3. 召喚の儀 ー1
帝国の歴史において、四大公爵家は特別な存在だった。
北・南・東・西。それぞれの領地を治め、帝国の根幹を支える四つの家門。
その血を引く者たちは、生まれながらにして膨大な魔力を有し、複数の属性魔法を扱う才能を持つ。
そして、四大公爵家には、代々受け継がれてきた特別な存在があった。
――魔導具。
それは、持ち主に新たな力を与えるものではない。
もともとその者が持つ魔力や能力を、より高い次元へと引き上げるためのもの。
魔導具を持たずとも魔法を使うことはできる。しかし、真にその力を引き出すためには、魔導具との契約が必要となる。
興味深いことに、魔導具は人の手によって受け渡されるものではなかった。
持ち主となる者が定められた儀式に臨むとき、初めてその姿を現す。
誰が、どのような形の魔導具を召喚するのか。
それは本人にも分からない。
ただ一つ確かなのは、魔導具は自らの意思で主を選ぶということだった。
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「ロウィナ、準備はいい?」
「もちろん。エルバートこそ、忘れ物はない?」
「ないよ」
「本当に? この前、手袋を忘れていたでしょう」
「あれは忘れたんじゃない。必要なかっただけだ」
「ふふ、それならいいけれど」
ロウィナは鏡の前で最後の身だしなみを整えた。
銀色の髪が肩のあたりで揺れる。
濃い青の瞳は澄んでいて、落ち着いた印象を与える一方、その表情には明るさがあった。
隣に立つエルバートも、同じ銀髪に同じ濃い青の瞳。
一卵性双生児である二人は、顔立ちも驚くほどよく似ている。
けれど、雰囲気は少し違った。
エルバートは穏やかで、口数は多くない。
対してロウィナは、落ち着いた性格でありながら、時折おちゃめな一面を見せる。
「それにしても、今日でようやく魔導具が決まるのね」
「そうだな」
「どんなものが召喚されるのかしら」
「ロウィナに合うものなら、何でもいいと思う」
「できれば素敵なものがいいわ」
「贅沢だな」
「一生付き合うものかもしれないのよ?少しくらい希望を持ってもいいでしょう?」
エルバートは小さく笑った。
「そうだね」
ロウィナも満足そうに頷く。
今日という日を、二人とも楽しみにしていた。
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中央神殿。
帝国の中心に位置するその建物は、四大公爵家の召喚儀式を執り行うために設けられた特別な神殿だった。
その最奥にある始祖の間には、すでに各家の当主たちが集まっていた。
「お、来たね」
最初に声をかけてきたのは南の公爵家の後継者エリオ・ルフェーヴルだった。
グレーの髪に紫色の瞳。柔らかな表情を浮かべ、自然と周囲を和ませる雰囲気を持っている。
「おはよう、エリオ」
「おはよう。二人とも、今日はよろしくね」
「こちらこそ」
「緊張してる?」
エリオがロウィナに尋ねる。
「少しだけ。でも、楽しみの方が大きいかな」
「それならよかった。僕も同じだよ」
エリオは優しく笑った。
続いて、少し離れた場所から声が聞こえた。
「おーい、もう始まるの?」
金色の髪に赤色の瞳を持つ、西の公爵家の後継者ルーファス・ベルドレイン。
「まだだよ」
「そっか。じゃあ、もう少し座っていてもいいかな」
「ルーファス、さっきからずっと座っているだろう」
東の公爵家の後継者ノア・オブリエンヌが淡々と返す。
黒髪に緑色の瞳。落ち着いた佇まいで、自然体な雰囲気を持っている。
「細かいことを気にするね」
「君が気にしなさすぎるだけじゃないか?」
「ひどいなあ」
「事実だろう」
ルーファスは肩をすくめた。
ノアはそんな彼を見て、わずかに口元を緩める。
「まあ、今日くらいは大人しくなることを祈ろう」
「努力するよ」
「期待はしないでおく」
そのやり取りに、ロウィナがくすりと笑った。
「二人とも相変わらずね」
「ロウィナまでそんなことを言うの?」
「ふふ、ごめんなさい」
そんな会話を交わしていると、やがて始祖の間の奥にある扉が開いた。
「全員、こっちへ」
北の当主レナードの声が響く。
五人は表情を引き締め、中央の祭壇へと進んだ。
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始祖の間の中央には、巨大な円形の魔法陣が刻まれていた。
その周囲には四大公爵家の紋章。
天井には古代文字が刻まれ、壁面には歴代の当主たちの名が並んでいる。
しかし、魔導具の姿はどこにもなかった。
それも当然だった。
ここに召喚される魔導具は、儀式が始まるまで姿を現さないのだから。
「これより、召喚の儀を執り行う」
レナードの声が響く。
「お前たちも知っている通り、魔導具によって固有の能力はあるものの、持ち主に新たな力を与えるものではない。お前たちが生まれながらに持つ力を、より高い次元へと引き出す存在だ」
五人は静かに耳を傾ける。
「魔導具を持たずとも、お前たちは十分な力を持っている。しかし、それを極限まで引き出すためには、魔導具との契約が必要となる」
レナードは一度言葉を切った。
「そして、魔導具は人が選ぶものではない。お前たちが召喚したとしても、契約が成立するとは限らない」
「選ぶのは魔導具自身、ということですね」
ルーファスが確認するように尋ねた。
「その通りだ」
「なるほど。なかなか気難しい相手というわけだ」
「君が気に入られるかどうかは別の話だが」
ノアがさらりと言う。
「それは今から確かめればいいだろ」
「楽しみだな」
レナードは二人のやり取りを咎めることなく、続けた。
「それでは、一人ずつ中央の魔法陣へ。己の魔力を解放し、魔導具を召喚してみなさい」




