73話 風の精霊は化け物です
前回の答え合わせですが、5895桁になるのは2048の階乗です。
当たりましたでしょうか。
因みにこれは、観測可能な宇宙にある原子の数(推定)より多いらしいです。
スクリナさんに言われるがまま着いていくと図書館に連れて行かれた。
図書館司書のアルイ先生にスクリナさんが何かを見せたら受付の奥に案内された。彼女の手に隠れて見えなかったから小さな物だったのは確かなんだが。
そこで、案内されたところには書庫があった。
『セリンデブルの歴史』
『危険な魔物とその討伐方法』
『時間と空間の概念』
『魔術の極意 〜基礎から学ぶ魔術学〜』
『龍の解剖と部位の使い道を徹底解説』
『異世界の存在の可能性』
なかなか興味深い内容の本ばかりだ。
アイルさんが『龍と精霊と神と悪魔と』という本を引き抜いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
本棚ごと床に沈んで、通路が開かれた。
その道にスクリナさんが入っていった。
「さっさと来い。」
「あ、はい。」
まさか学校にこんな隠し通路があったなんて。
壁に掛かったランプの光が廻り縁にかかる蜘蛛の巣を照らしていた。
スクリナさんは行く方向がわかっているみたいで、分かれ道を迷うことなくずんずんと進んでいた。
ずっと南西方向に向かっているのはわかるのだが、結局どこに向かっているのかわからない。
地下通路を出たのは、入ってから30分くらい経った頃だった。
出口は暖炉のような場所だった。炎の中を通って出たが、炎は全く暑くなく、むしろ冷たかった。
ゼノス先生が初めての授業で使っていた偽火魔術かな?
出たところには螺旋階段があった。それを登って行くと、塔の頂上に来ていた。
夜空の綺麗な星々が見える。
ここはどこだ。
ええっと。あれが本校舎であそこが正門、となるとあっちが北だから。ここは妖之塔か。
学院の四角い敷地の4角にある4つの塔。
・北東の五角柱型の神之塔
・南東の三角柱型の魔之塔
・南西の四角中型の妖之塔
・北西の円柱型の龍之塔
どの塔の外にも入り口のような物が見当たらないと思ったら、こんな方法で入り込むのか。
「妖之塔に連れてきて何をするつもりですか? スクリナさん。」
「目的地はもうちょい先よ。」
塔の頂上には大きな水球がなんの支えもなく浮かんでいた。
それだけならこの世界だったらあり得ると割り切れたのだろう。問題はその水球の中だ。
普通なら透明な水球を通して見えるはずのパレス学院の夜景がなく、長い廊下が見えた。
スクリナさんが入っていくのを見て付いていくことにした。
スクリナさんしか入れない場所なのかと思ったがすんなり通れた。
入ったところで、
「やっぱり。」
とスクリナさんが言ってきた。
不思議に思って、
「何がですか?」
とつい聞き返してしまった。
「この魔術は私と、もう1人が作り出した魔術なんよ。そして、この空間内に入れるのは、私か、彼女が許可した者、もしくは魔力量が10000以上の者。私も彼女もアンタに入る許可は与えてないからアンタは今、少なくとも10000の魔力を持ってるって分かるわけよ。」
「はあぁ、」
「はあぁって何よ、はあぁって。魔力量10000も持ってる12歳に会うのはは数千年生きてるのに初めてだよ。あの魔力石の異常な記録を見たときからアンタの行動は観察さしてもらってたけど、アンタは規格外や。魔王具所持者でも魔力保有量上限は数兆とか数京そこらや。それがアンタは無限って。なんだよ無限って。いい? 上位精霊の私だって17桁よ。魔力使用量上限が、私の魔力総量より多いのはマジヤバなわけで。」
そういうことか。
ん?
