第59章(奇跡は起こせるのか?)
「一度、身体を離れた霊魂は膨張してるから、入れないのよ」と、明菜の声も混じる。
「そうだったんだ。じゃあ、医学が進歩しても治らないってこと?」 と由紀奈が落胆する。
「奇跡は起こすものなの。諦めたらおしまい。この状況を楽しむくらいの気持ちで、
それぞれが研究、追求するべきだと思うけど」 そう言って明菜が目を覚ますと、
剛の声はしなくなった。 「今日は、このくらいでいい? 疲れちゃった」 そう言って、
明菜はソファーに倒れるように身体を投げ出した。 「想像以上にエネルギー取られるね。
ちょっと休ませて」 目を閉じる。 その傍に座った涼が、愛おしそうに明菜の髪を撫でる。
由紀奈も、動かない剛の体の横に座り、手を優しくさすっていた。何かつぶやいている。
「愛してる。生きているうちに言ってあげたら良かったのに。ごめんなさいね」と
言っているようだった。 小一時間して、明菜が目を覚ました。
「病気って、医者が治すと思う?」と涼に聞く。 「いや、治せない病気の方が多いから、
力不足をいつも嘆いている」とか細い声で答える。 「私たちヒーラーだって同じだよ。
だいたい病気を創り出しているのは頭なんだって。だから思考を変えれば健康になれるし、
人生も変わるらしいよ。奇跡を起こすのは、自分だけなんだから。だいたいエネルギーを拒否して、
病気になりたがっている人って多いんだよ」 由紀奈が悲しい表情になったので、
ハッとして言い直す。 「でも、不遇な事故や運命的な障害などは、どうしたらいいんだろうね。
神様の意思? 自分を高めてくれる試練? どれも真実かもしれないけれど。
ただ、中にいると、そうは楽観できないよね」 そう言って、溜息をついた。
だいたい我が家に次々と不幸が押し寄せて来るのも、私にそれを克服できる器があるからだと
他人は言うけれど、そんなに強くないし、何でもわかっていると思われると負担になる。
霊感があるのも、モデルや女優になっているのも、自分が望んだことではないし、
辛いことの方が多いんだけど。そんなこと、誰にもわかるはずがない。
沢山諦めて来たせいか、自分が何者で何を望んでいるのかもわからなくなって、
ただ日々流されている。お金のために、仕事もしないといけないし。
出来るだけポジティブに物事を考えようとすればするほど、
自分の心に嘘をついているのが耐えられなくなる。 涙も枯れ果てて、
能面みたいな顔になっているのがわかる。 涼が心配そうに顔を覗いて来た。
そこで、明菜はひと息入れて笑顔を作る。
「とにかく、できるだけのことはして、それから方法を色々試すしかない。
植物人間でも、意識が戻った人はいるんだから」と努めて、明るく振る舞った。




