107話 新しい家族と皇女としての第1歩
まずは投稿が予定より2週間も遅れてしまい申し訳ありません。4週間分ほどの遅れがあるのにこれ以上送らしてどうするんだって話ですね。
もう1つ謝らなければならないのが、作者のこだわりで話数の表記を素数にしていたのに87という明らかに3で割り切れる数を入れていました。直しておきました。
この1話は6時間後にまた投稿する次の1話と合わせて107話として投稿するつもりでしたが、10000時に届きそうだったので分割しました。
食堂に入って、また緊張してきた。
何せ全員の視線がこっちに向いてたから。
男性6人。女性3人。
女性1人を除いてみんなブロンドの髪。
全員こっちを見てる。
歩き方これで合ってるのかな?
ドレス変じゃないかな?
あれ部屋に入る時って貴族特有のお辞儀みたいなのをするんだよね。そんなの知らないよー。
お金があって使用人はたくさんいたけど、貴族令嬢として育てられてきたわけではないのに礼儀作法とかがわかるわけがないよ。
これから学んでいくみたいだけど。正直自信ないな…
そんな感じで心の中で叫んでたら、3番が後ろから声をかけてきた。
「サルト様が思われるように礼してくださいっス。本日は無礼講ですし主役はサルト様なのですから誰も咎めはしませんっス。」
そうは言われましても…
とか思いながらも背中を曲げないように弓道式の立礼をする。
ドレスが崩れる気がしたから弓矢を持ってる時と同じで、手は動かさずに両腰に沿って置いた。
上座に向かって一礼するし、弓道の神様に通じる礼儀作法なはず。
間違っていても誠意だけは伝わるだろう。
「帝国のお辞儀に似てますわね。正しいお辞儀の仕方をお姉様に教えて差し上げますわ。」
透き通るようなブロンドの髪を腰くらいまで伸ばした少女が、嬉しそうに椅子から立ち上がってこっちに歩いてきた。
白を基調としたふわふわのドレスを身に纏って、まるでお人形さんみたいな子だ。
その子がドレスの裾を軽く掴み、背筋を伸ばしたまま軽く屈んだ。
えーっと前の世界のどっかの本で読んだ気がするな。昔のヨーロッパの貴族の女性がやる挨拶だよね。なんて言うんだっけ。
そうだ! カーテシーだ。
「自己紹介しますわ。セリンデブル王国第3皇女、リシェル・セリンデブルですわ。7歳ですわ。今日からよろしくお願いしますね、お姉様。」
「よろしくね、リシェル。」
そう返事したら、リシェルの表情がぱあっと明るくなった。
そして、嬉しそうに両手で手を包み込んできた。
「新しいお姉様が増えましたわ!」
よろしくって言っただけなのに、なんかすごい喜んでくれてる。
「では次は俺の番ですね。」
朝の第1王子って名乗ってたお兄さんが立ち上がって、胸あたりに手を添えて、一礼した。
「改めて。俺は第1王子、カーフェル・セリンデブル。21歳だ。困ったことがあれば何でも相談してくれ。」
「うん。ありがとう。お兄さん。」
カーフェルは少し目を丸くして、ふっと小さく笑った。
「そう呼ばれたのは初めてだな。何だか新鮮だよ。」
場の空気が少し和んだ。
カーフェルが座って次はその向かいに座る大学生くらいのブロンドの髪の女性が立ち上がってリシェルと同じようにカーテシーをしてから自己紹介を始めた。
「それでは次は私ですね。私は第1皇女、エリタナ・セリンデブル。18歳です! 兄上なんかよりよっぽど頼りになる自信があるからいっぱい頼ってくれていいんだよ。」
「なんかとは心外な。」
「政治と音楽しか脳のない兄上が何を言いますの。サルトはこの魔術と絵画の天才の私の方が頼りになるはずなのですよ。」
「エリタナだって魔術と絵以外の才覚がないだろう。」
「そこまでだ。」
口喧嘩をする2人に割って入ったのが国王だった。
「これで全員揃ったことだ。今日よりサルトは正式に王城で生活する。ただし、公表までしばらく時間が必要だ。当面は第2皇女であることは場内の限られた者しか知らぬ。」
部屋の空気が少し引き締まった。
「公表まではサルトに皇女としての仕事を課すつもりはない。だから、サルトは明日からデーズハイルの授業にはげめ。だがそれも明日からだ。今日は家族の親睦を深めていこうではないか。まだ全員の自己紹介も終わっとらんしな。ほらサルトも座りなさい。」
そう言われてリシェルとエリタナの間の空いてる席に座った。
それと同時にメイドが数人入ってきてみんなの前に料理を置いていき、ワイングラスにワインを注ぎ出した。
「それでは、乾杯の音頭はカーフェルに任せる。」
「げ。わかりました、父上。ええっと、それでは新たな家族の帰還を祝して、乾杯。」
「「「「「「「「乾杯。」」」」」」」」」
みんながグラスを軽く掲げる。
そういえば、お酒って初めて飲むな。美味しいのだろうか。
恐る恐るグラスを持ち上げる。
赤紫色の液体がゆらりと揺れ、甘い果実の香りがふわりと鼻をくすぐった。
思い切って1口。
「••••••」
あれ?
