87話 第2皇女と王国の今昔
投稿が予定よりも4週間も遅れてしまい申し訳ありません。定期的に確認してくださっている方が数名いてくださって大変嬉しいです。そして、重ねてもう一度投稿が遅れたことをもう一度謝ります。
すみませんでした。
床に座らせられて、男が発言するのを待った。
すると誘拐犯が、
「あのー。シュセンド様、依頼料を支払った頂けたらと。」
「ああ、そうだった。ユエノフに用意させる。下で待っておれ。あ、その護衛の女に用はないから、自由にしていいぞ。」
依頼主も誘拐犯もニヤニヤしててキモい。
ルイーザさんがこの男たちに何をされるのか想像もしたくない。
「第2皇女。名前はサルトだっけか? なぜ連れてこられてきたか分からないって顔をしているな。」
「どこのだけだか知らないけど、人違いだと思う。確かにサルトの名前はサルトだけど第2皇女なんかじゃない。」
前世から先生とか先輩とかに敬語を使うのが苦手だった。今回も貴族っていう目上の人のはずなのにすごくくだけた言葉使いで話しちゃった。
誘拐した首謀者に敬語を使うのが正解かって聞かれたらちょっと迷うところだけど。
「そんなことはあり得ない。調べは完璧についている。」
「そんなこと言われてもサルト何も知らないし。」
「これほど無知だったとは。まあいいだろう。教えてやる。」
シュセンドとかいう貴族が少し間を空けてから話し始めた。
「このセリンデブル王国の政治は一見、王と有力な貴族を中心として政治を行い、その他の貴族は、王家の信用によって与えられた領地を治めるような封建制で成り立っている。が、すべての貴族が王家に完全な忠誠を誓っているわけではない。貴族はセリンデル公爵を筆頭とした君主制保守派、ルキウス侯爵やユニウス伯爵が率いる共和制革新派、アシュトン子爵などの武功を挙げたことによって貴族位になった者はほとんどが政治に興味がなく中立派。そんな3派閥に分かれている。10年前、第2皇女、つまり君が生まれて共和革新派は君の身柄を利用して法律改正の交渉をするか、改革を起こすかを考えていたんだが、雇った精鋭部隊が君を連れて王城を出ようとした時に近衛魔術師団副団長に取り押さえられた。手先どもはそのまま処刑されて、あの事件の首謀者だったブルトゥス伯爵はその後、処刑された。王家によって情報が隠されていて、その後の君の所在と生死は分かってなかった。表向きには死んだと伝えられたが、信じない貴族の方が多かったな。だから、君は俺らの知らない場所で生きていると考え、場所が掴めて、タイミングがあれば誘拐して再度、王家との交渉材料にしてやろうとした。第5皇子の生誕により生死も不明な第2皇女そちらの誘拐に切り替えた者もいたが君を狙う者も少なくはなかった。」
そこでシュセンドが1度話をやめて窓の外に目線を送った。
「そして2年前、セリンデル公爵領にどこの貴族のかも分からない大邸宅があるという情報を掴んだ。俺らの手のものを使用人として送り込んで数日間、情報を集めさせていたらその邸宅にはサルトとかいう者が住んでいるというではないか。サルト・セリンデブル。第2皇女の名前だ。偶然なはずかない。勿論、王家の陽動も疑った。だから1年間、慎重に調査を続けた。案の定、他に2軒サルトという名の9歳頃の女の子が住む邸宅が見つかった。どの子も同じ薄ピンク色の髪で同じように大きな邸宅で使用人に囲まれて暮らして移動には必ず護衛がついていた。本物の第2皇女がどれかとなった時に、君の邸宅に送り込んだ奴から面白い情報が届いた。」
シュセンドが近づいてきて、髪を結んでいた金色の糸の編み込まれた白いリボンを取った。
「君がつけているこのリボンは君が生まれて間もないときに君の母が君に授けたものだ。生まれた第2皇女のお披露目の時に多くの貴族の前で渡していたから色も特徴も覚えている。そして、他の2人は持っていなかったという。勿論、それだけではない。君の護衛はAランクハンター2人なのに、他2人にはBランクハンターが2人ずつだと発覚した。明らかに君だけ特別だった。高い金を叩いて買った真実の魔法薬"トゥルース"を使って他2人のうちの1人を尋問したら君が本物だって自白したよ。初めからそうしておけばよかったと少しだけ後悔したよ。そんなわけで1年間、君を監視し続けて攫うタイミングを見計らっていた。そして遂に、今日、護衛が1人しか付いていなく、邸宅から離れた場所にに出かけると聞き、早速、暗殺者ギルドに誘拐の依頼を出し、君をここに連れてきたってわけだ。」
話は分かった。
分かったけど、急に誘拐されてあなたは実はこの国のお姫様ですって言われても信じれないよね。
確かにこういう、『実はお姫様でした』って展開はすごく憧れるし、経験してみたかったけど、その王家の敵に真実を明かされるとは思ってもみなかった。
