07.
レオニダスと友達になってから、数時間後。
「見事だな……あのボロ城が、すっかり元通りだ」
セシリアたちは城の食堂にいた。
壁や天井に開いていた穴はすっかり塞がっている。
「聖女の魔力……調和の性質か。恐ろしいな」
ゴーレムで破片を集め、そこにセシリアが魔力を流す。
その結果、破損箇所が周囲と調和し、穴が塞がったというわけだ。
「調和の魔力を流せるの、私だけだから、時間かかったけどね」
破片集めは、ゴーレムたちに手分けしてもらったが、それ以外の作業にはセシリアがどうしても必要となる。
「それでもモノの数時間で廃墟から城に戻すことなんて、到底不可能だ。やっぱり君は凄い」
「ど、どうも……」
(なんだかむず痒いなぁ。前世でも今世でも、あんま人から褒められたことなかったし)
勇者は終始、技能なしのセシリアを馬鹿にしていた。
いくら活躍しても一切褒めてくれることはなかったのだ。
(友達同士でこんなに褒めるもの……? 何か目的があって? でも別に、悪い人じゃあなさそうだし……うーん……)
『で、これからどうするんだい、セシリア?』
真理がふよふよと隣に漂いながら、尋ねてくる。
「これからの生活のこと考えないとね」
『そうだよ。今は住む場所だけ整った状態だ。暮らして行くには、衣と食も整えないといけないよ』
古着であれば、今回みたいに調和の魔力で直すことはできる。
しかし食となると話は別だ。
「食っていくためには、どうして金が要るだろうな」
レオニダスの意見に、セシリアも同意する。
「食べ物もないし、植物を育てるにしても種もないものね」
真理は追加説明する。
『それに、この土地、作物を育てるのに適してないからねー』
「そこの精霊の言う通りだ……」
セシリアは納得する。
「だから魔族は人間の世界に侵攻しようとしたんだね?」
「……いや、叔父は単に人間が気に食わないから、人を殺そうとしていたんだ」
(ろくでもない理由だったー!?)
ナハトから聞かされていた、魔族は敵理論も、あながち間違えではなかったかもしれない……。
しかしそれは魔族全体というより、先代魔王個人の問題だったのだろう。
「……すまない」
「なんでレオニダスが謝るの? 全然悪くないよ。悪いのは前の魔王! それにもう終わったことじゃん? 過ぎたことは考えない!」
ねっ、とセシリアは笑顔を向ける。
「そうだな。セシリアの言う通りだ」
『で、どーすんのさー。真理としては、ここで農耕とかやるより、商売を始めた方がよさげーって思ってるよ』
「商売って、何を売るの?」
『そりゃここでしか買えないものだよ。セシリアの魔道具とかね!』
セシリアの魔道具作りの腕はかなりのものだ。
それを売ればかなりの利益が望めるだろう。
『魔道具を作って、余所に売りにいけばいいよ』
「いや、やめておいた方がいい。その場合、セシリア、君の命に危険が及ぶ」
真理とセシリアがそろって目を丸くした。
「どうして……?」
「君は、世界一の悪女となっているからな」
「あ、悪女ぉ!?」
(一体全体どういうことっ?)
真理が叡智の力を使って、検索を開始する。
そして、『たしかにー』と軽い調子で応えた。
『どうやら、ナハトのアホが嘘を広めたみたいだね。セシリアは、魔族に魂を売った悪女だって』
「なっ!? なにそれっ! どうしてそんなことを……?」
『セシリアを始末する口実が欲しかったみたいだね』
何の落ち度もない人間を殺すわけにはいかない。
だから、魔王に魂を売った裏切り者、という扱いをしたのだろう。
理屈はわかるが、納得できなかった。
(ほんとナハト、酷すぎっ。もー! はぁ……。もういいや。過ぎちゃったことだし)
「私が作った魔道具を、レオニダスが売るのは?」
「俺は魔族だぞ? 同じ理由で難しいだろう」
「そっか……」
つまり、この場所から出ることは大きなリスクを伴う。
かといってここで物を作って売うにも、そもそも人が来ない。
「理想は、私たちがここから出ず、客が向こうからやってくる感じの商売やったほうがいいかもね」
「そんな商売なんてあるのか……?」
セシリアの脳裏には、前世で見た光景が流れた。
ずっと、いつかやってみたいと思っていたことだ。
「魔王城をリノベして、宿にするの!」
「!? り、りのべ……? なんだ?」
「綺麗にして、人が泊まれるようにするの。素晴らしい宿に変えて、お客さんが向こうから来るようにする!」
これなら、セシリアらが外に出ずとも、収益を得ることができる。
「今のところ、これがベストかなって」
「……わからなくはないが、客など来るだろうか? こんなところに」
すると真理は『来るよ』という。
『ここは歴史的建造物でもあるからね。観光目的でやってくる人もいるだろうし。それに、近くに魔物の森があるから、そこにやってくる冒険者相手に商売するという手もある。周囲に宿がないからこそ、やれば儲かるよ』
「宿……上手くいくだろうか……」
「いくいく! いくよ!」
「なんだかやけに押すな……」
「だって、ずっとやってみたかったんだもん。古民家を改装して、民泊やるとか、古民家カフェとかっ!」
自分の心のままにやりたいことをやる——セシリアのモットーが、ここでも発動したらしい。
「まあ、現状金になるようなものは、セシリアの魔道具と彼女の魔力だけだ。俺に代案があるわけでもないし……」
「じゃ、決定だね!」
こうして、魔王城リノベ計画が幕を開けたのだった。




