08.
魔王城リノベ計画がスタートした。
「といっても、具体的にどうする?」
レオニダスたちは食堂を会議室代わりに使うことにした。
「宿に必要なものといえば、まずは清潔な住環境、次に美味しい料理! そして温泉! かな」
「やけにすらすらでるな……」
「前からちょっとやってみたいなって思ってたから」
ふむ、とレオニダスからうなずく。
「いずれにせよ人手がいるな」
「そこは問題ないよ! ゴーレム達が居るからね」
土塊から作ったゴーレムたちが背後に控えている。
セシリアの呼びかけに応じるように、ぐっ、と親指を立てた。
「彼らに掃除や洗濯を任せるということか」
「そういうこと。そのために必要なものをまずは作るわ」
セシリアたちは厨房へと移動する。
広々としたキッチンは、長年放置されていたせいで酷く傷んでいる。
『うわぁ~。油汚れが酷いねこりゃ』
真理が壁に近づいて言った。
確かに、べったりとした油汚れが壁に染みついている。
レオニダスが指をこすってみたが、びくともしなかった。
『キッチンには油汚れはもちろん、客室や部屋にもシミや虫食いがある。清潔とはほど遠い有様だね』
レオニダスは真理をしげしげと眺める。
『なにさ』
「君は凄い精霊だな。見てなくても、まるで見てきたかのようにわかるだんなんて」
『へへん、よくわかってんじゃーん。そう! 真理は凄いのだー! 叡智の力は、調べたい情報を何でも検索できるだんだよーん!』
「おお、まさに神のごとき力……すごいな、君の相棒は」
『おほほーい、なんだよぉ、良い奴じゃん。疑ってめんごめんご~』
真理はレオニダスをすっかり気に入ったようだ。
(いや、でもあんためんどくさがって検索ほとんどやらないじゃないのよ……なにが神だ、まったくもう……)
とはいえ、今は真理への不満を言う場面ではない。
「調和の魔力をそのまま使っても、綺麗な状態にはならないの、だからちょっと工夫しないとね」
聖女の魔力の特性は調和——周囲と同じ状態に戻す力だ。
汚れた場所があっても、周りが清潔であれば清潔な状態へと戻せる。
しかしこの城は隅々まで汚れてしまっているため、調和の力が上手く作用しないのだ。
「工夫とは一体なにをするのだ?」
「石けんを作ります!」
「……は? せ、石けん……? 石けんとは、貴族が高値で売ってる……あれか?」
この世界の文化水準は、中世ヨーロッパ程度。
機械化はすんでおらず、石けんを量産するような体制は整っていない。
ゆえに、石けんは高級品として扱われていた。
「そう、聖女の魔力をプラスした、特別な石けんを作る!」
「なるほど……しかしどうやって?」
「うちには叡智の神様がいるからなぁ~。ねー?」
すると真理が『いやぁ~』と照れくさそうに言う。
『真理さんをそんな、都合の良い道具にされてもこまるなぁ。まあ? 叡智の神に、知らないものはないですけどぉ?』
(真理もおだてりゃ木に昇るってね)
真理が石けんの材料、および作り方を指示する。
『必要なのは動物の脂、貝殻を砕いて焼いたもの、そして海藻を焼いた灰をを水に溶かして抽出した物』
それぞれ、油、アルカリ、炭酸ナトリウムだ。
「貝殻なんてあるの?」
『ちょっと距離あるけど、海はあるから。ただ荒海だから、セシリアが飛び込むのは難しいだろうね』
セシリアは特別な魔力と知識は持っているが、体力は人並み……というかそれ以下だ。
彼女はか弱い乙女なのである。
「採取は俺に任せてくれ」
「レオニダス? 大丈夫なの?」
(さっきまで呪いに掛かっていたはずなのに……)
するとレオニダスはニヤリと笑う。
「君に傷を治してもらってから、なんだかとても体調が良いのだ。獣化!」
彼が魔力を解放すると、体が二倍に膨れ上がる。
そして、見上げるほどの大きな狼へと変貌を遂げた。
『神狼フェンリルだね。いにしえの時代に居た、伝説の獣』
「……ど、どうしてレオニダスは、そんな姿になれるの?」
『特別な変身能力を持ってるようだね』
ああ、とレオニダスがうなずく。
『もっとも、修練を積まねばこの姿にはなれない。俺もこないだまではできなかった』
「じゃあ、どうしてできるように?」
『それは君の魔力のおかげだろうね』
聖女の魔力は、レオニダスの魔力コントロールの流れすら、整えてしまったようである。
『この姿なら数刻も掛からず海に行って、必要なものを取ってこれる』
「そっか……。じゃあ、お願いね!」
『任せてくれ!』
ふっ、とレオニダスは煙のように消えた。
窓が開いており、そこから風が吹き抜けている。
「目で追えないほどの速さで動けるなんて……すごいなぁ……」
『いや、いや。ご謙遜を。上手くコントロールできなかった魔力を操れるようにしたんだから、凄いのは君だよ、きーみ』




