第2章(次々と押し寄せる家族の災難)
母には十歳離れた弟がいた。そして、本当は母の子なのだが、
祖母の子どもということになっている五歳くらいの男の子が同居していた。
ある年の冬、突然の車の事故で祖父とその男の子が亡くなった。急な雪で車輪を取られ、
六甲山で追突事故が発生した。視界が悪く、ブレーキも効かないため、
車が次々に玉突き事故を起こした。前と後ろの車に挟まれ、全員即死状態だったらしい。
いきなり家族の男性陣がいなくなった。母もモデル業を休んでいた時期だったため、
突然収入が絶たれた。しかし、事故によって保険金が入ってきた。
祖母も落胆しながら、「祖父たちの最後の贈り物だ」と言って、
感謝しつつ悲しみを堪えていた。そういう理由で、唯一の働き手である母は、
ゆっくり休んでいるわけにはいかなくなった。
母は再びモデルに復帰した。東京に住まいを移したため、
明菜はモデルをしている母と離れ、大阪の祖母のもとで育った。
それでも、明菜には相変わらず、亡くなったはずの祖父や男の子の姿が見えていた。
心配そうに祖母や母に寄り添っていた。
なぜ、交通事故で命を失うのか。不思議に思って尋ねたことがある。
「運命なんだよ。だから悲しまないで。代々、武士の家系で、
前世もそのまた前世も戦で戦い、幼くして命を失ったのだから。
平和な時代に生まれたから、今世こそは長生きできると思っていたけど、
もっと以前に幼い子どもたちを惨殺したことの報いなのか。
あの時の戦友二人と一緒の死出の旅だ。いつ許されるか分からない輪廻の果てに、
いつかお母さんたちを幸せにしてあげられるだろうか」
一番幼い子どもが、大人顔負けのしっかりとした声で話してくれた。
「明菜、実は僕は君のお兄ちゃんなんだよ。お母さんを助けてあげてほしい。
恋多き人なのに、つかめない悲しい性を持った人なんだ。僕がもう少し長生きできたら、
守ってあげられたのに。どうやったら、この強制終了が解けるんだろう?」
悲しい目で、隣から耳打ちしてきた。
何を語ろうとも、どんなに思いを馳せても、この現実を変えることはできない。
ただ、ある日突然、日常が変わる事故や事件に巻き込まれることがあるということ。
この命は永遠ではなく、幸せも壊れやすいものだということを、
明菜は涙も流さず自然に受け止めていた。まだ幼いため、
祖母や母のように思い出に泣くことがないせいかもしれない。
そして、不思議なことに、体がなくなっても変わらない意識、
魂のようなものがあると分かっていたから、寂しくもなかった。祖母も母も、
男性との縁の薄さを嘆き、運命を恨んで涙が枯れることはなかった。
どれだけ泣いても帰ってこない。どうしようもないことをあれこれ考えても仕方がないのに。
この世に思いを残した魂たちは、なかなか次のステージへは進めない。
ずっといるべきではない場所にとどまっていると、お迎えも忘れてやって来なくなってしまう。
そして、いつの間にか知人たちもいなくなり、どこへも行けず、地縛霊になってしまうのだ。
人も霊も、いつまでも駄目なことに執着し、行動を起こさなければ、人々に嫌われ、
疎まれる存在になってしまうのに。
でも、悲しみに暮れている母たちに、したり顔でそんなことを諭しても、
何の慰めにもならないことを知っている。