「それで、これからサルトはどうなるの?」
「まずは共和制革新派の皆に君を確保したという情報を伝えなければならん、そこから作戦会議などしてから謀反を起こす。死んだ設定になっている第2皇女のために即座に兵は動かせまい。だから、俺らの準備が完了するまでこの屋敷の牢にいてもらう。俺は滅多に入らんが、心地の良い場所ではないぞ。あ、そうだ。リボンは返しておく。」
予想はしてたけど監禁されるよねー。
魔術は結構使えるし、スキルも結構充実しているし年齢の平均より強いと思うけど、大の大人に勝てるわけない。前世も含めると通算27歳とはいえ、所詮は子供なんだよ。だから、抵抗しても無駄だよね。
「ユエノフ、1番広くて、結界が張られているあの牢だ。」
「承知いたしました。」
さっきまでシュセンドの横に立っていた中年の執事が気配もなく突然、後ろに現れていた。
そのまま、誘拐犯と同じように縄を掴まれて引きずられた。
普通に痛い。
4つ階段を下がると明かりが一気に減った。
上階の魔導具に照らされた絨毯が敷かれた廊下とは打って変わって、壁にかかる松明に石畳の床の狭い廊下に出た。
「ここだ。入れ。」
牢屋は10畳くらいの広い空間だった。1人用の牢にしては広い。
牢の内装はほとんど何もなく、ぼっとんトイレとそれを隠すためのお気持ち程度の木の板の仕切りだけだった。トイレットペーパーすら無い。
そんな空間にポイっと投げ入れられて、
ギーッ、カチ
鉄格子の閉まる音。鍵が閉められた音。
「食事は1日3回持ってくる。」
それだけ言ってユエノフは去っていった。
牢に入れられてから3時間くらいたったころだったか。
「ねえ、ひまー。本とかないの。」
天井の蜘蛛の巣に捕まった蝿がどうにか抜け出そうと奮闘する様子を眺めていたけど、無慈悲にも巣の主に食われたのを機に退屈した。だから、ユエノフが去ったときに入れ替わるように入ってきた高齢のメイドになんか暇つぶしになるものを求めた。
「10歳の子供がこんなとこに閉じ込められたら当然よね。旦那様も何をお考えになられているのやら。そうね。うーん。本は無いけど、暇なら私と少しお話をしましょう。何かしたい話とかある?」
「特に無いかな。」
「そーね。じゃあ魔術学院についてお話しようか。」
魔術学院ね。セリンデル公爵領にある家から1番近いしパレス学院に通うつもりだったけど、なんか人質にされたみたいだし、家族である(らしい)王家が交渉に応じなかったり、反王家派が追い詰められてどうしようもなくなった時、そんな最悪の場合には殺されるかもしれない。
そんなわけで、今はもう通えるかどうかもわからない。
「知ってると思うけど、この国の魔術学院は6ヶ所。どこも凄い卒業生を出している。私が通っていたパレス学院は部活が豊富でね、メイド部で色んなことを経験して私は今この仕事に就いたのよ。部活が多いから色んなことが経験できる。だからかもね、文化とか流行りとかはやっぱパレス学院から生まれることが多いのよ。それで、ここからは他の使用人の言伝なんだけどね、ジェネブル学院では外国語のお勉強をたくさんするらしいのよ。あと、船に乗って航海の実習とかもあって楽しかったらしいよ。あとあと、ジュラネル学院はどのクラスでも商人を育成するような教育が中心なんだって。ルーベルン学院とポニラ学院はダンジョン都市にある学院なだけあってハンターとか兵士とかの戦闘員の育成が中心らしい。特にルーベルン学院は完全な実力至上主義で毎年ある6校大祭の実技部門では優勝常連よ。もちろん、落ちぶれて他の学院に移動する人も多いみたいだけど。最後にルーク学院は学術に秀でたところで新魔術の発見とか新魔導具開発とかの実績が多いわね。マナポーションの開発とか重力魔術の発見とかをしたのはルーク学院の生徒だったはずよ。サルトちゃんはどこに行きたいのかしら。」
それぞれに特性があって面白いね。
なんだか中学入試で志望校を選んだ時を思い出すな。
ここではっきり言おう。花野井風化はたいへん頭がよかった。というか転生した今もその知識は受け継いでいる。
小学校の授業は概ね先に教科書を読むだけで理解できたし、授業は暇だった。だからより難しい勉強をしようと思って塾に入れさせてもらった。そこでも大抵の教科で上位の成績が取れてつまらなかった。
理科、特に化学が大好きだった。
小4の段階で高校化学の内容を学んでいた。
授業中に有機化学の参考書を出して読んでいたら先生にドン引きされた。
ついでに言うと、論文を読むために英語は11歳で習得した。
勉強ができてしまって学校の授業がつまらなかった。
高校生になってもそれは変わらなかった。確かに内容は難しくなっていったけど、変わらない。試験ではケアレスミスの1つや2つがあって失点はするが、どの教科も90点台。
つまらなかった。
