元聖女の息子 ラルク
「お母さん待ってよ!!」
お母さんが乗る馬に後ろから僕は叫ぶ。
いつも僕を大切にしてくれるお母さん、でも今は自分の気持ちを優先している。
「ラルク様、暫くお待ちを」
討伐隊の副隊長さんが苦笑いしながらお母さんの馬を追い掛けて行く。
周りの隊員さん達も笑顔で僕を見ている。
恥ずかしいな、お母さんに甘えてるみたいじゃないか。
「お母さんの気持ちも分かるけどね」
辺境の街に巣食う盗賊団を根絶やしにする事を命ぜられたお母さんは討伐隊を率いて半年をかけ役目を果たした。
18年前に魔王は倒された。
でも魔物達に荒らされた国々の治安はなかなか回復しない、盗賊や反乱を企てる者達のせいだ。
お母さんはその後引き続いて聖女の力を使い世界中の治安回復に努めた。
その後お母さんは僕を身籠った事で聖女を返上した。
新しく[戦騎士]と言う神託を貰って今も世界中の悪い奴等を懲らしめて回っている。
戦騎士は戦いに特化した神託で、戦うだけなら聖剣を持った勇者にも負けない位強いそうだ。
魔王がいない今、勇者もいないからお母さんの強さは世界一と言われている。
それに聖女の治癒魔法も使えるから最強のお母さん。
「神託なんてどうでもいい、ただ聖女を辞められた事が嬉しい」
いつもお母さんはそう言っている。
そう言えば魔王を倒した勇者はどうなったんだろう?
国の公式文書にも[凱旋後行方不明]としか書かれてない。
勇者の出身国は勇者そのものが存在しなかった事にされていると聞いた。
お母さんに『勇者ってどんな人だった?』って聞いたら、
「屑」
それしか言わなかった(凄く怖かった)
「ラルクごめんね、お母さん焦っちゃって」
申し訳ない顔でお母さんは戻って来た。
そんな顔されたら怒る事も出来なくなる。
「いいよ、今回は長くお家に居られるのかな?」
馬を並べてお母さんに聞く。
だいたい1ヶ月程の休養したらまた次の場所に行く生活をしている。
「そうよ、今回は半年は居られると思う」
満面の笑みを浮かべるお母さん。
「良かった、お父さんとしっかり甘えてね」
「ラ、ラルク、お母さんをからかわないの!」
真っ赤な顔のお母さん。とても嬉しそうだ。
僕は10歳からお母さんを手伝う為討伐隊に同行している。
様々な魔術の才能を受け継いだのもあるけど本当の役目は別にある。
それは発作を鎮める事。
おじいちゃん達の作ったお薬と僕の治癒魔法で発作を鎮める。
20年前に魔王討伐に参加した時、お母さんは悪い奴から酷い目にあってしまった。
詳しくは知らないけど死ぬ程辛い目にあった事は間違いない。
発作は昔を思い出すようで僕を抱き締めて
『...アルクごめんね!』
って泣きながら叫ぶんだ。
(僕がお父さんに似ているからかな?)
「どうしたのラルク?」
お母さんは僕の顔を見て首を傾げる。
もう40歳に近いお母さんだけど凄く綺麗で若く見える。
それはお母さんだけじゃない、フレア叔母さんやローゼス様も。
お父さんの受けた呪いのせいで歳を取りにくくなったからだ。
呪いはまだ解けないけどフレア叔母さんとローゼス様のお陰でお父さんは年に一度、半年間目覚める。
それが今回って事なんだ。
「今回は宝箱見つからなかったね」
「そうね...」
残念そうなお母さん、討伐の合間に宝箱の捜索はしているけどなかなか見つからない。
それでも今まで20個を越える宝箱を見つけたけど中身が目的の物じゃなかった。
「またローゼス様に叱られちゃう」
少し怯えた表情のお母さん、こんなに強いのにローゼス様にはかなわないんだって。
僕には優しいおばさんなんだけど。
「大丈夫だよ、ローゼスおばさんも分かってくれるって」
「こら!ちゃんとローゼス様って言いなさい!」
「ごめんなさい」
いけない、お母さんにはローゼス様って呼ばないと怒るんだ。
「アスタ様、見えてきましたぞ」
にこやかに僕達のやり取りを見ていた副隊長さんが指差す方を見ると大きな城門が姿を現した。
王都にも負けない素晴らしい城門、ローゼスおばさ...ローゼス様が作ったんだ。
『アルク商会の本拠地がある土地に相応しい物を』って。
「それでは後程」
「ありがとうございました」
「ありがとう、またね!」
城門をくぐり討伐隊の皆と一旦お別れ。
お母さんと僕は馬を討伐隊に託して歩きだす。
久し振りにみんなに逢える。
僕とお母さんは足取りも軽く広場に急いだ。




