第16章(手作り料理で家族団らん)
食事はお手伝いさんを使い、由紀奈の母が腕を振るっていた。
家庭的な和食が多かったが、一枚一枚和紙で包まれた極上の牛肉のしゃぶしゃぶやすき焼きなどは、
まるで料亭にでも行ったようにお洒落で美味しかった。
「こんな美人と食卓を囲めるなんて、幸せやなぁ」と飲み過ぎる父親と、
次々に料理を勧める母親。恥ずかしそうにちらりと見る、無口な由紀奈の兄・涼。
眩しいほどのオレンジ系の照明に照らされた食卓は、どこかの映画のワンシーンのように、
完璧な幸せな家族の形をしていた。
由紀奈の家に遊びに行くようになって、幸せな家庭の味を明菜は初めて味わうことができたのだ。
本当は、明菜にも涼兄さんと同じくらいの年の兄がいたはずだった。
一度も経験したことはないが、約束どおり父がカナダから母を迎えに来てくれていたら、
こんな風に家族団らんの幸せな食卓を甘受できたのかもしれないと思うと、悲しくなった。
『美しくて賢い母なのに、なぜこんな苦渋を経験する羽目になったのだろう。
なぜ男運が悪く、子どもができると捨てられ、
シングルマザーで孤独に世間と闘わねばならなかったのだろう。
由紀奈の父親のように、経済力があって優しい男性と結婚していたら、
これほど贅沢ではなくても、幸せな家庭で笑って生活することができただろうに』
そう思っても仕方のないことだが、由紀奈の家族も食卓も、
今まで経験したことのない世界で、明菜は夢心地だった。