化学実験が好きで部屋にはガスバーナーや各種フラスコからリービッヒ冷却器まで数々の実験器具が揃っていて、もちろん数々の薬品も置いてあった。化学書もたくさん置いてあって、とても普通の一軒家の部屋とは思えない。
理系揃いの家族の部屋の中でも特に異彩を放っていたのは自覚している。
高校の友達を入れた時は、
「JKの部屋とは思えない。」
とまで言わせた。
否定できなかった。
そんな部屋にまともな服があるかというと、無いことは無いという答えになる。
普段、昼間は制服を着て、家に帰ってからは薄手のシャツを1枚着て白衣を羽織るだけだけれど、別にオシャレに興味がないわけではない。クローゼットの中の棚の引き出しを漁れば普通の女子高生が着るような服が出てくる。
智数を着せ替え人形にして遊ぶのも楽しいし。第1、休日に友達と遊びに行く時に着て行く服が必要でしょ。女子高生としての最低限のオシャレならできる。
話は戻るけど小6の時、もっと難しい勉強ができるところを求めて中学受験をすることにした。
そこで色んな学校のパンフレットを見て選んだっけか。
結局近くの中高一貫の公立を選んだ。科学探求に力を入れていて面白そうだから受けた。そして余裕で受かった。
あの時と同じでどの学校に行けばどんな面白い学びがあるのか考えるだけでわくわくする。
行ければ、の話だけど。
「とりあえず、パレス学院のつもり。でも今のサルトの状況じゃ魔術学院に通えないかもでしょ。」
「そうね。でも旦那様も君を殺そうだなんて思ってないはずよ。」
「それは。わかるよ。」
「あら、年齢の割に賢い子ね。これも王家の血かしら。」
「どうゆうこと?」
「それは知らないのか。結構有名な話なんだけどね。それじゃあ、このセリンデブル王国の建国の歴史は知ってる?」
「3000年くらい前に今のダークキャッスルあたりにあった小さな国からどんどん領地を広げていって周辺諸国をまとめ上げてできた連合国だったって習ったけど。」
「そう。約3000年前に築かれて王家の血筋は一度も途絶えていない。なんでか分かるかしら。」
「分からない。なんで?」
「その始まりの小さな国を人は先セリンデブル国と呼ぶのだけどその国に生まれた双子の兄弟がセリンデブル王国の建国者、セリンデブルパイオニアと呼ばれる2人。兄のストカルと弟のクッスポル。そんな2人は双子なのに全く似ておらず、クッスポルは軍神の加護を授かった戦の天才で、ストカルは政神の加護にを授かった知力や話術に長けた学術の秀才だったらしい。そんな2人だったけど、とても仲はよく、協力して周辺諸国への侵略や交渉を続け、今のセリンデブル王国の領土まで広げたと伝えられているわ。それで王家の血の話に戻るね。双子はセリンデブル王国を統一して、兄弟共に王として君臨した。そして子孫を残した。色々経緯があったんだろうけど、つまりは今の王家は双子の血を引いているの。だから多少なりと神族の加護が残っているのか、病気にかかりにくかったり、なんらかの才を持って生まれてくることが多いと言われているの。」
「へー。」
確かに生まれつき魔術の才能があったけど王家の血が関係していたのかな。
「そろそろ私の見張りの時間が終わってしまうわ。どうしても暇になったら今夜夕食を運んでくるユエノフ様にその可愛い顔で本をねだってみなさい。あの人、子供好きだから聞いてくれるかもしれないわよ。」
そう言って階段を上がっていった。
暇になったので脱獄できないかちょっとだけ試してみる。
「ファイアショット」
鉄格子目がけて1発射ってみる。
そしたらびっくり。鉄格子の10cm手前あたりで突然魔術が異空間に消えていくかのように消えていった。
不思議だ。鉄格子に触れることはできるのに魔術は届かないのか。
じゃあ、これはどうかな。
収納していた弓矢を出して構える。
そのまま弓を射った。
本来、矢が鉄格子に当たる音がするはずだったのだが、カランと間の抜けた音が聞こえて鉄格子の10cm手前で矢が急停止して床に落ちた。
そういえばシュセンドが結界のある牢って言ってたような気がする。
魔術攻撃は消して、物理攻撃は受け止める結界か。
今脱獄を阻んでいるのがその結界じゃなかったら大変興味深いものだと思う。
とにかく今は万策尽きた。
今日のところは諦めよう。
そんなことを考えた時、誰もいないはずの空間からいたずらっ子のような声が聞こえてきた。
「ねえねえ、困ってる?」
「困ってるよね、助けてやってもいいけどだぜ。」
「私たちのことが見つけられたらだけどだね! ふふふ。」
女の子か男の子の声か分からない上にどこから聞こえてきているかも分からない。
誰?
弓道部ですけど、弓を射るという表現に少しだけ違和感を覚えてしまいます。日本語的にはあっていると思うのですが。
次の1話は6時間後に投稿する予定です。




