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第3章(現実世界よりも確かな不思議な世界)


祖父が亡くなって初めて知る事実も、当時二歳の明菜には分からない。

どちらにしても、祖母と母はシングルマザーの苦渋を代々なめ尽くしてきたと

言っても過言ではなかった。そういう意味で、明菜は父親という存在を知らない。

しかも、生まれつき見えてはいけないものが見えていた。

なので、とても密になっている風景の中でも、ほとんどの人が半透明なのを

不思議な気持ちで見ていたのだ。

歴史の本で見たことのある古代の格好をした人々も、

落ち武者のような明らかに怖い形相の人々も、そこにいるように見えるのだから、

受け入れるしかない。しかも、視線がぶつかる。話しかけてくる。体の中に入り込んでくる。

変な妄想を見せようとする。誰が現実の人で、どれがもののけなのか。

幼い自分には分からないまま、下手なことは言わないほうが得策だと学習していた。

一人ぼっちで留守番をしている時も、寂しくなかった。

半透明だが、同じくらいの子どもたちが一緒に遊んでくれたからだ。

途中でおどろおどろしい格好になっても、少しも怖くなかった。

生きている人のほうが怖かった。半透明の人間たちは、自分をつかむことすらできない。

ぶつかりそうになっても、すり抜けていく。ぞわっと鳥肌は立つものの、傷ついたりはしない。

どんなににらまれても、変な姿になって驚かそうとしても、無視することができる。

見ようとしなければ気にもならないし、この世のものではないので、

そもそも関わる必要もないのだ。もしかしたら、見えないだけで同じ空間に意識という

エネルギーが残っていて、それを感知するセンサーが自分にだけ備わっているのかもしれないと、

あれこれ理由を考えた時もあった。やがてそれにも飽き、ありのままを受け入れるようになると、

周囲を気にしながら生きることもなくなった。自分に関わる、

今必要なことだけを優先して生きること。現実にいる人間でさえ、

自分と関わりがなければ透明人間のように見える。来るものは拒まない。

あとは自然に物事が進んでいく。それが、明菜の生き方だった。

だから、誰かを頼ることもなく、一人で生きることを寂しいと思ったこともない。

しかし、触れられない友達は心を癒やしてくれはしたが、

現実世界の暴力を止めることはできない。

ある日、神社の境内で「かごめかごめ」と囲んでいた友達の気配が消えた。

後ろの正面には、恐ろしいロリコン趣味の男が立っていた。下半身を出して迫り来る男に

腕をつかまれ、気を失ってしまった。そして、気がついた時には神主の家の中だった。

「大丈夫かい? 何かされなかった?」

と聞かれても、恐ろしさのあまり記憶を失っていたので分からない。

ただ、服は乱れていたが、体に違和感はなかった。どこも痛くなかったし、

乱暴をされた痕跡もなかった。ただ、変質者の男が悲鳴を上げて逃げていくのを、

神主は見たらしい。それで、「何事か?」と思い、神社の境内に倒れている明菜を

見つけたのだと言っていた。

後で、半透明の友達が「知らないほうが幸せなこともある」と笑って言った。

それから、ピンチの時にしばしば記憶が消えるようになった。

心理学的に多重人格者ではないかと疑い、診断を受けに行ったが、

催眠療法でも他の人格は出てこなかった。




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