第30章(明菜の秘めたる初恋)
明菜は由紀奈の兄の涼ばかりが、気になって仕方なかった。
同級生の純子と付き合っていると知った時のショックは、想像以上だった。
利絵も同じ気持ちだったのだと、その時知った。
「あんなカマトトの女の子に騙されるなんて、信じられない。」
と悔しがっていた。同感だったが、恋慕の気持ちを悟られないよう、
黙って気持ちを抑えていたのに、由紀奈も利絵も明菜の気持ちを知っていて、
からかうばかりだった。
「明菜は綺麗過ぎて、男どもは高嶺の花だと諦めてんの。
本当に根性なしなんやから」と怒っていた。
「純子なんかが姉貴になったら、家出してやる」
なんて極端なことを言って、笑わせてくれていた。
涼と目が合うだけで赤面して、何も話せない。
きっと、面白くない女だと思われているに違いない。積極的な純子が羨ましい。
次々に目当ての男の子と付き合っては別れ、すぐに新しい彼氏をゲットしている。
涼も、純子といると会話も弾み、楽しそうに見えた。それほど美人ではないが、
仕草が可愛い。男心をそそる声や目つきが、いやらしいのだ。
女性から見ると、作られた嘘っぽいキャラなのに、男の子は気がつかない。
あんな鼻にかかった甘えたような喋り方が、アイドルの子のようで可愛く映るのだろう。
「あーっ。気持ち悪い。あの声を聞くたびに、かゆくならへん?」と同意を求めてくる。
利絵も、純子の声色を真似て、「涼先輩、待ってー。もう、意地悪」
なんて言って、三人で爆笑する。
褒めて、褒めて、褒めちぎり、甘えてくる純子に、涼もまんざらではないらしい。
まめな手作り弁当やクッキー、ハートのチョコレートにほだされて、
公認のカップルになってしまった。
明菜のほのかな初恋は、告白もしないまま、失恋に終わった。
それでも、由紀奈の家で涼と会うと、キュンと胸が締め付けられる。
手が触れるだけで、胸の鼓動が止まらない。




