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ローゼス様と一緒に... 前編

ハンクの叫び声と共にローゼス様が出てこられた。

ローゼス様は何も言わず私の前を歩き始める。


声を掛けようとするがその度に私の方を振り返り軽く微笑まれる。

その姿に私はローゼス様と初めてお会いした日の事を思い出す。


それは王都の学校に入学して間もない頃だった。

田舎から来た私達は王都の貴族社会に馴染めず周りから浮いた存在となり嘲りや虐めの対象となってしまった。

そんな中ローゼス様は公爵令嬢の立場でありながら私達に貴族のマナーや学校で上手く過ごせるコツを教えて頂き本当にお世話になった。


美しさと不正を許さない気高さかを備えたローゼス様が私達の後ろ楯になり虐めは無くなった。

特に姉はローゼス様に懐き(なつ)、私達は充実した学校生活を送る事が出来た。


しかしローゼス様が最上級生の3年生となられたある日を境に彼女は変わられた。

気高さは変わらなかったが何か悩みが有るようで時折涙ぐんでおられた。


噂では酷い神託が下され、その事で婚約を破棄されたと聞いたが一学生に公爵令嬢であるローゼス様の真偽は確かめようが無かった。まさかハンク(馬鹿)がその相手だったとは...


卒業と同時にローゼス様は姿を消され。

その行方は(よう)として分からなかったが、1年後魔王討伐の途中、届いたアルクからの手紙で商会の手伝いをされていると知った時は意外だった。


貴族社会に於いて『商い等下賎な平民のする事』と言われていた(私はそう思わない)。

ローゼス様の実家、ボウモア家は国王の血筋に近い名門貴族、それ故選民意識が非常に高かったのだ。


意外なのはそれだけではない、ローゼス様は今もアルクの事を『アルク様』と慕い、アルクも意識を失う前にローゼス様に商会の全てを託していた。

それだけ全幅の信頼を寄せていたのだろう。

アルクに万が一があればローゼス様も後を追うかもしれない。


『私が魔王討伐に参加していた2年の間に一体何があったの?』

『まさかアルク、ローゼス様と?』

いやアルクだけはそんな事を...でもアスタは...

ダメだ、馬鹿な事を考えるな!


「フレア」


「はい」


「まだ帰るには時間があります、こちらに」


ローゼス様に呼ばれ我に返る。

彼女の言葉に対し『何故?』は無い、私の背筋に緊張が走った。


ローゼス様が部屋の扉の前に立ち、私を見る。

(ドアを開ければいいの?)

ドアノブに手を掛けた。


「おや?」


ドアノブを回すが鍵が掛かっているのか回らない。


「そのまま」


ローゼス様がドアノブに指先を向けられた。


解錠(アンロック)


「え?」


ローゼス様の言葉と共に握っていたドアノブが回る。

(どうして?)

[解錠]のスキルは知っているが、高度な結界で守られている王宮の鍵が開くなんて聞いた事が無い。


「座りなさい」


「はい」


当然の様にローゼス様は中に入り、椅子をすすめる。

何か始まる予感がした。


「聞きたい事は分かってます。アルク様の事ですね」


「え?」


どうして私の考えている事が?

そう言えばさっきもハンクの心を読んでいた。

ローゼス様は[読心]のスキルを?

でもそんな感覚を(心を読まれた)私は受けて無い。


「[洞察(インサイト)]です」


また心を読まれた。

しかし[洞察]とは聞いた事が無いスキルだ。


「[洞察]は相手を観察し、何を考えているか知るスキル。

相手の頭に無理矢理入る[読心]のスキルと違う。

魔力は殆ど使わないから心を読まれている相手は(魔力を)検知する事が出来ないの、だから気付かれる心配はない。

精度を高め、極めるまで大変だったけど」


さらっとローゼス様は言うが私は魔力検知には自信がある。

賢者として討伐で鍛えたのだ、それなのにあっさり心を読むなんて。


「まず私の今までを説明します。

3年前に受けた神託、それは[盗人]です」


「え?」


ローゼス様からの言葉に激しい衝撃を受ける。

まさか、ローゼス様が[盗人]の神託を?

