第58章(剛との別れと再会の予感)
次の日も明菜は剛の病室にいた。由紀奈も涼も、息を飲んで見守っている。
昨日の出来事が夢だったのでは、と思えるくらい、剛の状態は変わらなかったからだ。
そうなると、本当にあれが剛の言葉だったのか。心に疑惑が湧き上がって来る。
話の途中で、明菜が突然蹲ってしまい、話は中断されたままだった。
明菜には、その時の記憶がない。なので今回は、録音して欲しいと頼まれているのだ。
依頼されて霊媒になったのは、今回が初めてだったそうだ。 部屋に入ると、
早速明菜は剛のベッドの横に立ち、頭に手を当てた。目を閉じ、エネルギーを当てている。
少しして、ベッドの向こうの誰もいない空間に話しかけた。
「頭は順調に治っているし、身体も異常ないみたい。でも、霊魂が離脱してしまって戻れないのね。
剛君も、ここに留まっているのは大変でしょう? また、私の身体を貸すから、
由紀奈ちゃんと話をしてみて」 そう言って手のひらを前に差し出した。
剛の魂がその手に触れると、明菜が一瞬、倒れるように座り込んだ。
二人が息を飲んで見守る。 「由紀奈ちゃん、ごめん」 そう言って立ち上がり、
振り向いた目は大きく見開かれ、剛の面影があった。
声も低く、イントネーションはどことなく広島弁訛りがある。
「剛なの?」 由紀奈が駆け寄り、不思議そうな顔で見ていると、急に抱きすくめられた。
「あぁ、どんなにこうして抱きしめたかったか。由紀奈ちゃんの匂いだ」 耳元で囁かれると、
身体が明菜のものだということを忘れてしまいそうになる。
たくさん話したいことがあったのに、何も言葉が出なかった。
「何もかも知っとるけぇ、大丈夫。何も話さんでも。ずっと一緒にいたんじゃけぇ」
剛が広島弁丸出しで言ったので、思わず笑ってしまう。
そのおかげで、心の扉が開いた。 「まさか、お風呂までついて来てないわよね」
いつもの由紀奈のツッコミが健在だった。
「病院にいる時だけに決まっとる。家まで着いて行ったらストーカーじゃけん」と戸惑っている。
「でも、明菜ちゃんがいなければ会話できないなんて、不自由よね。相談したいこと、
いっぱいあるのに。頭の中、真っ白。でも、安心しちゃった。ありがとう。もう一度、ギュッとして」 そう言うと抱き寄せられ、額にキスをしてくれた。
「明菜ちゃんの体を貸してもらっているから、口にするわけにはいかないよね」と由紀奈が笑う。
「涼さんも見とるけん」と剛の霊も言って、体を離した。




