第31章(隠せない思いに揺れる心)
「兄貴、何かしたやろ? 明菜は清純なんやから、不純な菌で汚さんといてよ」と噛みつく。
「ちょっと手がぶつかっただけ。人をばい菌みたいに言うのは、よさんかい」
と言い合いもお笑い系で、思わず明菜も笑ってしまう。
「こんな可愛い妹だったら、良かったのに」と涼が、明菜に訴えるように言った。
「妹としてしか見ることができないんだ……」と思うと、へこんでしまう。
由紀奈は、そんな気持ちを察してか、涼と一緒にいる時間を無理やり作ってくれたりする。
「兄貴、少しは可愛い妹たちの勉強、見てくれたってええんとちゃう?」と言って、
リビングで勉強を教えてもらえることもある。
「へぇ。明菜ちゃんって、優秀なんやね。何で、由紀奈なんかとつるんでるんや?話、合わんやろ?」
と感心されると、嬉しくなる。
「何言ってんの? 明菜は特待生なんやから、学年でトップクラスの成績なんやから医学部狙いの兄貴よりも、賢いかもよ」と言われると、
勉強ができるのが、恥ずかしいことのように思われて、赤面してしまう。
後で、「明菜はタイプじゃないん?」と涼に由紀奈が聞いたら、いやいや、相手にされんやろ?」
と笑い飛ばされたらしい。男は、高級料理よりも、手軽なおでんの方がいいらしい。
特に、受験を控え、恋愛などは頭にないようだ。純子と付き合ってはいるが、
好きかというと、疑わしいらしい。自分に好意を持ってくれる女の子は、
邪険にできないと言う。不安な年頃の涼にとって、
純子の励ましに、結構救われているのも事実のようだった。
そして、見事、京大医学部に現役合格した時、
ご褒美に、純子はあろうことか処女を捧げたのだと聞いた。
高校二年生の夏の話だった。しかし、純子には二股、三股疑惑があった。
大学生になって目が届かないのをいいことに、同級生の男子や、
予備校の夏期講習で一緒だった男子と付き合っていると、もっぱらの噂だった。
由紀奈の耳にも入り、直接、純子に詰め寄ったところ、
涼兄貴に泣いて訴えられ、逆に二人の距離を縮めてしまったという、苦いエピソードもある。
大学生になった涼は、水を得た魚のように生き生きと大学生活を満喫するようになり、
自然と純子とは疎遠になったようだ。
神戸と京都という距離や、高校生と大学生という環境の差も大きかったようだ。
何より、大学生になって涼はモテモテで、
よりどりみどりの遊び人になってしまったようだった。
由紀奈から涼の噂を聞くたびに、胸がざわめいた。
「だから、恋愛なんてしないって決めてたのに。私は母のようにだけはなりたくない」と、
苦々しく自分の心にくさびを打つ。
会わなければ、忘れられる。




