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97話 執事と暗殺者

ルイーザさんはどうなっていたのでしょうか。

そこにいたのは、シュセンドの執事のユエノフと交戦中のルイーザさんだった。


2人共、数cmくらいのダガーで闘っている。ルイーザさんって弓使いなのに短剣の腕も凄い。Aランク冒険者だから当然なのかな?


見えないくらい速い攻防が繰り広げられている。


それも凄いけどルイーザさんの服が。

下着姿にクローク1枚だけ着ている。

きっと誘拐犯達に色々触られたんだろうな。

下劣で汚い悪党が。憎いこと甚だしい。


ルイーザさんと相対するユエノフは動きにくそうな執事服を着ていた。それなのに動きは熟練された戦士そのもの。

Aランクのルイーザさんについていけている。


ルイーザさんは、顔が少し苦痛に歪んでいた。

すぐには気づけなかったけどルイーザさんの脇腹辺りが赤く染まっていた。もちろん、血で。


「フレアアロー」

「アースアロー」


衝突する剣の連撃の横で、ルイーザさんが放つ火炎魔術とユエノフが放つ大地魔術が交互に射たれ、そして打ち消される。


火炎魔術と大地属性は特殊属性なだけあって、火魔術と土属性なんかより威力も速度も段違い。



こんな闘いに入れるわけがないでしょ。死んじゃうよ。


でも、どうしよう。

なんとかして助けられる方法は無いか。


今さっき手に入れた化学魔術があるし、突破口はあるはず。少しユエノフの意識を逸らさせる何かがあればいい。


考えている間に事態が動いてしまった。


「はーっ!」


突然ユエノフが勝負を決めにいった。

認識するのも難しい1撃だった。


ルイーザさんはそんな攻撃にギリギリ反応して、刃を割り込ませていた。

だけど、無理な体勢のせいで、隙を作ってしまって、剣撃の合間に入れられた足技によって、転かされた。


「グハッ。」


ルイーザさんが地面に叩きつけられた衝激で唾液と血がまざったものを口から吐いて、倒れた。死んではないとは思うげと、完全に戦闘不能だ。


えい!


もう考えいている場合じゃないって思って、フラスコを作って投げつける。思っていたより、狙い通りに投げられて、自分でもびっくり。

でも、そのお陰で、ルイーザさんに追撃される前に、ユエノフの気をこっちに向けることに成功した。


問題はここからどう闘うかだけど、なんとかなるでしょっていう楽観的な思考の元、行動してしまったから何も考えていない。


まずはルイーザさんから離れてもらいたい。

弓を構えて即座に放つ。今できる最速の早射ちでユエノフを狙い射つ。


華麗に避けられた。


再度弓を構えて矢を放つ。

そしてまた避けられる。


はっきり言って、ルイーザさんが闘えるならともかく、1人でユエノフを相手にして倒れているルイーザさんをつれて逃げられる自信は全くない。


「メイクケミカル・H2SO4(サルフリットアシッド)。ウォーターショット。」


銃のように手を構えて硫酸をユエノフに向かって射出する。

水魔術と化学魔術を組み合わせることで、威力の弱いメイクケミカルの弱点を補って、そこそこの威力で射ち出すことができる。

混合魔術ってやつだね。


こうやってすぐに応用が効くのは、魔術の才能があってこそだよね。これも王家の血のお陰なのかな。


あくまでそこそこの威カしか出せない。だから特別速いわけではない。

そんなものがAランクハンターと渡り合えていたこの執事に通じるはずもなく、簡単な土魔術であしらわて、お返しとばかりにアースバインドを放ってきた。床から土でできた木の枝のような物が出てきて捕まえようと迫ってきたから軽く跳んでそれを避けた。


また捕まえようとしているだけで、殺す気は無いみたいだからちょっと安心した。


攻撃をやめたらユエノフが話し始めた。


「どうやって牢屋から出た。あの結界は、この国でも最高の魔導具技師が手がけた最高品質の物だぞ。魔術も物理も鉄格子を撃ち破る威力の攻撃は全て無効化する結界を破壊したとでも言うのか。君みたいな少女にそんなことができるとは思えんが。」

