4. 召喚の儀 ー2
最初に進んだのはエリオだった。
彼が魔法陣の中央に立つと、足元に刻まれた紋様が淡く輝き始めた。
エリオは目を閉じ、静かに魔力を解放する。
その瞬間、紫色の光が空間の一角に集まり始めた。
光は次第に形を成し、細長い輪郭を描いていく。
やがて、一本の槍が姿を現した。
銀色の装飾が施された柄に、紫の宝石を埋め込んだ穂先。
槍は空中に浮かび、エリオの前で静止した。
「……これが」
エリオが手を伸ばす。
槍は彼の手に触れる直前、一度だけ強く輝いた。
そして、吸い寄せられるように彼の手へと収まる。
紫色の光が彼の身体を包み込み、すぐに消えていった。
「選定が完了した」
南の当主が告げる。
エリオは槍を見つめ、少し驚いたように目を瞬かせた。
「すごいな……」
「おめでとう、エリオ」
ロウィナが声をかける。
「ありがとう。ロウィナも頑張ってね」
「うん」
エリオは穏やかに笑い、槍を手に祭壇の脇へと下がった。
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次に進んだのはルーファスだった。
彼が魔法陣に立つと、今度は赤い光が集まり始める。
光は小さな粒となって宙を舞い、やがて一つの輪郭を形作った。
現れたのは、中央に赤い宝石をあしらった銀の腕輪。
細かな装飾が施されており、上品でありながらどこか華やかさを感じさせる。
「へえ……」
ルーファスは興味深そうに眺めた。
腕輪がゆっくりと彼の前へ移動する。
彼が手を伸ばすと、腕輪は自然に左腕へと収まった。
赤色の光が広がり、彼の魔力と共鳴する。
「これは、なかなかいいね」
「気に入った?」
エリオが尋ねる。
「もちろん。見た目も悪くないし、使い勝手もよさそうだ」
「失くすなよ」
ノアが言う。
「俺を何だと思っているの?」
「さあ」
「少しは考えてよ」
ロウィナは二人のやり取りを見て、楽しそうに笑った。
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三人目はノアだった。
彼が魔法陣の中央に立つと、今度は緑色の光が周囲に広がった。その光は細く、鋭く、空間を切り取るように集まっていく。
やがて、一本の細身の杖が姿を現した。
先端には透明な結晶があり、その内部には緑色の光が流れている。
装飾は控えめで、無駄のない洗練された形状だった。
ノアは静かに手を伸ばす。
杖は一度だけ淡く輝き、彼の手に収まった。
同時に、周囲に小さな光の粒が浮かび上がる。
「……なるほど」
ノアは杖を眺めていた。
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残るは北家の双子だった。
「エルバート」
レナードに呼ばれ、エルバートが前へ進む。
魔法陣の中央に立ち、静かに魔力を解放した。その瞬間、周囲の空気がわずかに震えた。藍色の光が集まり、彼の目の前で一つの形を成していく。
現れたのは、銀の長剣だった。
装飾は少なく、無骨でありながら気品を感じさせる。柄には青白い宝石が埋め込まれている。
剣は空中に浮かび、エルバートの前で静止した。
彼は迷うことなく柄を握る。
瞬間、剣から魔力が溢れ出した。
その魔力は荒々しく見えながらも、エルバートの魔力と共鳴することで、驚くほど整った流れへと変わっていく。銀の刀身に青白い紋様が浮かび上がった。
「選定が完了した」
レナードが告げる。
エルバートは剣を見下ろし、静かに頷いた。
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最後に、ロウィナが魔法陣の中央へ進んだ。
始祖の間にいる全員の視線が、自然と彼女へ集まる。
銀色の髪が背中で揺れる。
ロウィナは一度だけエルバートを振り返った。
彼は何も言わず、静かに頷いた。
大丈夫。
そう言ってくれているようだった。
ロウィナは微笑み、正面へ向き直る。そして、ゆっくりと魔力を解放した。
足元の魔法陣が輝き始める。最初は淡い光だった。
しかし、次第にその輝きは強くなり、藍色の光が空間全体へと広がっていく。
「……これは」
レナードがわずかに目を細めた。
光は一か所に集まり、ゆっくりと形を作っていく。
現れたのは、銀細工が施された懐中時計だった。
中央には藍色の宝石。文字盤には針がなく、星のような小さな光が浮かんでいる。
他の四人の魔導具とは異なる、不思議な雰囲気を持っていた。
懐中時計はロウィナの前で静止する。
「……綺麗」
彼女は思わず呟いた。
その瞬間だった。
――ドクン。
胸の奥で、大きく何かが脈打った。懐中時計の宝石が強く輝く。
次の瞬間、藍色の魔力が一気に溢れ出した。
「……っ!」
光は祭壇を包み込み、天井へと伸びていく。
始祖の間に刻まれた古代文字が、一斉に輝き始めた。
その場にいた全員が息を呑む。
「ロウィナ!」
エルバートが声を上げた。
ロウィナの魔力が急激に膨れ上がっていた。彼女は生まれながらにして、同年代の誰よりも大きな魔力を持っている。その量は、時に自身の制御能力を超えてしまうほどだった。
しかし、懐中時計から溢れた光は、彼女の魔力を拒むことなく受け止めていく。まるで、最初からその力を知っていたかのように。
そして、次の瞬間。
膨れ上がっていた魔力が、静かに収束した。
藍色の光がロウィナの身体を包み込み、やがて懐中時計へと吸い込まれていく。最後に一度だけ強く輝くと、すべてが静寂に包まれた。
ロウィナの手には、懐中時計が収まっていた。
「……大丈夫?」
エルバートがすぐに駆け寄る。
「うん。少し驚いただけ」
「本当に?」
「本当よ。ほら、ちゃんと立っているでしょう?」
ロウィナは少しおどけたように笑い、懐中時計を持ち上げた。エルバートは彼女の顔を確かめるように見つめたあと、ようやく息を吐く。
「……ならいい」
「心配してくれたの?」
「当たり前だろ」
その言葉に、ロウィナは嬉しそうに笑った。




