第38章(明菜の霊感を才能だと認めてくれる親友)
次の日、剛が自転車で横転して足を打撲した時も、「明菜ちゃん、治せる?」と呼びに来た。
「早速?」と昨日の話を思い出す。
「ちょっとした打撲とか捻挫くらいなら、手当てで治せるよ。ほら、みんな忘れているけれど、
手からはエネルギーが出ているんだよ。小さい子がお腹が痛い時、お母さんが手を当ててあげるだけで治ったりするでしょう? あれは、お母さんの手から癒やしのエネルギーが出ているせいなのよ。」
と教えてあげた。
仕方なく、痛みで立ち上がれない剛の足を、そっと両手で包むようにして念を入れる。
手が熱くなる。そして、その熱さが消えたので、「どう? 立てる?」と剛に聞く。
不思議そうな顔をして剛は立った。「本当だ。痛みがなくなった」と首をかしげる。
足首を見ると、腫れは消え、少しの赤みが打撲の痕跡を残すだけだった。
「どんなマジックを使ったの?」と涼も驚嘆する。
「すごいや。こんなことができるんだったら、僕らのような医者はいらなくなるよ。」
と医学部生の二人は困惑していた。
「まさか。エネルギー療法で治せるものもあるけれど、西洋医学でしか治せないこともある。
病気は自分の体で治すものなのに、何かに助けてもらうのはいいとしても、
依存しすぎるのはどうかと思う。」と厳しい顔になった。
「何より、死なない人はいないからね。」と皆の緊張を解くかのように微笑む。
「お兄ちゃんたちも、将来困った時は明菜を頼るといいよ。
化学や医学では治せない不可思議な現象に何度も遭遇しているらしいから。」と由紀奈が夢中になってしゃべりまくる。
「そういうことが生まれてきた使命なら、役に立てて嬉しいけれど。医者でもないから、大切な人のためだけに、この能力は生かせたらいいなぁって思っているだけ。あんなに二人だけの秘密だって言ったのに。」と少し怒ってみせる。
「ごめんね。つい。兄貴も剛君も、このことはナイショにしてね。」と懇願している。
涼の態度がどこかよそよそしくなったのは、この時からだったと思う。
「何だか神々しくて近寄り難い気がしてね。」と後で言っていたらしい。
「つまりさぁ。スケベな気持ちになれないってことだよ。」と久しぶりに信彦兄貴が横に立って
囁いてきた。
「だいたい、明菜だけじゃないからね。今は何人もの女性と付き合ってる。そんな遊び相手の一人だと思われるのも嫌だし。よかったんじゃないの? お母さんが僕を産んだ年に、可愛い妹も浮気男の毒牙にかかるなんて、我慢できないからね。」と言った。
「そんなこと嘘よ。知りたくなかった。」と明菜は失恋に泣いた。
由紀奈の口から純子との仲が悪くなったことを聞いても、以前のようにテニスに一緒に興じることは
なくなった。あのティアーズドロップ(涙の雫)のネックレスだけは、
由紀奈との友情の印として肌身離さず身につけていた。
涼の胸で泣いた思い出は、切ない初恋のワンシーンとして胸の奥に封じ込めた。
爽やかな風にスカートをなびかせながら、テニスのスマッシュの音が心地よい。軽井沢の日々がセピア色に変わる頃、ひとときの贅沢な至福の季節を懐かしく思い出すこともあるのだろうか。