「うーんとね。本当は教えたく無いけど特別に教えてあげるね。結界が攻撃だって判断できなかったんだよ。『塩酸』って分かる? 鉄を溶かせる特別な液体だよ。それを作って鉄格子を溶かしただけ。今射った水魔術にも硫酸を混ぜたんだ。当たってたら皮膚が溶けて今頃めちゃくちゃ痛い思いしてたと思うよ。」

「そうか。逃げられるのは想定外だったが、また捕まえたら良いだけだ。アースバインド!」


また跳んで避けようと思ったら違う場所から同じような土の触手がもう1本出現して襲いかかってきたから、


「元素生成・74・タングステン・183.8、3695、5828」


タングステンの壁を生み出して受け止めた。


ドーン


ユエノフと攻防している間に遠くからまた爆発音。

ん? 爆発?

あ! 思いついた!


化学魔術で爆発を起こせばいい。

でも今のユエノフの位置では爆発で攻撃しようとしたらルイーザさんにまで危険が及ぶ。

ユエノフがまだ、ただの少女だと侮っている間にルイーザさんから離したい。


ユエノフを動かせそうな攻撃は、やっぱり弓矢しか無い。

接近戦は勝てっこ無いし、魔術も相殺される。なら得意な弓でしか対抗し得ない。


だから、繰り返し繰り返しユエノフに向かって矢を射る。

何発か射ったら魔術で矢を止めるのが面倒になったのか、急に距離を縮めてきた。


速くて絶対避けられないって思ってタングステンの壁の裏に隠れた。


「メイクケミカル・H2SO4(サルフリットアシッド)。ウォーターショット。」


隠れているところを捕まえようと壁を回ってきたユエノフにまた硫酸水鉄砲をプレゼントする。避けられたけどユエノフをルイーザさんから離すことには成功した。


隠れていたところから抜け出してルイーザさんを背にして叫んだ。


「元素生成・6・カーボン・12、3915。タービランス。ファイアボール」


爆発の代表、粉塵爆発だ。

炭素の粉を作り出し、風魔術で飛ばす、そして燃やす。

炭素は昇華するから昇華点だけ言えばいい。


ドンドンドーン


間近で爆発が起こって鼓膜が潰れるかと思った。

この音でルイーザさんが起きてくれたらいいんだけど、ダメみたいだね。

2次爆発も3次爆発も起きて衝撃波が届いた。炭素の粉をユエノフに向かって飛ばしたから、こちらの被害は最小限で済んだ。


今の爆発をもろに受けたんだ。流石の強すぎ執事でも今のは耐えられまい。


ルイーザさんを引きずっていくわけにもいかないから、とりあえずその場からは動かなかった。


少し燃焼がおさまったからユエノフの様子が見えた。左腕に少しだけ火傷を負っただけで他は無事だった。爆発を喰らう直前で大地魔術で壁を作ったみたい。


「やってくれたな。まだ幼い少女で、人質だから捕獲して牢に送り返そうと思ってたけど、もう手加減できん。アースアロー!」

10本の土の矢が作り出され、襲いかかってきた。


死んだ、って思った。


「危ないナノ!」

「危ないよ、ですわ!」

「危ないんだよ!」


エレメンタムたちの注意喚起の声が聞こえた。


その瞬間、


「樹木生誕・リグナムバイタ」


ユエノフのでも、ルイーザさんのでもない、エレメンタムたちのでもない声が聞こえた。


そして、突然目の前に木が生えてきて、土の矢を受けとめるように防いだ。


「2人とも無事か。」


いつの間にか後ろに、年齢が同じくらいでシルバー色の髪の男の子がいた。赤いベストに真っ黒なロングコートという厨二的な服装をしていた。


「誰?」

「ロベルトだ。」


そう簡潔に答えられた。



えーと、一応ユエノフとは敵対してるみたいだし味方だとは思う。


「サルトは大丈夫だげど、ルイーザさんが死にそう。」

「そうか、ちょっと待ってろ。」


ロベルトはしばらくルイーザさんの傷を確認してから、治癒魔術を使ってその傷を癒した。


その間、ユエノフはドリルのように回転した三角錐型の土を作って今にも射ち出さんとしていた。


別に木の周りを回って来たらいいじゃんって思ったけど、ユエノフは正面から木を討ち破ろうとしている。


