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国王たちが去った後、セシリアは目を覚ました。
「……ここは」
「気がついたか?」
パーティリーダーのケンが、セシリアに問いかける。場所はホテル・リライト内の倉庫だ。この場にいるのはケン、マコ、アーチャー、そしてセシリアと真理だけだった。
「レオニダス……そうだわ! レオニダスは!?」
誰よりも先に、その名が口をついた。ケンが静かに首を横に振る。
「彼は自ら犠牲となって、国王に捕まってしまった」
「!」
頭が、情報を処理することを拒んだ。
(ミズカラギセイトナッテ?)
言葉の意味がわからない。したくない。しかし彼がそこにいないという事実が、嫌でも意味を理解させてくる。
レオニダスは犠牲となって、ナハトのもとへ向かったのだ。どうして。誰のために。
決まっている。セシリアのためだ。自らを差し出して、セシリアを守ろうとしたのだ。
(どうして、私なんかのために……)
魔族は人間の敵とされている。魔族への嫌悪感が誰よりも強いナハトのもとへ連れ去られたとなれば、これから何が起きるかは火を見るよりも明らかだった。処刑。それしか考えられなかった。真理に聞くまでもない。
処刑。殺される。レオニダスが。
「これからどうしよう」
「そんなの、逃げるに決まっているでしょ」
ケンのつぶやきに、真理が呆れたようにため息をついた。
「ナハトに見つかった以上、セシリアがここにいる理由はなくなった」
「しかし精霊さん。フィーネ姫やラスカはどうなる? それに、レオニダスさんは……?」
「フィーネは大丈夫だよ。ナハトの娘なのだから。まあ、ラスカや魔族の方々はしょうがないけどね」
真理はあくまでセシリアの命を優先しているようだった。セシリアが無事ならそれでいいと、そう思っているのだ。
(レオニダスが……死んでしまう?)
三十年後の世界に目覚めて、まだ過去に囚われていた自分に、レオニダスは出会ってくれた。前を向く決意をくれた。聖女としてではなく、女将セシリアとして生きるきっかけをくれた。賛同してくれた。一緒に前を向いてくれた。
そんな彼が死のうとしている。
(世界が私を悪女だと、存在を否定してくる中で、この三十年後の世界で、誰よりも最初に肯定してくれた人が……死ぬなんて!)
「嫌だ!」
自分でも驚くほど大きな声が出ていた。耳が痛くなるほどの声だった。
声に出して、確信を得る。
(そうだ、嫌なんだ。レオニダスを失うなんて)
その理由はあえて口にしなくてもわかっていた。失うとわかった瞬間、胸に穴が空いたような気持ちになった。失いたくないと言葉にしたとき、迸ったあの激情。それがどんな気持ちからくるものか——わかっていた。
「ケンさん。私、レオニダスたち魔族の皆さんを助けたい」
「……ラスカは俺も友人だ。だが、助けるとなると難しいぞ」
相手は国家だ。数人でどうにかなるはずがない。ケンが止めるのも当然だった。しかし。
「ケン。私からもお願い」
「……こちらもだ。セシリアを助けたい」
マコとアーチャーが続けた。マコはセシリアのおかげで、思い人であるケンと結ばれることができた。アーチャーには、自らが信奉する神獣を助けてもらった恩義がある。
「ケンさん。私……大切な人を助けに行きたいんです」
ケンはセシリアに力を貸そうとしていた。しかし真理がぷるぷると震えながら言う。
「ダメに決まっている! 逃げるべきだ」
「ううん、それはできない。レオニダスを取り戻して、ここでまたみんなで宿をやるの」
「そこまでこだわる理由はないだろ!?」
「そうかもしれない。でも私は逃げたくない。新しい人生、前を向くって決めたんだもの。もう逃げたくない」
自分の気持ちを押し殺して逃げるなんて真っ平ごめんだ。大切な場所を、大切な人を守りたい。それがセシリアの偽らざる気持ちだった。
「でもセシリアさん。レオニダスさんを取り戻してここへ戻るつもりなら、またいつか国王がやってきたら意味がないんじゃないか?」
「真理。なんとかして」
「いや、君……なんとかしてって……」
ケンが少し呆れたように言った。肝心な部分を丸投げしているからだ。
「真理はね、私がここをリノベして宿をやるって言ったとき、逃げろとは言わなかった。この子は私のことを案じてくれている。その子が逃げろと言わなかったということは、逃げなくていい理由があるってこと」
真理はまだセシリアに告げていない秘策を、どこかに持っているに違いない。
「……やれやれ。セシリアは目ざといね」
真理が諦めたようにつぶやく。その吐息には、どこか喜びが混じっているようだった。
「そこまでなのかい? レオニダスを、自分の居場所を、そこまで守りたいのかい?」
「うん、そこまで」
「そっか。わかったよ。みんなでなんとかレオニダスたちを救い出してくるんだ。そうすれば、あとはこの真理がなんとかしてあげる」
真理には肉体がない。魔族の奪還はセシリアたちに任せ、自分はこの宿を守るための別の手を打つつもりらしい。
「王城の内部情報は先に渡しておくね」
真理が輝くと、セシリアの頭の中に情報が流れ込んできた。ゲータ・ニィガ王城の内部地図だ。普段は使われていない通路なども含めて、克明に。
これがあればレオニダスのいる場所へはすんなり辿り着けるだろう。あとは脱出するだけだ。それが難しいのだが——。
「こっちは、私に考えがあるから大丈夫」
セシリアが策を披露すると、その場の全員が呆れたような顔になった。
「それは、少し酷くないか……?」
「さすがにそれは……」
お世辞にも行儀がいいとは言えない策だった。しかしセシリアはにやりと笑う。
「どうして? 私は世紀の大悪女なんでしょ? だったらお望み通り、悪女らしく振る舞ってやろうじゃないの!」
セシリアは力強く宣言した。
「レオニダスを、みんなを、そして居場所を——取り戻しに行くわよ!」




