第7章(家族の秘密)
いつの頃からだっただろう。兄貴のような存在が、当たり前のように家に住みついていた。
いつもいるわけではないが、ふと気づくと、普通に夕食を一緒にしていたり、
テレビを見て爆笑したりしている。
ある日、生まれた時の写真を見ていたら、その子が写っていた。明菜を膝の上に抱いている。
「おばあちゃん、この写真に写っているの、誰なの?」
と聞くと、「ああ、それは信彦兄ちゃんや。明菜が二歳前の頃だったかなあ。
交通事故で亡くなってしまったんやけど、明菜は小さかったから覚えてないやろね」と、
切ない顔をして話してくれた。母が高校生の時にできた子で、
祖母が母親ということにして養子縁組をしたため、母の弟扱いになっている。
母の相手は、大野総合病院の息子だった。相手もまだ医大生だったこともあり、
堕胎を求められたらしい。それでも母の静は、モデルを続けながら密かに産んで育てようとしていた。相手とも別れ、東京で一人暮らしをしていた。つわりもひどく、
祖母が母を見つけた時には、母子ともに危ない状況だったらしい。
祖父は、母の本当の父親ではなかった。母の本当の父親は、
アメリカ人だったらしい。戦後の貧困と混乱の時代に何があったのか、祖母は語らない。
シングルマザーの辛さを一番理解していたのは祖母だったから、
母の出産を阻もうとしていたのだ。
なのに、母は言った。
「生まれてこなければよかったって、ずっと思われていた子の気持ちなんて、
お母さんには分からないでしょう? たとえ父親がいなくたって、
その分、私が愛して幸せにしてあげる」と。
子どもを産む意思は強かった。
祖母も、「娘がいてくれたから乗り越えられたことも多かった。つらかった日々も、
娘に十分なことをしてやれなかったという後悔はあるものの、
子どもの成長を見るのは楽しかった」と、
母の幼い頃のエピソードを語ってくれたものだった。




