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あなたと一緒に 後編

「行きましょう」


「はい...」


フレアが命懸けでアルク様の凍結を解除した翌日、傷の癒えたアスタを連れてアルク様の家に行く。


アスタは元気が無い。

そりゃそうだ、発作から目覚めたらフレアは手足が無く呻いていたら何があったか想像できただろう。


「あのローゼス様...」


「何ですか?」


「アルクのお父さん達には...」


「もちろん説明しました。

貴女がハンクにされた事全てを」


「全てですか...」


全くこの女は何度同じ事を聞くんだ。

覚悟を決めたのではなかったのか?

そんなに嫌なら...いや、過ぎた事を言うのは止めよう。


並んで歩いているとアスタは何度も溜め息を吐こうとするので無言で睨む。

今はやるべき事をするのが大事で、余計な感傷は捨てるべきだ。

その後で感傷でも何でも浸ればいい。


「失礼します」


アルク様の家に着き扉を開けた。


「待ってたよ」


「ローゼスちゃん、お願いね」


アルク様のご両親が私達の到着を並んで待っていて下さった。

その顔は複雑な感情の入り雑じった物で、


「...失礼します」


私の後ろで消え入りそうな声で頭を下げるアスタ、見なくても体が小刻みに震えているのが分かる。


「...今日は断らないでくれよ」


「お父さん...」


やはりアルク様のお父様は我慢できなかったみたいだ、お母様も止めるでなく、ただアスタを見詰めている。


「...はい」


アスタは必死で涙を堪えて返事をする。

アルク様のご両親の気持ちが痛いほど分かる私はただ頷きながら奥に進む、固まるアスタを引き摺りながら。


「それでは後程」


アルク様のご両親を部屋の外に用意した椅子に座って貰う。

万が一アスタのスキルが失敗した時を考えて、絶望するご両親を見たくない。


「アルク...」


私のスキルで眠るアルク様を見つめるアスタ、その目からは既に涙が溢れていた。

時間が勿体無い、フレアが目覚めるまでそれほど悠長に構えてられない。


「それでは始めます」


「...はい...」


解除(リリース)


「アグッ!!」


睡眠のスキルを解除すると同時にアルク様の体が跳ねて、そして呻き声に心が押し潰されそうになる。


「アスタ早くなさい!!」


隣で唖然とするアスタに怒鳴る、この女は!


「は、はい[慈愛(チャーティ)]!」


慌てながらアスタは[慈愛]のスキルを発動させる。

慈愛のスキルは痛みを取るスキル、傷ついた人の痛みを癒し苦痛を和らげる事が出来る。

呪いにも有効の筈だが普通の慈愛では効果が無かった、だが聖女の慈愛なら、


「う...」


アルク様の表情から苦悶の色が薄れていく。


「アルク様!!」


「アルク!!」


私達は必死で呼び掛ける。

『お願い、上手く行って!』

そう心で叫びながら。


「あ、あれ?」


アルク様は目を開き私達を見た、その表情は優しく穏やかで私の心を満たして行く。


「アスタ?ローゼスも?」


「大丈夫ですか?」


「アルク、痛くない?」


「え?あ、うん」


アルク様は目を忙しく動かした、状況を把握出来ない様だ。


「アルク様、時間がございません、今から私の言う事をお聞き下さい」


抱き締めたい気持ちを抑えながら手短に説明をする。


呪いは未だに解けて無い事。

呪いを解くには解呪の記憶が必要な事。

それにはアスタの力が必要な事。


しかしアスタは誠実の契りを破ってしまい呪われて力がうまく使えない事。

フレアがアスタの呪いを解く為命懸けで時間を稼いでくれた事を。


「...アスタ、自分の誠実の契りを解除しなかったの?」


聞き終えたアルク様は静かに呟いた。

それはアスタとハンクの幸せを願い、アルク様は先に誠実の契りを解除していた事を意味していた。


「ごめんなさい...私アルクを裏切って...ハンクに...」


言葉にならずアスタは崩れ落ちた。

気持ちは分かる、でも長々説明する時間は無い。


「アルク様、アスタはハンクに騙され自我を失っていたのです。

それで呪いを」


「そっか、アスタ大変だったね」


優しい目でアルク様はアスタの方に手を向けようとするが腕は震えるばかりで上がらない。

フレアの回復が早く、アルク様の呪いが進んでいる事を現していた。


「ごめんなさい、私もうアルクのお嫁さんになれない。でもきっと呪いは解くから。

だから、だから...」


震える手でアルク様の手を握り謝罪を繰り返すアスタ、そんな事は後にすれば良いものを。


「どうして?アスタは僕を嫌いになったの?」


「嫌いじゃない!愛してます!!アルクだけを愛してます!」


絶叫するアスタ、血のでるよう叫びに止める事が出来ない。


「そう、ありがとう。良かった」


「良くないよ、私もう穢れて...」


「アスタは穢れてなんかないよ」


「アルク...」


「穢れてなんかいるもんか。

アスタはアスタだ、それで充分だよ。無理しないで」


「アルク」


「アルク様...」


やはりアルク様はアスタを愛しておられる。

私の入る隙間など無いんだ。

でもこれで良い、早く呪いを解いてアルク様の傍に居られたら...


