞ気軽にお試しください」


 アリスは俺の方に視線を向けてくる。

 俺は手のひら差し出し、どうぞ演奏してください。と、ジェスチャーを送った。


 「……そういうことなら、弾かせてもらおっかな」


 アリスはそう言うと、席についてピアノを演奏し始める。


 彼女の弾いた曲は俺の知らない曲だった。――もしかしたら異世界の曲かもしれない。しかし、そんなことはどうでもよく思えるほど、彼女の演奏はとても美しく感じられた。

 アリスに弾くように勧めた店員も驚きのあまり「……すごい」と感嘆の言葉をもらしている。店の前を通る人も立ち止まって、アリスの演奏を聴いている。中には動画を撮っている者もいた。


 今、この空間は彼女によって支配されていると言っていいほど、皆がアリスの演奏に耳を傾けている。


 演奏が終わると、周りからは拍手の音が響き渡る。アリスは恥ずかしくなったのか、いそいそと俺のいるところまで戻ってきた。


 「つい熱中しちゃった……お恥ずかしい」


 「……いや、でもすごくよかったよアリス。――ひょっとして、異世界でピアノ弾いてたりしたのか?」


 俺が素直な感想を口にすると、アリスは何やら軽く目を細めながら訪ねてくる。


 「確かに多少弾いてはいたけど……それよりも晴明。――貴方、いつの間にか私に対してため口で話すようになったわよね」

 

 言われて、俺自身もようやくそのことに気づく。


 「あっ! ――すみません、つい……以後気を付けます」


 「いや、責めているのわけじゃないの。むしろ、そうしてくれる方が私は嬉しいわ!」


 何故かは分からないけど……。と、彼女は胸に手を当てて、微笑みながらそう言った。

 俺は動揺しながら後ろへ振り返り、別の場所に向かおうと促す。


 ――俺の周りだけ熱で包まれたように熱い。きっと今の俺の顔は、リンゴのように真っ赤に染まっていることだろう。

 

 その後も、アクセサリーショップや本屋、ゲーセンなど、閉店ギリギリまでモール内で遊び続けた。外へ出ると、あたりは真っ暗になっている。


 時刻は九時前、俺たちは近くあった公園で休憩をすることにした。


 「今日は遊びましたね……」


 俺はいつものように敬語で話しかける。アリスからは”ため口でいい”と言われてるが、さすがに恥ずかしいのでそうした。個人的に、アリスと呼び捨てにするだけでも、けっこう頑張っているのだ。


 「そうね。私もこんなに遊んだのは久しぶり」


 公園には俺とアリスの二人だけ。ただ静寂の時間が流れている。


 「―――アリス」


 「! なんですか?晴明」


 しばらくして、俺はアリスに声をかける。アリスは不思議そうに返事をした。


 「これ……どうぞ」


 俺はアリスに、細長い箱を手渡す。アリスが箱を開くとそこには、花の意匠(モチーフ)のネックレスが入っている。

 正直、食べ物とかの方がよかったかもとは思うが、できれば形に残るものを渡したかったのでこれにした。


 「これは……」


 アリスは驚いたように呟いた。

 

 「以前、吸血鬼から助けてもらったお礼です」


 「そんな……お礼なら私の方こそ――」


 途中でアリスはい言うのを止め、


 「いえ、ありがとう。晴明」


 と、感謝の言葉を言ってくれた。



 「きれいなネックレスね……」


 「でしょう! ――値段はそう高くないけど、キレイだったのでそれにしたんですよ!」


 「へぇ~、それじゃあ、大切に使わせてもらうわ」


 アリスは少し怒った後、箱からネックレスを取り出す。


 「……晴明、あなたがつけてくれない?」


 「俺が!?」


 「ええ。貴方につけてほしいの」


 彼女は優しい笑みを浮かべながらそう言ってきた。……そんな風に頼まれたら断ることなんて、とてもできそうにない。


 「な、なら……」


 俺はぎこちなく返事をして、アリスからネックレスを受け取り、彼女の後ろまで移動した。


 アリスはその美しい金色の髪を両手で包むように持ち上げる。今まで隠れていたうなじがはっきりと見える。


 俺はドキドキと緊張しながらアリスの首元へ手を回し、そのネックレスを取り付けた。



 ――   *   *   *   *   ――



  午後十時。俺とアリスは公園を出て帰路についていた。


 横を歩くアリスに視線を向ける。彼女の首には俺が先程プレゼントした首飾りがかかっている。それを見て、公園でのやり取りを思い出した。


 (……なんか恥ずかしくなってきたな……いや、この首飾りは助けてもらったお礼だ。恥ずかしがることは無い!)


 心の中で必死に自分に言い聞かせているとアリスが口を開いた。


 「――それにしても、吸血鬼探しをしないでいいと思うと気が楽ね」


 「え!」


 俺はつい驚きの声を上げてしまう。てっきり、この後吸血鬼探しを行うものだと思っていた。

 彼女にとって吸血鬼は、自身の家族を殺した伯爵に復讐するための重要な手がかりだ。――それを探さないとは、どういう心境の変化だろう。


 「昨日教会と同盟を組んだでしょう、その結果、交代制で吸血鬼探しをすることになったの。今日は彼ら、明日は私たちが行うわ!」


 ………そうなんだ。あの時はアリスの様子が気になって、同盟の内容とか聞き流してた……。

 

 そのまましばらく歩いていると、途端にアリスが足を止めた。

 俺はそのことに気づいてどうしたのかアリスに尋ねようとするが、前方から聞こえてきた声によって(さえぎ)られた。


 「――やあ、四日ぶりだね」


 俺はこの声を知っている、忘れるわけがない。四日前、吸血鬼と戦っている最中に乱入してきた白髪の少年、マラドーナだ。

 その少年は暗がりの中、たった一本しかない電灯の下で道を塞ぐようにして立っている。


 「何の用? また私たちに戦いを仕掛けるつもり!?」


 アリスは俺をかばうように、前へ歩み出た。

 

 「宣戦布告。―――今日はそのために来た」


 マラドーナは余計な会話はせず、はっきりと宣言した。見れば、彼は相変わらず笑みを浮かべている。だが、今回はその笑みに親しみやすさなんてものはまるで感じない。

 ただただ不気味。三日月状に(ほお)を歪ませている。




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