第8章(恋多き母の悲劇)
なのに、母には祖母の愛情は伝わっていなかった。祖母が結婚し、弟ができると、
家族の中での疎外感は母を孤独にした。愛情に飢え、優しくしてくれる学校の先生のもとに
居座って帰ってこず、問題になったこともあったそうだ。年頃になると、
彼氏の家に入りびたりだった。
モデルデビューしたのも十二歳の頃だった。中学から上京し、モデルとして活躍していた。
過労で病院に運ばれ、数年間関西にいた時、大学生と恋に落ちた。
そして、妊娠、失恋。それでも出産した男の子は、祖母の子として育てられていた。
それが信彦兄貴だった。
明菜の母、静は恋多き人だった。いつも恋人がいて、一途に愛するタイプだった。
信彦を必死で産んだのに、仕事が忙しいことをいいことにして、祖母に任せきりだった。
表面的には独身だった静に言い寄る男性は実際多かった。
スポンサーになってくれるという財閥の息子や、ベンチャー企業の若手実業家などと
浮名を流していたのに、カナダからの留学生でモデルをしている貧乏学生と恋に落ちた。
そして、明菜ができた。
「結婚しよう」という言葉を信じて明菜を産んだ。しかし、それから音沙汰もなく、
探したが行方は分からない。待てど暮らせど連絡はなかった。
仕方なく静は、関西に子どもたちを預け、モデル業で生活費を稼ぐしか方法はなかったようだ。
これからの生活のことを考え、シングルマザーのほうがよいとの判断で、
明菜は静の子どもとして認知された。
たった三年の間に、母にどんな心境の変化があったのだろう。
兄を産んだ時は未成年だった母も、明菜を産んだ時には成人していたからか。
恋もし尽くして、家族の絆に目覚めたのだろうか。成人を迎えたというだけで、
親や社会に対する見方が変化したのか。それとも、迎えに来ない父への思いを、
明菜を自分の子として認知することで断ち切りたくなかったのかもしれない。