思ってたより飲みやすい。
ぶどうの甘みのあとに少しだけ渋みが残って、それが不思議と嫌じゃない。
もう1口。
さっきより美味しく感じる。
「どうだ、サルト。」
国王が興味深そうに尋ねてきた。
「美味しい。」
そう答えると、一瞬だけ食卓が静かになった。
あれ?
なんか変なこと言った?
「初めて飲む酒を美味いと言った者は久しぶりに見たな。」
国王が豪快に笑う。
「普通は顔をしかめるものだぞ。」
「そうなの?」
「私は最初、苦くて嫌でしたわ。」
リシェルが素直に頷く。
「私も。」
エリタナまで同意した。
「兄上なんてむせていましたもの。」
「昔の話だ。というかなぜ覚えている。その頃君はまだ3歳のはずだ。」
「あら。兄上が吹き出したワインを私が頭から被ったのですよ。忘れられるはずがありましょうか。」
「それは悪かった。」
思わず笑ってしまう。
なんだろう。
さっきまであんなに緊張してたのに。
少しだけ、この場所が居心地よく感じられた。
運ばれてきた料理は、どれも見たことのないものばかりだった。
焼き色のついた肉料理に、色鮮やかな野菜。
白いスープに、焼きたてらしい丸いパン。
どれも美味しそうだ。
どうやって食べるのが正解なんだろう。
前世でもテーブルマナーなんてまともに習ったことはない。
貴族の食事なんてなおさら分かるはずもない。
周りをそっと見ると、皆は慣れた手つきでナイフとフォークを動かしている。
よし。
見よう見まねでやるしかない。
恐る恐る肉を切る。
思ったより柔らかく、すっと刃が入った。
それをフォークで口へ運ぶ。
これは!
美味しい。
噛むたびに肉汁が溢れ、香草の香りが口いっぱいに広がる。
思わずもう1口。
その様子を見ていたエリタナがくすっと笑った。
「気に入ってくれたみたいね。」
「うん。これ、すごく美味しい。」
「それは良かった。この料理は王城料理長の自慢なのよ。」
「そんなに美味そうに食べてもらえると、料理長も喜ぶだろう。」
カーフェルも穏やかに笑う。
「サルトお姉様、お肉ばかりではいけませんわ。」
リシェルが小さなフォークで野菜をさらに置いてきた。
「このお野菜も甘くて美味しいのですよ。」
「ありがとう。」
勧められるまま口に入れる。
甘い。
前世で食べていた野菜よりも、ずっと甘みが強い。
品種改良かな?
いや、なんでも魔術で解決するこの世界のことだし、魔力をたくさん含む土壌で育てると美味しくなるとかそういうことなんだろう。
さすが王城というべきか、料理が美味しい。
いや、前世のママのカレーには劣るかもしれないけどあれは別格。
「うん。すごく美味しい。」
「当然ですわ。」
まるで自分が育てたかのように胸を張るリシェル。
その姿が可愛らしくて、自然と笑みが零れた。
「そんなこと言ってるけどリシェルは苦手な野菜をサルトに押し付けてるだけじゃないの。」
リシェルの体がビクッとなって固まった。
その反応を見て前世の偏食の弟と妹を思い出した。姉の性というのものかもしれない。ついつい無理矢理にでも嫌いなものを食べさせようと思って体が動いていた。
「好き嫌いは良くないよ。」
そう言いながら今渡された分と同じくらいの量の野菜を彼女の皿に移した。
まあ当然だけど頬を膨らめせてリシェルは不機嫌になった。
「サルトはいいお姉ちゃんになるわね。」
エリタナにそんなことを言われた。
伊達に15年間お姉ちゃんやってたわけじゃないしね。当然っちゃ当然かもしれない。
「サルト。」
国王がワイングラスを揺らしながら口を開く。
「明日からデーズハイルの授業を受けることになるが、不安はあるか。」
少し考える。いや、考えるまでもないか。
「ある。たくさんある。」
隠しても仕方ない。
「礼儀作法も、貴族の常識も、魔術も、知らないことばかりだから。それとデーズハイルと少しだけ話したけど彼女全然話さない。」
「ふむ。」
国王は静かに頷いた。
「それでよい。」
「え?」
「知らぬことを知ろうとする者は強い。知ったかぶりをする者より、何倍もな。あと、デーズハイルは口下手だからこその指導の仕方で過去の生徒を育てきた。カーフェルとクスレも元教え子だ。」
クスレって誰?