「ローゼス、後どれくらい僕の意識が続くのかな?」


「は、はい後半日程かと」


「そっか、意外と短いね」


「ええ、フレアの回復力は凄まじく」


「ううん、でもフレアに言っといて『もうこんな事しちゃ駄目だ』って。

僕の為に傷つくのは堪えられない」


「...はい」


やはりアルク様はフレアも...


「それじゃ早く誠実の契りを結ぼう」


「はい」


アスタはアルク様のベッド脇に近づく。

この先は見ないでおこう。

それに私は堪えられない。

気配を消して気づかれないように部屋を出た。


「ローゼス、アスタは?上手く行ったのか?」


「アルクは許したの?」


部屋の外にいたアルク様のご両親が口々に尋ねられる。

私はいつもの表情を浮かべ静かに頷いた。

声は出せない、きっと震えてしまう。


「...ありがとうございました」


アスタは数分後部屋を出てきた。

目には涙が止めどなく流れ、満ち足りた物を感じさせた。

[洞察]を使う間でも無い、アスタの心に再び誠実の契りがむすばれたのだろう。


「それでは」


アスタは静かに立ち去る。

これで大丈夫だろう、もうアルク様の為にだけ生きるのは間違いない。

安易に死を望まず、決して隙を見せる事は無い。


「私達も行って良いかい?」


アルク様のご両親は私に聞くが良いに決まっている。

アルク様とまたお話し出来たのだ、フレアの事を考えたらもう充分だ。


私が頷くと急いで部屋に入られた。

部屋の中からご両親の絶叫に近い声聞こえる。


アルク様は何て愛されているんだ。

私の両親との違いに胸が苦しくなる。

結局は愛されない私、絶望が心を蝕み始めていた。


「...ローゼスちゃん、どこ?」


アルク様の店の片隅で膝を抱えていたら優しい声が聞こえた。

アルク様のお母様の声、気配を消している私がどこに居るか分からない様で何度も呼び掛けている。


どれくらいこうしていたのか、もう数時間は過ぎているだろう。


「はい、どうされましたか?」


私は立ち上がり気配を見せた。

大丈夫だ、涙はしっかり消したし、腫れ上がったまぶたは変装スキルで誤魔化せている。


「ローゼスちゃん、アルクが呼んでいるの」


「アルク様が?」


「ええ、ローゼスちゃんだけ行ってあげて。もう意識が途切れ始めてるの」


「そんな貴重な時間を、お母様達ご一緒に」


「いいえ、私達はもう充分よ。

お父さんもローゼスちゃんにって」


「お父様も?」


「ええ、早く」


お母様に背中を押されアルク様のお部屋に入った。


「ローゼス...」


少し目が虚ろになったアルク様が優しい顔で私を見ていた。


「アルク様...」


「ごめんね、辛いことばかりさせて」


「そんな...」


「ローゼス、何かして欲しい事ある?」


アルク様は静かに尋ねられた。

『して欲しい事』普通に考えたら今から叶えられる事は無い、しかし私はアルク様の意図は全て分かる。


(...何故ならアルク様を愛しているのだから...)


「誠実の契りを...」


「...良いよ」


「ありがとうございます」


私はベッド脇に近づく。

そして、


「「これより誠実の契りを結ぶものなり」」


(わたくし)ローゼスは」


「...わ。わ(わたくし)アルクは」


「「...い、命つ、尽きるまで誠実の、ち、契りを誓います」」


途切れ途切れのアルク様と声を合わせ誓詞の言葉を紡いだ。


「アルク様...」


「...ローゼス」


目を瞑りアルク様に口づける。


満たされていく、心の底から幸せが、今までの絶望が全て洗い流され。

そう初めて交わした、本当に愛する人との口づけ...


「アルク様...」


目を開けるとアルク様は既に眠りに着いていた。

フレアの意識が戻ったのだろう。

もう寂しくは無い。

孤独も無い。


『アルク様、あなた(・・・)と一緒に生きていきます』


そう心に誓った。


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