第33章(涼と明菜のプラトニックラヴ)
勉強していても、涼に教えてもらっていたシーンが思い出される。
「きれいな字を書くんだね」と、涼は明菜のノートをのぞき込んでいた。
頭を上げると、すぐ近くに涼の顔がある。息がかかりそうなくらい近くにあったので、
胸がドキリと跳ねた。あっという間に耳まで赤くなっていた。
「なんか、いい香りがするね」と、鼻をクンクン鳴らしている。
問題を解いている指が、震えているのが分かる。
「かわいい」と、涼が頭をなでる。その瞬間、由紀奈の怒声が響き、
「痛っ」と言って、涼の体が離れる。
「うちの親友に襲いかかるの、やめんかい!」と。
「助かった」と思う気持ちと、残念な思いが交差する。
「いいとこ邪魔してごめんね。でも、純子とまだ付き合っているのに、手を出すなんて、
馬鹿にしてると思って、我慢できんかった。今度、この埋め合わせはするから許して」と
謝られると、素直に頷いて笑顔で許していた。
自分を大切に思ってくれている友の気持ちが、嬉しかった。
冗談で、食事の時も、涼の態度を両親に告げ口していた。
「勉強教えてって言ったけど、女と見れば口説くの、やめてくれる?
大事な友達なんやから、家に来てくれんようになったら、どうするつもりなん?」と。
「いやいや、そこにきれいな花があったら、つい蜜に群がりたくなるのは、男の性でしょ」と、
父親に同意を求めるように視線を送る。
「本当に、明菜ちゃんがいるだけで、食卓が華やぐね」と、
ビールですっかり上機嫌な父が、満面の笑顔で答える。
「本当に、どうして男って美人に弱いのかしら。いい年をして、娘の友達にデレデレ。
見ていられないよね」と、母親も呆れている。
「仕方ない。今日のお詫びに、明菜の誕生日プレゼント、買ってもらおうかな」
と、由紀奈が言うと、父母が同時に反応した。
「いつ、誕生日なの?」と聞かれ、
「来週の水曜日だったっけ」と明菜に聞くので、
「えっ。そんなの、いいです。誕生日なんて、お祝いしてもらったこと、一度もないし……」
と困った顔をする。だが、父親は逆にそれが信じられないというように、
「お母さん、来週、明菜ちゃんの誕生日。お店予約して、みんなで祝ってあげようよ」
と言う。
「そうね。最近、フレンチはずいぶんご無沙汰だもの。予約しておくわ。
明菜ちゃん、フレンチで大丈夫?」と言う言葉を遮ったのは、由紀奈だった。
「ママも、明菜の誕生日のおかげで、フレンチ食べられるん、
楽しみなんやから、悪いなんて思わなくていいんよ。
私だって、明菜が生まれてきてくれた日を、お祝いしたいもの」
「明日は日曜日だから、百貨店で誕生日のお祝いを、涼に選んでもらって、
買ってもらうといい。パパのカードを渡しておくから。遠慮しなくても、
ドーンと任せて、好きなものを選んでいいから」と、父もデレデレ。
「私も、何か買ってもらおうかしら」と、母親も便乗し、断ることもできないくらい、
話が盛り上がっている。
「私のために、悪いわ」と、由紀奈に言うが、
「私も、ついでに何か買ってもらおう。大丈夫。明菜の誕生日は、
我が家のイベントスケジュールに、これから組み込まれたってわけ。
ずっと一緒に、お祝いできたらいいな」と、優しい目で、
心を温かく抱きしめてくれる。思わず、目が熱くなる。
「一緒に、お風呂入ろうよ」と由紀奈が言うと、
「いいね。ご一緒してもいいかな」と、涼が会話に乱入してくる。
「このスケベ。あっち行ってよ。うちらの話に、入ってこんといて」と言って怒る。
「明日は10時には家を出るから、夜遅くまでおしゃべりしてたら知らんで。
明菜ちゃんと二人でポルシェでドライブ、嬉しいな」と言う涼に、
「ポルシェやったら二人乗りやん。私は?」と由紀奈が噛みつく。
「えーっ。俺が頼まれたんやから、由紀奈もついて来るなんておかしいやろ」と応酬する。
「ポルシェは彼女しか乗せないんとちゃうん?」と言う由紀奈に、
「美人は特別」と、からかうように言って部屋を出る。
「純子と別れたのは嘘じゃないみたいやな。最近、純子にフラれたみたいやわ。
大学生になって疎遠にはなってたみたいやけど。だからって、ねぇ。
嫌やったら断っても構わないから。私がバシッて言ってやろうか?」と言ってくれる。
涼と二人だけでドライブなんて、どうしていいか分からない。
いつも由紀奈が冗談を言ったりしているから笑いが絶えないが、
二人きりだとつまらない女だと嫌われるかもしれない。
「でも、二人きりの方がいいかもね。そろそろ」と、ニヤニヤ顔。
「兄貴のこと、好きなんやろ?」と言われて赤面してしまう。
「ほんまに明菜は分かりやすい性格やな。」と笑われてしまう。
ベッドに入ってからも悩んでいた。