「やばいよ。攻撃がくるよ。」

「大丈夫だ。」


そう言いながら頭をぽんっと撫でられた。

年齢が同じくらい、というか前世も含めたら年下の男の子に頭を撫でられているこの状況は非常に居た堪れない。


でもあの自信がありそうな顔を見て少し安心した。ていうか彼は最早、ユエノフなんて敵じゃないと言いたげに嘲笑していた。


「はあぁぁ! 喰らえ! アースランス!」

「樹間転移」


ロベルトは振り返りもせず、魔術を使った。


すると、まるで液体に沈んでいくように土の槍が木に吸収されて、消えた。そして、いつの間にかユエノフの後ろに生まれていた別の同じ種類の木からその土の槍が発射された。

木の間を突然移動したみたい。


そんなことは想定していなかったユエノフは後ろから飛んてきた自分のアースランスに貫かれて右腕が根本から切れた。


 

ピュッ


そのまま、ロベルトの銃の弾丸を3発を心臓に撃ち込まれて、ユエノフは死んだ。普通の銃より銃声が小さかったけど、1回しか聞こえなかった。信じられないくらいの早撃ち。

ロベルトは今殺したユエノフにお祈りして、すぐに切り替えたように振り返ってきて、


「行くぞ。」


そう淡々と告げられた。


何でだろう。ユエノフが敵だからか、目の前で死んでも何とも思わない。人殺しを見ると普通は恐怖やショックから脳がパニックを起こして、感情が麻痺して体が動かなくなるってどっかの本で読んだことがある気がする。

前世も含めて、人が死ぬ瞬間なんて見たことがなかった。もっと恐怖するかと思っていた。


とりあえず、ここに、残っていても何かできることがあるわけでは無いから、ついていくことにした。


ルイーザさんはロベルトの治療のお陰でで意識も戻って、普通に横を歩いでいる。

ロベルトはぼそぼそとなんか話していて、彼が話しが終わったころにまたこっちに話しかけてきた。


「魔法線で仲間と連絡がついた。屋敷の裏に車を停めているらしい。そこに向かう。いいな。」

「わかりました。」

「わかった。」


返事をして、ロベルトについていった。

そのまま歩いていたら数分で出口に着いた。

もう外は真っ暗で、遠くに車のヘッドランプの明りが見えた


「君にしては遅かったね。手こずる相手に当たったのか?」

「まあ、最後に闘った奴は多小、骨があったかもね。300回闘ったら1回は負けたかもしれん。」

「さすがは銀翠滅生(ぎんすいめっせい)だね。依頼達成率100%を誇る最年少で王家直属の暗殺者になった君にとっては造作もない依頼だったのかもね。」


いかにも暗殺姫って感じのお姉さんが高級そうな真っ黒な車から顔を出していた。右手に火のついた煙草、左手ではライターの火のように小さな炎が人指し指から出でいた。

火魔術の中でも初歩的な魔術、キャンドルファイアだと思う。


「とりあえずこの2人を王城まで送ってやれ。俺は先に行っている。」

「了解したわ。それじゃあ君たちは入って。」


言われるがまま車に乗った。

内装もまた、外観に同じように金を飽かしたような雰囲気の車内空間だった。

椅子は黒革シートで、触ったことがない、不思議だけど、心地のよい手触りだった。


シートベルトをすると、眠気が襲ってきた。

こっちの世界の車にはリクライニングが無いから座ったまま寝ることになるけど、仕方ないか。


「サルト、眠いのかい。大丈夫よ、あの運転手は私の知り合いだよ。安心して寝ていいよ。」


ルイーザさんの知り合いなら安心だね。


眠りに落ちる直前に運転手さんがルイーザに話しているのが聞こえた。


「あんたが失敗るなんて珍しいじゃない。腕が落ちたんじゃないの。昔は僕より強かったじゃない。僕たちのクランの期待のルーキーはどうだった。彼の得意属性、生物学魔術は生かすことも殺すことも簡単にできちまうらしい。あれは生物を超えたなn、、、、」


そこまで聞いて睡魔に負けて意識が途絶えた。

やっと誘拐騒動が終わったって感じですね。

ロベルトさん、強すぎですね。

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