だとしたら今のうちの魔力量は師匠を超えてるってことか。
「まあ、それは予想通りやったからいいわ。」
すみません。多分、スクリナさんが思ってるより多いです。
もう自分に完全数の魔術をかける必要があるような危機的状況にならない限り、一生をかけても消費しきれない量、持ってます。
しばらく廊下を歩いていると、机や椅子、暖炉、ソファーなどの家具がある大きな部屋が見えた。
「お帰りなさいませ、スクリナ様。」
シエラと同じような色の黄緑色の髪、長さはベリーショートといったところか。目は右目が深緑、左目が焦げ茶色のオッドアイ。年齢は15歳くらいに見える。
メイド服を着ていて丁寧なお辞儀をしていた。
綺麗な所作で主人を迎えている。
凄い。
だが、なぜうちは今彼女に睨まれているのだろうか。
いや、直接睨まれている訳ではない。彼女の視線は主人のスクリナさんに向けられている。
見られていないのに、スキル『視線感知』、『敵意感知』、『鑑定感知』に反応があった。
というか鑑定されてるのか。鑑定されたら何が見られるんだろう。
「こら。」
メイドさんの脳天に拳骨1発。
「初対面の相手を鑑定するなと何回言えばいいのよ、エオリア。魔力量が異常だから警戒するのは分かるけど、ミロクは学院の生徒だからね。」
「すみませんでした。スクリナ様。」
それにしてもうちは何のために連れて来られたのだろうか。
ていうかスクリナさん、うちの名前をちゃんと知っていたのか。
「そうだ。本題に入ろっか。ミロク、エオリアと勝負をしてみてよ。」
「へ?」
変なところから声が出た。
「もちろん、今のアンタとエオリアとでは力の差が大きすぎる。だから、ハンデだよ。彼女に傷をつけられたらミロクの勝ち。私がミロクがもう戦えないと思ったらエオリアの勝ちってことでどうかしら。」
うん。話は分かったが、なぜだ。
「3つ、質問いいですか?」
「大丈夫だよ。質問にもよるけど私が答えられる範囲で答えるよ。」
「まずは、エオリアさんは何属性の魔術を使うのですか。」
「暴風属性よ。」
よもや師匠と同じ暴風属性だったとは。
師匠とどっちの方が強いのだろうか。
「次に、エオリアさんは何者なのでしょうか。」
「風の中級精霊で、まあ、私は友達のつもりだったけど、なぜか私のメイドになるって勝手にお世話とかしてくれるのよ。助かってるからいいんだけど。」
「もったいなき、お言葉。」
うちも中2の頃、戦闘メイドに憧れたな。
うちの身体能力じゃ不可能だったけど。
「最後ですが、なぜこんなことを?」
「なぜって。ミロクの本気が見たいからに決まってるでしょ。」
これだから気まぐれな性格の者が多い精霊族は、、、
うちは見せ物じゃないんだぞ。
でも、乗ってやろうじゃないか。
「わかりました。やりましょう。勝てたらもう一つ質問したいことがあります。できれば、スクリナさんにのみ聞いて欲しい質問です。」
生徒思いのスクリナさんのことだ。この申し出を断るはずがない。
「分かったわ。」
それからは少し移動した。部屋から部屋へと。
たどり着いたのが、さっきまで見てきたどの部屋よりも広い空間だった。広さで言ったら、いつしか行った競馬場ぐらいかな。
こんだけ広くなければ周りへの被害が恐ろしいことになるのだろう。
改めて思う、恐るべし精霊族と。
「2人とも準備はいい? それでは、試合開始。」
(ヘミスフィア)
無詠唱でヘミスフィアを発動する。
いつも通りお手並み拝見と行きたいが、相手がヤバい。
風系属性だからスクエアを貫通して攻撃が届くとは思えないが、火力は過去闘ってきた中で1番強いのは間違いない。
それぞれ魔力を10000以上込めたヘミスフィアを自分の周りに3つ展開。シャークロードと闘った時のスクエアより硬い障壁だ。
これが破られたらもう太刀打ちできない。
「ストームカッター」
静かにエオリアさんがそう言った瞬間。
うちの周りの地面が1m程削れて、1枚目のヘミスフィアが割れた。
おいおいおいおいおい。
あんなの食らったら跡形もなくうち、消し飛ぶんだけど。
うちを戦闘不能するのが彼女の勝利条件だよね。
スクリナさん、これ止めなくていいの?
「おおっと、エオリア選手渾身の鎌鼬! ミロク選手の防御障壁が1つ破られた!」
めっちゃ実況してる!!
だめだ。勝負に集中しなきゃ。
このフィールドワーク中、今使える魔術で強敵に通用する戦術を考えていたのだ。
名付けて、
”安全なところから攻撃しまくる作戦”
だ!
簡単な話だ。
スクエアとヘミスフィアの特性を利用する。
光・闇系魔術はスクエアとヘミスフィアを貫通する。
「円周率π、16個生成。行け!」
シャークロードやアリゲーターレックスに届いたんだ。この攻撃なら可能性はあるんだ。
全方向から迫りくる光の輪を避けられるもんならやってみろ!
「鎌鼬」
つぶやくようにエオリアさんが言った。
その瞬間、エオリアさんを囲うように旋風が起きた。
そしてエオリアさんにうちの魔術が触れる直前、霧散して、その余波でヘミスフィアがまた1枚割れた。
「ミロク選手の攻撃は惜しくもエオリア選手には届かなかった! そして防御障壁はまた割れた!」
いやいやいやいやいや。無理だって。勝てないって。あんな変則的な攻撃、収納できるわけがないし、絶望でしかないのですが。
でも負けるのは嫌だ。
魔力はたくさんあるんだ。多少無理をするか。
魔力量ならうちの方が上だ。持久戦に持ち込めばなんとか勝てるか。
「円周率π、512個生成。」
8個ずつ飛ばす。8方位からの攻撃。
鎌鼬はなんて大技、連発は不可能なはず。
ならば攻撃し続けるしかない。
「おりゃ」
「トルネード」
さっきの鎌鼬とは打って変わって今度は防御系魔術なのか。
威力は鎌鼬の半分ぐらいだが、一時的ではなく持続的にうちの攻撃を弾く暴風の壁が彼女を囲むようにあるのだ。
幸いトルネードを張っている間は攻撃できないみたいだから。とりあえず一方的に攻撃し続けることでうちが負けることはおそらくない。そして魔力切れを狙えば。
勝てる!