「クスレって?」
「宰相の長男で、カーフェルと同い年だ。」
そのうち会うことになるだろうから頭の片隅にでもしまっておこう。
「困ったことがありゃ、遠慮せず聞け。ここにいる者は皆、お前の家族なんだ。頼らなきゃ損だぞ。」
その言葉に、エリタナが勢いよく頷いた。
「そうそう! 魔術なら私に聞けば全部解決!」
「全部は言い過ぎだ。」
カーフェルが苦笑する。
「政治や歴史なら俺だな。」
「うん! 遠慮なく頼るね。」
国王がナイフとフォークを置いて食卓を見回した。
「さて、少し話がずれたが、自己紹介が終わっとらなんだ。続けるとしよう。」
「では、僕から。」
食卓の向かい側に座っていた。青年が立ち上がってカーフェルと同じように一礼。
「僕はセリンデブル王国第2皇子のアルヴェイン・セリンデブルです。16歳になります。兄上や姉上ほど卓越した才はありませんが、相談には乗れますのでよろしくお願いします。」
「嘘おっしゃい。学問だけならあんた、誰にも負けないじゃない。謙遜は時に皮肉よ。」
エリタナの指摘に、
「そうかもしれませんね。まあ、そういうことなのでよろしく。」
と軽く遇らった。
1番上の兄と違ってあまり兄弟喧嘩とかはしなさそう。
優しそうな人だし困った時は1番親身に助けてくれそう。
「次は俺の番だな。第3皇子、グリム・セリンデブル。13歳! 特技は槍だ! 槍なら負けねえ。」
ザ・脳筋って感じ。王族というより騎士団の方が似合いそう。
今も上2人と違ってお辞儀せずにガバッと立って自己紹介を始めてたし。さっき3番が無礼講って言ってたから問題はないと思うけど。
「ぼくの番ですね。第4皇子プライセ・セリンデブルです。8歳です。知略遊戯が得意です。姉上ともいつかチェスをしてみたいです。」
チェスね。いつしか智数がオンライン対戦にハマって学校以外で部屋から出てこなくなったころがあったな。
ルールを知ってるだけで上手くはないんだけど気が向いたら1回やってみるか。
「うん。わかった。よろしくね、プライセ。」
そう返事したらプライセの表情がパァッと明るくなった。
「はい、ありがとうございます姉上! それでは最後にヘリスの自己紹介ですよ。」
プライセがそういうと最後の小学生にも満たないブロンド髪の子が立ち上がって恭しくも初々しいお辞儀をした。
「第5皇子、ヘリス・セリンデブル。4歳です。特技は分かりましぇん。新しい姉上が増えるのでびっくりです。」
控えめな笑顔とやや緊張した表情。
か、か、可愛い!
何この子。愛でたい、なでなですりすりしたい。
気付けば礼儀のことなんて頭から吹っ飛んでいた。椅子から飛び上がってヘリスに抱きついちゃった。
「わっ!?」
ほっぺすりすり。やばい、温かくてもっちりしてて気持ちいい。
「あ、姉上、、、くすぐったいです。」
はっ、我を忘れてた。
食卓中の視線が集まっていた。
あ、これヤバいやつだ。
そう思ったら、
「ガハハハハァ。」
国王が突然笑い出した。
「父上!?」
アルヴェインが困惑している。
「いやはや、いきなり抱きつくとは思わなかったよ。」
カーフェルは肩を振るわせて笑いながら言った。
「ふふっ。今日会ったばかりなのにもう立派なお姉ちゃんですわね。」
エリタナも口元を押さえながら笑っている。こんな時にも上品さを忘れないのはすごい。
「えへへ……。」
当のヘリスはというと満更でもない感じだ。
「ヘリスが羨ましいですわ! 私もですわ!」
リシェルが羨ましそうに言ってきたので、抱きしめてあげる。
ヘリスと同じ顔をしてくっついてきたからより可愛く見えてほっぺすりすり。
食事会はその後も終始賑やかだった。
グリムの失敗談で皆が笑い、エリタナがそれに容赦なく突っ込みを入れる。
カーフェルとアルヴェインは時々話に加わりながらも、どこか楽しそうにその様子を眺めていた。
「お姉様、あーんですわ。」
「ぼくも……。」
「自分で食べられるでしょ。」
そう言いながらも2人の頭を優しく撫でると、満足そうに笑った。
本当に2人とも可愛い。
前世の弟妹たちが思い出される。こっちの世界に来てるのだろうか。
今、気にしてもどうしようもないか。
やがて料理も食べ終え、メイドたちが食器を下げ始めた。
国王は満足そうに頷く。
「今日はこのくらいにしておこう。サルトも疲れたであろう。」
「うん。今日はありがとう。」
そう言うと、家族全員がそれぞれ笑顔で頷いてくれた。
「明日からよろしくですわ、お姉様。」
「姉上、今度チェスをしましょう。」
「槍に興味があったら俺のところへ来い。」
「魔術ならいつでも教えてあげるから。」
皆が声を掛けてくれる。
こんなに大勢の兄弟姉妹がいるなんて、朝まで想像もしていなかった。
皆、個性豊かで優しくて。新しい家族とも楽しくやっていけそうだ。
そう思いながら、一緒に食堂を後にした。
サルトは家族とは仲良くできそうでよかったです。←それを決める作者語る。
理系ネタが少なくてすみません。どうしても日常会だと入れ込みにくくて。次話もまた同じような感じで理系ネタは少ないと思います。




