第65章(誤解が解けて)
明菜は祖母の元に居を移した。貧乏な市営住宅に人気女優が住んでいるとは誰も思わない。
気配を消すのは昔から得意技なのだから。 剛はあれから、萎れるように身体が枯れていった。
そして、魂だけでなく、身体も死亡と告げられた。 葬式も密やかに行われたらしい。
電話で、剛の霊が赤ちゃんと対面して昇天してしまったことを由紀奈にだけ告げた。
「でも、もうすぐ会うことができるから大丈夫。楽しみにしてね」とだけ言っておいた。
もうすぐ臨月という時、祖母の家の前に外車が止まっていて、中から由紀奈が出てきた。
その胸に赤ちゃんを抱いて。どこから見ても立派なママだった。車を運転していたのは透だった。
「どうして、電話も繋がらないし、行方をくらましているの?」と言って、
明菜のお腹の膨らみに気づいた。 「まさか? どういうこと? 相手は誰なの?」と声が沈んでいた。 「父親の名前は言えないけれど、きっと魂は剛君だと思う。生まれたら、一緒に遊ばせようよ」 と
快活に言ったのに、由紀奈の顔は涙でぐちゃぐちゃに崩れていた。思わず笑ってしまって叱られた。 「涼兄貴はどうなるん? ずっと明菜ちゃんを捜して、
ティファニーの婚約指輪を買って渡す日を楽しみにしていたのに」と。
「えっ、茜さんと結婚式を挙げたのに、もう別れたの?」と聞く。
「茜? 結婚って? 黒田さんとに決まっているじゃない? 学生時代から付き合っていたから。
茜の家も資産家で、一人娘だから、次男坊の黒田さんを婿養子にして
病院経営に乗り出していたんじゃない。涼兄貴が外科、黒田さんが内科でタッグを組めば、
西井家、小泉家の将来も安泰だって、両家喜んでいたじゃない?」と。
突然の、初めて聞いた信じられない話に明菜は混乱していた。
「涼兄貴は、明菜ちゃんにやっと愛の告白ができて結ばれることができたって、
次の再会を楽しみにしていたのに。他の男性の子を孕むなんて、信じられない」 と
興奮状態なので、透が車から降りてきて由紀奈を制していた。
「そうだよ。その子は剛の生まれ変わり。そして、涼君の子供なんだよ」 と、
いつの間にか隣に立っていた信彦兄貴が暴露した。 「だから、俺は明菜の、そんな所が心配で、
いつまでたっても昇天できないんじゃないか」 と、溜息をついている。
「茜さんと涼さんが結婚するのだと思い込んでいて、ごめんなさい。
もうすぐ生まれる子は、由紀奈ちゃんの赤ちゃんと従弟になるのかな?」と恥ずかしそうに呟いた。




