↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/67

第57章(霊査で剛の思いを伝える)


「早く由紀奈の所に行ってあげないと。剛君の想いを本人から聞いてもらいたいから。

涼さんも近くにいてもいいと思う。あらかじめ、剛君にも聞いてみるけど」 と、

ポルシェに乗り込み、先を急いだ。忙しいことが救いだった。

病院に行くと、そこには由紀奈がベッドの脇で、剛の手を握ったまま眠っていた。

涼が肩を揺すぶって起こす。目が覚めた由紀奈は明菜の姿を見つけて、

嬉しさに小躍りしながら抱き着いて来た。 「会いたかった。また綺麗になって。ドラマ見たよ。

別人みたいやった。遠くの存在になったようで寂しかったけど、来てくれて夢みたいやわ」 と

賑やかな様子に、明菜も応えて明るく振る舞う。 腕の包帯の跡が、彼女の病んだ心を物語ってはいたが、 「お兄ちゃん、ずるい。迎えに行くなら連れて行って欲しかったのに。

一刻も早く会いたかったの、知ってるくせに」と責める。

「今日はポルシェしか空いてなかったんだ。二人乗りだから無理だったんだ」と釈明している。

明菜は、由紀奈の横に立っている剛の姿を認めて聞いた。 「私に乗り移って欲しいんだけど、

やり方わかる? あと、涼さんも近くにいて大丈夫?」 涼と由紀奈は、始まったことを理解したようで、顔が神妙になっていた。 「本当に、僕の姿が見えるの?」 と剛の霊の顔が輝いていた。

「魂が体から離脱した日、私の所に来て、話をしたじゃない?」 と言うと、

「忘れてた。こんな体になって、どう扱えばいいのか、わからないことだらけで。

明菜さんのことを思い出したら、行けたのだけど。夢だったような気もしてきて。

本当に来てくれたんだね。ありがとう」 と言って、お互い手を合わせると、

明菜の中に剛が入って行った。 一度蹲ったが、やがて低い声がした。喋り方が剛そのものだった。

「剛なの? 私がわかる? お腹には、剛の子供がいるのよ。私に何があっても育ててみせるから、

大丈夫だからね」 せっかちな由紀奈を黙らせるかのように、ギュッと抱きしめる。

「本当に剛なの?」 言葉は、すでに涙声だった。 「ごめん。こんなことになっちゃって。

でも、ずっと僕は君の傍にいたよ。泣き叫ぶ姿や、自殺未遂をしている君を止めることもできないで、

苦しかった。 あの時、僕が救急車で運ばれて緊急手術をした時、

君の心臓が止まって僕の元に来てくれたね。とっても嬉しかった。やっと抱きしめることが出来て、

二度と離れたくないと心から愛おしくて仕方なかった。このまま連れて行けたらと頭をよぎったよ

。 でも、君のお腹には僕の赤ちゃんがいたんだね。『パパ、ママを連れて行かないで』と諭されて、

諦めたよ。いや、希望が湧いたんだ。この世に、僕の生きて来た証がある。

君と愛し合った日々が息づいている。それだけで、どれほど幸せなことだろう。

多分、僕の体にはもう戻れないと思う。でも、もうしばらく一緒にいたい。

子供を抱くことさえ出来たら、もう充分だ。他にいい人を見つけて結婚してもかまわない。

君の幸せだけを祈ってる。 子供は僕の母が育ててくれるって言っている。

まだ五十歳前なので、自分の子でも通用すると言って喜んでいたよ。

だから、産んで欲しい。君が忘れるまでは近くにいるから。明菜さんには悪いけど、

こうやって、たまに話すことができたら嬉しいな」 言いたいことだけ言って、消えた。

明菜の体力を配慮してからのことだろう。由紀奈は、その日、明菜の胸の中で泣いた。

「このブラウスは、二人分の悲しみの涙を吸ってあげた記念になりそう」 と

微笑ましく感じたのは、何故だったのだろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。