第45章(ヨットの上での恋のかけひき)
涼が予め手配してくれていたのだろう。由紀奈と剛、山野と利絵、涼と明菜を同じグループにしてくれていた。一緒にヨットに乗る。 涼との距離が近い。ヨットも恋も初心者なので、明菜はてんてこまいだった。なのに涼は、 「また一段と綺麗になったね。」 と言う。 ベースを演奏していた透がそれを聞いて茶化す。 「またまた、涼さんは手が早いんだから。ちゃっかり一番美人に声かけちゃって。」
涼は声色を変えて、俳優みたいに格好をつけて、
「由紀奈の親友。俺の大事な家族みたいなもんなんだから。手出ししたら容赦しないぜ。」 と
石原裕次郎の真似をする。
「ヨットと言えば裕次郎か加山雄三だと思って、ビデオの見過ぎでしょ。」 と透が突っ込む。
「明菜ちゃんには古すぎてわからんやろ?」 と呆れ顔。 涼と透のギャグも、心地よかった。
風に吹かれて、湖水の上には若者たちの恋がスイレンのように花開いていた。
陸に上がると、足元が危なくて倒れそうになった明菜の肩を涼が抱いてエスコートした。
「コラ! 馴れ馴れしい。油断も隙もあらへんわ。」 と、由紀奈が涼の頭を叩く。
「痛っ! 久しぶりの涙の再会やで。生の明菜ちゃんだから、つい」 と言い訳している。
肩を抱かれて顔が真っ赤になっているのが分かる。嫌ではなかった。むしろ嬉しかった。
でも、このままどうしていいか分からない。冗談で済むほど器用ではなかった。
特に涼の前では。 女好きとか、スケコマシだと聞いても、あの日からずっと恋している。
肩を抱かれた時のムスクの香りが、あの時の甘酸っぱい初恋の思いを蘇らせる。胸が痛い。
できるだけ笑顔で、涼のアプローチをかわす。 何度かヨットに乗ると、余裕も出てきた。
ヨットの上では風が心地よかった。 涼はヨット部の先輩に指示され、
右や左に体重移動したりと忙しい。ヨットがすれ違う時、由紀奈の姿を見て大声で怒鳴っていた。
「てめぇ! 俺の可愛い妹に手を出したらただではおかないから。覚えてろよ。
何で、剛と一緒じゃないんだ? 同じチームにしてやったはずなんやけど。」 と首をかしげていた。
陸に上がると、由紀奈がキレていた。 「ほんまキショい! 涼兄貴が怒鳴ってくれんかったら、
湖に沈めてやったわ。」 ヨット部の部長が、グループ分けを無視して由紀奈のチームに乱入して、
剛と離されてしまったようだ。
「西井涼の妹だと知って、いきなり身を翻して離れてくれたから良かったけれど。」 と怒っていた。
剛の優柔不断なところにも腹を立てているようだった。 涼はモテていた。
いつも女性に囲まれていて、ゆっくり話すこともできなかった。
明菜も他の男子から何人もアプローチされたが、涼のことばかり気になって断ってばかりいた。




