第62章(焼肉を食べる間柄)
「本当だ。身体が暖かい。いつも内臓が冷えていて、動いていないのに。あーぁ、お腹が空いた。
何か美味しい物、食べに行こう。何が食べたい?」と聞かれて、 「お肉がいい」と言うと、
目を輝かせて 「いいね。神戸牛を食べに行こう。とびっきり贅沢なのを。
治療費として経費を使ってやる」と、ぐんぐん明菜を引っ張って焼肉屋さんに連れて行った。
汚いお店だったけど人気で、予約がなければ断られていた。なのに、
涼の顔を見たマスターが出てきて、奥の部屋に通され歓待された。
「ここのマスターの手術をしたのは俺なんだよ」 「多分、ほとんどの医者は嫌がって
断るような難しい手術だった。大動脈破裂って知ってる? 石原裕次郎が死んだことで有名だよね。
運ばれた時は破れかけていて、開いた時は血の海だったんだ。でも、ラッキーなことに間に合った。
しかも、最強の医療スタッフが揃っていた時だった。アメリカから最高位のドクターが
訪日していたし、一緒に専門の麻酔医まで揃っていた。西井家が医療機器を初めて輸入して、
実用実験をするために集まっていたんだ。 そういう意味で、奇跡を起こした超ラッキーな
マスターにパワーをもらいたい時は、ここで肉を食べることにしているんだ」 と、
日頃は出してもらえない希少部位を含め、聞いたことも食べたこともないハネシタやイチボ、
ゲタカルビなどの部位を次々に出してもらって、モリモリ食べた。
涼も、明菜の食欲に驚いてご機嫌だった。初めての味に驚嘆しながら舌鼓を打っていたら、
いくらでも食べられた。 「モデルをしているのに大丈夫?」と笑われて、
「今はデブモデルが少ないから、転向しようかな?」 と口の周りにタレをつけたまま喋るので、
涼は思わず 「可愛いね」と呟いていた。 「何だか新鮮だなぁ」と、
ほろ酔いしている明菜の肩を抱いた。 「明菜ちゃん好きだよ」と耳元で囁かれて、
溶けてしまいそうになった。その後のことは覚えていない。
目が覚めたら西井家のゲストルームで眠っていた。 「また、やらかしてしまったのか?」