「甘い。鎌鼬」
だめ。今、鎌鼬食らったらヘミスフィアが割れて攻撃を喰らってしまう。死ぬことはなくても重傷を負うだろう。
完全数を自分に使ってしまうと魔力が一気に0まで減る。だから、使った瞬間うちの敗北が決まる。
緊急退避だ。
(ユークリッド空間、yマイナス空間)
はあはあはあはあ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
(ヘミスフィア)
さっきと同じ硬度のヘミスフィアを10枚展開。
ヘミスフィアも一緒に
(帰還)
さっきの場所に戻ってきた。
「ここでミロク選手帰ってきた! 何か秘策があるのか!?」
「円周率π、128個生成。」
「トルネード」
「発射!」
今回は4個ずつ飛ばす。トルネードの発動中は周りの壁によって彼女も動きが制限されるはずだ。ならば4つで十分だと思ったのだが、
「ストームバースト」
そう言って踏み込んだ瞬間、うちの視界からエオリアさんが消えた。
荒れ狂う風をまるで微風かのように通過してトルネードのバリアから出てきて、
「鎌鼬」
ヘミスフィアに触れながら至近距離での鎌鼬。
流石に10枚全て破られることはなかったが4枚割れて5枚目は瓦解寸前。
ただ盾がない状態で突っ込んできた。今までで1番の好機。
「発射!」
生成して放置状態だった残りの124個を同時発射。
この距離で外すわけがねえ。この勝負、もらった!
「ストームトランスポート」
すぐそこにいたエオリアさんは、今度こそ本当に消えた。
「はいはーい。試合終了! ミロクの勝利! エオリアは転移禁止って事前に決めてたよね。」
転移? 今、転移したのか?
「ですが、彼も転移を使っていたではありませんか。」
後ろからエオリアさんの声が聞こえてきた。
「確かに使っていた。私も使えるのにはびっくりしちゃった。でも、ミロクが転移してはいけないってルールはどこにもないし〜、これはもう紛れもなくミロクの勝利よ。」
「そう、ですね。」
ギリギリだったけど、なんか勝てたみたい。
よかったー。
はぁ、疲れた。
夕食、食べてなかったからな。
「食堂のブルーフィッシュの塩焼き定食が食べ、、、」
バタッ
そこからうちの意識はどこかに飛んでいっていた。
目が覚めたら、視界に白い天井と、白いカーテンが映った。
寮の部屋ではないみたいだ。
「どこだ、ここ。」
「病棟の第6医務室です。」
このちょっとツンのある声。誰だ?
声のした方に視線を向けると、エオリアさんがいた。
「エオリアさん。どうしてここに。」
「私はスクリナ様よりミロクさんが起きるまで様子を見るよう命じられたのでここにいます。疲労と空腹によって倒れたそうです。倒れる前に所望しておりましたから、第1食堂のブルーフィッシュの塩焼き定食を買ってくるようにも言われましたので持ってきてあります。そこに置いてあります。」
「ありがとうございます。」
「それでは、私はこれで失礼させていただきます。」
エオリアさんが出ていって、ブルーフィッシュの塩焼き定食を頬張っているとゼノス先生がシエラを連れてやってきた。
「調子はどうだ。」
「大丈夫、ミロク。」
「うん大丈夫。ご飯食べたから元気出てきたし。」
「シエラから解散後のことは聴いているし、エオリアからもスクリナに連れて行かれた後の話も聴いた。スクリナは自分のお巫山戯で生徒を危険にさらしてしまったと責任を感じてしまったみたいで自分を殺そうと自室で暴れてるらしい。伝承が伝えられている限り精霊は不死身だっていうのに。不憫なもんだ。」
そうは言うが、ゼノス先生はスクリナさんを憐れむような表情を全くしていない。むしろ、邪悪な笑顔を浮かべている。
教員の間でもスクリナさんの気まぐれな行動には目に余るところがあったのだろうな。
「疲れただろう。シエラと寮へ戻れ。スクリナに何か質問をすると約束したみたいだが、後日にしな。」
「そう、します。」
寮の部屋に戻ってからは、制服のままなのも気にせず、ベッドに倒れ込んだ。
”安全なところから攻撃しまくる作戦”
今回は相手が悪かったですが、普通に強いですね。
次回は恐らく1週間で投稿できないと思います。
なるべく早く投稿しようと思いますが、執筆できる時間が来週から一気に減ってしまうのでどうしても。
申し訳ないです。




