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第23章(松井利絵の華麗なる家庭)


さすが名門の中高一貫校だけあって、利絵の家に招かれた時も驚いた。

生駒の山裾に、リゾートホテルのようなおしゃれな洋館があったのだ。

白亜の大理石でできた廊下もリビングも、ポストモダニズムの有名なデザイナーによって、

異国のような風情を醸し出していた。庭には花が四季折々に咲き乱れ、

庭師がまめに手入れをしているらしい。いつ行っても、落ち葉ひとつなかった。

お茶の師範である母親は花が好きで、

季節ごとの花を愛でたいと庭にバラの挿し木をするらしいが、

翌日にはすべて廃棄されてしまうらしい。父親のこだわりが強く、

計算し尽くされた庭も玄関も、絶対的な美しさをキープしていて、

奥さんの意見など取り入れられないのだと嘆いていた。

部屋の中も白木や白基調のため、汚れが目立つと毎日必死で掃除をしなければならないと

愚痴ばかり言う母親だが、家の中には塵ひとつなく、

まるでモデルハウスのような、絵に描いたようなファミリーだった。

利絵には二歳上の兄がいた。成績優秀で、有名な男子校に通っているらしい。

兄は母親に似て綺麗な顔をしていた。父親も目が大きく、利絵にそっくりだった。

日本的なものが好きな母親は、新しい家を建てるという時、

「ポストモダンだけはやめてよね。できたら、磨けば磨くほど味の出る日本家屋がいいわ。

茶室なんかあったら最高」とリクエストしたにもかかわらず、

夫の趣味で南仏のリゾートを思わせる洋館になったそうだ。

大きな会社の社長で、人の意見は一応参考にするかのようだったが、

自分の中に歴然とした理想像があるらしく、

何ひとつ奥さんの要望は聞き入れてくれなかったらしい。

お互いにこだわりが半端ではないので、二人の漕ぎ手がいるかのようだが、

結局は家族思いで、仲の良い喧嘩。よく聞くと、夫の自慢話にも聞こえるほどで、

そのアツアツぶりに、子どもの利絵も匙を投げているらしい。

自然豊かで、広い庭を眺めるような形で、バーベキューを楽しめるデッキがある。

数十人のパーティーでも対応できる、鉄板やたこ焼き器、おでん鍋をセットできる

大きなテーブルもある。客が来ると、天気のよい日は、

夫が黒毛和牛のバーベキューに奮闘する。

炭火で焼く伊勢エビやアワビなどの魚介類も贅沢だ。

寒い冬には、暖炉でピザを焼いたり、おでん屋さながらの仕切りのあるおでん鍋には、

一昨日から仕込んだと思われるような、茶色に染まった玉子や大根が入っている。

たこ焼きの中身も、和牛やエビ、タコ、ウインナーと、味もいろいろ。

料理上手な利絵の母親は、見せ方も上手い。明菜と由紀奈が泊めてもらった時も、

朝からクレープを焼いてくれて、好きな具材を自分で包んで食べる。

色鮮やかな野菜やチーズ、ベーコンや卵、パルマ産の生ハムやツナなどをくるんで食べる。

最後には、生クリームやバナナ、イチゴ、フルーツにチョコレートソースをかけた、

贅沢なデザートクレープを作ってくれる。フレーバーティーや、

庭にあるミントなどのハーブティーも爽やかだ。

居心地悪そうに早々に席を立つ男性陣にも気を留めず、優雅なひとときを女性陣は楽しんでいる。

豊かな時間。笑顔の絶えない親友たちと過ごす時が、明菜には夢のようだった。

「このまま、ずっと、この幸せが続きますように」と、いつも祈っていた。

貧困な生活しか知らない明菜は、食べたことのない贅沢な食事も、

大きな家も、両親と優しい兄がいる環境も、羨ましくて仕方なかった。

しかし、知らず知らずのうちに無口になる。貧乏を知られないように。

住む世界が違い過ぎて、会話が続かないのも、

おとなしい性格のせいだと思ってくれる友人たちのおかげだと感謝している。




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