蔑まれ、誰からも信用もされない、それが盗人の神託を受けた人がたどる道。


田舎ならまだ人として生きる道があるかもしれない。

しかし王都は神託が全てと言ってもいい。


「神託を受けた私は家族から学校を卒業したら出て行くように言われました。

そして半年後、無一文で実家を追い出されたのです。

それは何を意味するか分かりますか?」


「それは....」


私は何と言って良いか分からない。

いや分かっている、つまりローゼス様に死ねと言う意味だ。

貴族として、ボウモア家に縁を切られたら盗人の元令嬢等生きていける訳が無い。

王都を離れたくても無一文では街を出る事も不可能。


「そうです、私は切り捨てられたのです。

お妃は私を庇護しようとしましたが、断りました」


「何故です?お妃様は遠縁とは言え親族では?」


「そんな事をしてご覧なさい、盗人を匿ったとして王家に迷惑が掛かります」


悲しそうな顔でローゼス様は続ける。

自分の立場より相手を労る気高さ、私には真似出来ない。


「見捨てられ、頼る事も出来ない、しかし死にたくない。

残された道は1つしか有りません...私は身体を売りました」


「まさか...」


余りに悲しく衝撃的な告白。

ローゼス様が体を?他に道は無かったのか?


「召し使いにも、平民の店ですら雇って貰えない。

それが盗人...」


確かに、盗人の神託を受けた人間を雇う者等いない。

王都では尚更。


「娼館にも断られ...まあ盗難があれば真っ先に疑われますからね。

スラム街で客を取る、それしか出来ません」


「そんな、ローゼス様とボウモア家に知られては」


公爵令嬢のローゼス様が娼婦と知られてはボウモア家は見過ごす筈が無い。

貴族は体面を異常に気にする。

例え追放した人間だとしても、必ず殺しに来るだろう。


変装(ディスガイス)で姿を変えました」


「変装?」


「ええ、盗人も使えるスキルの1つ。

髪の色、顔、全て変える事が出来る

しかし中身は私、体が受ける苦しみ、悲しみは変装しても変わりませんが」


「ローゼス様....」


「そんなある日、私は捕まりました」


「捕まった?」


「スラム街に於ける不法売春の摘発、性病娼婦の取り締まり。

既に体中を性病に蝕まれていた私に逃れる術は有りませんでした」


「.......」


「泣かないでフレア」


余りにも過酷な話に私の目から涙が止めどなく流れる。

賢者の神託で受けた私の運命より苛烈で...


「療養所に収容され変装を剥がされた私は体を治す事となりました。

そんなある日現れたのがお妃です」


「お妃様?」


「療養所の責任者が貴族専門の医師だったの、絶望していた私は気づかなかったけど。

それで私に気づいた医師がボウモア家からの暗殺を恐れてお妃に」


良かった、これで漸くローゼス様が救われたんだ。


「違うわ」


「え?」


「お妃は私の話を聞いて体を治した。病気だけじゃなく体の全てを元に。

そう、男を知る前の処女にね」


「それなのにどうして?」


どうして救われなかったと思うのか?

これで身体は元に戻ったのに。


「身体が元に戻ったと知った私が抱いた感情、それは絶望でした」


「な、何故です?」


「また身体に負担が掛かる、せっかく苦痛を受けず全ての客の欲望の相手が出来るまでなったのに...そう言う事です」


私は甘い、身体だけ治っても心が治らなければ意味が無いんだ。


「絶望する私にお妃が言いました。

『辺境の町から最近商売を広げる為に王都に出てきた男がいる、その者は神託に対する偏見を持たない人だから手伝いませんか?』と」


「それってまさか?」


「そう、アルク様よ」


そうか、こうしてアルクはローゼス様と知り合い2人は、


「フレア、私が最初アルク様に抱いた感情が分かりますか?」


「それは...信頼ですか?」


「違うわ、殺意よ」


「な?」


アルクに対して殺意?

何故、アルクは信用に足る人間と思えなかったの?


「『神託に偏見を持たない人?

そんな人がいる筈が無い、そんな人が商売を?

きっと絶望した人を助けると言って雇い入れ、裏では奴隷の様に働かしている。

許さない、殺す、殺してやる』と私は愚かな考えを」


身体を売っていた告白より辛そうに苦しそうに話すローゼス様、そんな事の連続だったのだろう。


「約束の場所は粗末な宿屋の食堂でした。

アルク様は私を見て微笑まれ、

『ごめんね、僕みたいな駆け出しの若造がって思ったでしょ?

でも勝算はあるんだ』って、

私の殺意を受けながら全く気にする素振りを見せず熱く語りだしたの」


「アルクらしいですね」


アルクは昔からそうだ。

人の話を聞くのも、語るのも一生懸命でそれが心地よくって私も...あいつ(アスタ)もその時間が大好きだった。


「気付けばアルク様に対する殺意は消えて話にのめり込んでいた。

もちろん洞察のスキルは最初からアルク様に使っていた。でも...」


言い澱むローゼス様、その先は言わずとも分かります。


「アルクに裏は有りません」


「私は自分を恥じました。

本当にアルク様は私を信用している。

初めて会った私を、盗人の神託を受けた私を、殺意をぶつけた私を...」


ローゼス様の目に涙が浮かんでいた。


「それがアルクですから」


ローゼス様に私は笑い掛けた。


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