06.
レオニダスに服を着せた後、セシリアは言う。
「ごめんなさい、勝手にこの魔王城を、拠点に使おうとしてしまって……」
レオニダスは次期魔王、すなわちこの城の持ち主だ。
彼の許可なく手を加えることも、住み着こうとすることも、本来であれば許されない。
セシリアが謝ると、レオニダスは微笑んで、静かに首を横に振った。
「気にしないでくれ、セシリア。俺は確かに次期魔王だが、叔父から王位を継いだわけじゃない」
「ということは……」
「この城は叔父のもの。だが、叔父は死んだ。他の魔族たちも、どこかへ去って行った。ここは空虚な箱でしかない」
「…………」
レオニダスは周囲を静かに見渡し視線を落とした。
どこかさみしそうに、セシリアには見えた。
(同胞も、親も、誰も居ないんだもの。さみしくて当然ね……。なんだかかわいそう)
魔族は人類の敵だと、セシリアは教えられていた。
理解の及ばない怪物だから、討ち滅ぼすべきだと、人は、勇者は言う。
しかし今にも泣き出しそうな表情をしている、目の前のレオニダスを、セシリアは怪物とは思えなかった。
(私だって、同じ立場だ。30年後のこの世界に、味方なんて一人もいないし。転生前の知り合いもこっちには居ない……ひとりぼっち)
レオニダスをどうしても、他人とは思えないでいた。
(ほっとけないわ……)
「ねえ、レオニダスさん。もし良かったら、友達にならない?」
「!?」
レオニダスは驚いたように目を見開いた。
(まあ、人間が急に魔族と友達になろうと言われたら、驚くのも無理はないか)
「ちょ、セシリア~。何言ってるのさ」
精霊・真理がチカチカと激しく明滅しながら、セシリアに話しかけてきた。
「こいつ魔族だよ?」
「そうね。でも、それだけじゃない? 私もひとりぼっちだし」
「真理がおるやんかー!」
「そうね。でもこの人には居ないじゃない? それって……なんだかかわいそうだって思ってさ」
レオニダスは目を丸くして、そして、そのまなじりに静かに涙が滲んだ。
「俺に……そんな優しい言葉をかけてくれた人間は、貴女が初めてだ。セシリア」
「…………」
(魔族も涙を流すのね……)
前世、子供の頃にゲームをやったことがあった。
ゲームに出てくる敵キャラは、いくら攻撃しても、感情を見せることはなかった。
怒りも、悲しみも示さず、HPがゼロになったら画面外へ消えるだけだった。
転生して聖女となって、勇者と敵を倒し続けてきた。
どこかゲームの延長のように考えていた。
しかしこの世界はゲームではなく、現実なのだ。
敵だと思っていた魔族にもまた、感情がある。
痛みを感じ、悲しいときには涙を流す。
(……私、少し視野が狭すぎたのかも。どこかの誰かが言った、魔族は悪って言葉にとらわれていたな)
セシリアは決めたのだ。
自分の心のままに、正直に生きると。
(……魔族って、私が思うよりも、普通なのかもしれない。だから……やっぱり)
「どう? 友達になりたいんだけど、私は。貴方と」
「ああ。俺も、君と友達になりたいよ、セシリア」
二人は笑い合うと、互いに、手を差し伸べる。
「改めて、セシリアだよ」
「俺はレオニダスだ」
二人は、友情を確かめ合うように、固く握手を交わすのだった。




