結婚式 中編
「奥様、最後はオーブンで仕上げですね?」
エプロン姿の女の子がメモを片手に質問する。
「ええ最後に30分。焦げないよう温度に気を付けてね」
「分かりました」
「これで下拵えは全て終わり、明日は(調理)お願いね」
「「「はい」」」
明日は娘の結婚式。
今日はパーティに備えて料理の準備をしていた。
もちろん私も結婚式に出席するので最後の調理は料理を教えている子達に任せる。
食堂の料理人達も協力してくれるから不安は無い。(料理人も私の教え子)
「ふう」
玄関で皆を見送りエプロンを外す。
家の中では夫とアルクの父がリビングで出来上がり酔いつぶれていた。
「全く、歳を考えなさい」
2人の背中に毛布を掛けて自室に。
ベッドで大きく伸びをすると強張った手足が軋んだ。
「私も年寄りだな、もう65歳だもの」
もう60過ぎのお婆さん。
本当に今まで色々な事が有った。
私の実家は貧乏男爵、4人姉妹の4女。
そんな私が伯爵家の正妻なのは訳がある。
なぜなら主人も元々は3男坊。
家督を継ぐ必要の無い主人、恋愛は自由だった。
しかし結婚後間もなく主人の兄達が相次いで亡くなり、伯爵家を継ぐ事となった(主人の兄達には子供が居なかった)
それが私達夫婦、波乱の始まり。
主人は貴族には珍しく側室や妾を持たない人。
私が妊娠すると周りの貴族達から主人に『側室を』と話が上がり始めた。
貴族達からすれば伯爵家と主人の宮廷医師の肩書きが目当て。
家に入れたら最後、私は妻の座を奪われ、お腹の子すら害されかねない。
主人は宮廷医師の地位を捨て、私達家族を守るため王都を去る決断をした。
人望が厚かった主人に協力してくれる貴族も多く、無事に私達は王都を去る事が出来たのだが、
最後まで主人を籠絡しようとしていたボウモア家に主人は伯爵領を全て差し出した。
有力なボウモア家に睨まれたら危険と判断したのだ。
辺境の地に落ち延びた私達家族を特に助けてくれたのがアルクの両親。
町に早く溶け込めたのは間違いなく彼等のお陰、本当にお世話になった。
娘達がアルクに惹かれたのも分かる。
私もアルクの人間性が大好き。
アルクが娘達のお婿さんならと何時も思っていた。
そんなアルクと娘達の間に可愛い孫に恵まれ、フレアはようやくアルクと結婚式を挙げる事が出来る。
フレアは昔からの念願が叶うのだ。
呪いを受けた体では子供を身籠れない、ローゼスはフレアの為に呪いを屑に移し無事に子供を授かった。
更に翌年、ローゼスはアスタも説得し子供が出来た。
私達夫婦には因縁深いボウモア家の人間だが、ローゼスには感謝している。
[ボウモア家]
今は存在しない公爵家。
それはローゼスが潰したのだ。
アルク商会の財に目が眩んだボウモア家は追放したローゼスを使い、乗っ取りを画策した。
(ローゼスを呼び戻し、更にアルクを殺そうとした)
計画を知ったローゼスは国王陛下と謀り、逆にボウモア家を葬った。
その後は詳しく知らない。
知りたいとも思わない。
ただ『ボウモア家が復権する事は無い』とだけ国王陛下から告げられた。
ローゼスはアルクの両親から本当によくして貰っている。
ローゼスもアルクの両親によく尽くしている。
その事は分かっているのだが、
「アスタ...」
やはり頭をよぎるのはアスタの事、屑に人生を狂わされ、未だに薬物の発作と過去の過ちに苦しみ続けているアスタ。
アルクの両親はまだアスタを許して無いのだろうか?
「無理か...」
もし娘が呪われ、婚約者に見棄てられたら、と考えると許してあげて欲しいとは言えない。
でもアスタはアルクの母と凄く仲が良かっただけにせめて仲直りを、と考えずにいられない。
「...ウェディングドレス」
20年前アスタとフレアが魔王討伐に出掛ける時、アルクの母に言った娘達の言葉を思い出す。
『お義母様、帰って来たら私達の結婚式のウェディングドレスをお願いしますね』
『分かった、おばさん心を込めて作るからね』
アルクの母は2着のウェディングドレスを作りアスタとフレアの帰りを待っていた。
操られていたとはいえ、アスタの裏切りに泣きながらウェディングドレスを燃やすアルクの母の姿に私は言葉を失った。
今回作ってるのはフレアとローゼスの2着だろう。
アスタもウェディングドレスには忌まわしい思い出がある。
断罪の際に着ていたのがウェディングドレスだったから。
アスタ自身は諦めている。
しかし愚かな過ちを犯してしまった娘の母は諦め切れないのだ。




